鳥篭の夢

青年期/人食い虎の報復03



「しかし虎・・レイが此処の連中を恨むのは分からないでもないがな」

道中、レイの事を話していると不意にガーランドさんがそう言葉を漏らした。

「本当に悪いのは地主の方だったのだろう?」
「そうですね。不必要な税金は多分、闇組織への上納金だったのかなって今なら思いますけど」
「・・・竜殺しの俺が言えたギリではないが、お前達は恨みを晴らす気はないのか?・・レイのように」

まるで射抜くような目線。
リュウが僅かに俯いて首を横に振った。

「俺は、そういうのは違うと思う」
はどうだ?」
「え?私はほら、さっきズルスルにビンタ一発入れたのでもう良いです」
「・・ふむ?」
「“復讐”なんて名目があれば誰彼構わず傷付けて良いなんて、そんなのおかしいでしょう?」
「そうか・・」

ガーランドさんはゆっくりと頷いた。
だって皆生きてるんだよ?レイもリュウも、ティーポだって絶対に生きてる。
それなのに誰かを殺して良い理由なんて無いと思う。
復讐なんて・・・あんな感情に囚われるのは怖い。
多分それはリュウも同じ。リュウは優しいし、自分の力が世界を滅ぼせる程強いって理解してるから尚更じゃないかな。


「・・・ん?何だろう、アレ」

不意にリュウが何かに気付いて私とガーランドさんも同じ方向へ視線を向けた。
金色の鎧・・あれはウインディアの隊長と兵士の?
そういえば取調べって言ってたし、マクニールが何かしてたんだっけ。
よくよく見れば、その奥からロープで体を縛られて兵士に連れられてくるマクニールの姿があった。その奥から女の子の・・・。

「あれ、ニーナじゃない?」
「え?」

リュウが驚いた様に目を丸くした。
別れる時はあんなに泣いてたのに、元気になったんだなぁって思って少し安心。
背中の翼も小さな頃よりずっと大きくなって・・純白の綺麗な翼。
顔立ちも少しだけ母様の面影が・・・あ、ううん。なんでもない。
それより、王女自ら不正を取り締まりに来たって感じなのかな?でも母様がよくそれをお許しになったなぁ。


「マクニールさんっ!貴方が不正を行っていた事はハッキリしました。
そこでウインディア王の名において、貴方を此処に捕えます」
「ちちち違うっ!わ、悪いのは私ではなくて・・・!!」
「貴方が言っている組織のバリオとサントという人物は心当たりがあります。しかし、彼らは・・・」

「もうこの世にいる筈は無い・・・だな?」

唐突に話に割り込むガーランドさんへ、ニーナ達が驚いた様に視線を向けた。
挨拶代わりに軽く片手を上げる姿にニーナが信じられないような、嬉しそうな顔をしたのが見える。

「ガーランドさん・・?
さんっ!それにリュウもっ!!」
「暫くだな」
「お久しぶり、ニーナ。元気そうで良かった」

ニッコリと笑うと、あの時の事を思い出したのか少しだけ恥かしそうに笑みを零す。
不意に視線をずらせば戸惑う兵士の姿。ヒソヒソ囁く声は多分私の黒い翼に向けられてるんだろう。
私の事を知ってか、黒い翼にかは分からないけど動揺は伝わってくる。
それにニーナが視線だけをくれて大人しくさせた。流石、王女様。

「それで、これが件の地主と言う訳か・・・?」
「は、はい・・」

チラリとガーランドさんが目線をやれば、マクニールは竦み上がった様に動かなくなった。

「その組織とやらには心当たりが無い訳でもない。
まずは早いうちにコイツをウインディアまで連れて行く事だ」
「分かったわ、ガーランドさん。
───皆は、マクニールを連れて城へ戻って」
「え?で、ですがニーナ様・・」

慌てる兵士にニーナは首を横に振った。

「わたしはこれから闇組織の方も調べに行きます・・・・ほら、さっさと行くっ!!」

ニーナが一喝すると渋々と兵士達はマクニールを引き摺って去っていった。
うーん・・これは流石というかなんと言うか・・・力技?
不意に視線を私達へと向けるとニーナはぎゅうっと私に抱きついてくる。

さん。良かった、無事で。
あれからずっと連絡も何も無いから少し心配だったんです」
「言ったでしょう?私達は元気だって。
まぁ、リュウが中々見つからなかったけど・・?」

チラリと視線を向けるとリュウが少しだけ困ったような顔をする。
ごめんごめん、リュウの所為じゃないんだけどね。
それからニーナは私から離れて、ガーランドさんとリュウにそれぞれ指を突きつける。

「さ!説明してもらうわよ?」

うーん・・・本当に強くなったんだね、ニーナ。



「・・・・という訳だ」
「ふぅ・・ん、竜の力かぁ・・」

近くの放牧場で一通りの話を終えると、ニーナは意味ありげに言葉を漏らす。それから膝を立てて額をつけた。

「リュウ。何だか話が大きくって・・なんて言ったら良いのか・・・」
「俺も500年近く連中と戦ってきたが、実は竜の事を何も知らなかった事に最近気付いたばかりだ」

不意にリュウが立ち上がって、それに私達は視線を向けた。

「でも、本当に全てを知りたいのは・・多分、リュウ本人なんだよね」

空を眺めるリュウの姿。平然としているのに、何だか無理をしていないだろうか心配になった。
それに、レイの事も心配。今何処にいるのかは分からないけど、早く追いかけなくちゃ・・・ね。

「・・・わかったわ。で?」

・・・・で?

「ハテナじゃないわよ。
その組織のアジト・・闇市、だったかしら?行きましょう?」
「ニーナも行くの?」

心配そうなリュウの表情もまるで気にしないようにニーナは笑顔になった。

「此処でわたしが色々考えてもドラゴンの事なんて分からないしね。
だったら不正を取り調べるのが先決よ!」

なるほど、そういう事か・・。

「じゃあ闇市に行こうか。ちょっとマクニールが心配だけど・・」
「あ、それなら大丈夫ですよ。
いくらその虎さん・・えっと、レイさんが強くても、お城に入っちゃえば手出し出来ないですよ!」
「・・・・そうだね。じゃあ、私はその道中に兵士さんが襲われない事を祈っておこうかな」

それにニーナは少しだけ困ったように苦笑した。
兵士の数も多いし大丈夫だとは思うけど、今のレイならやりかねない。
闇市へ向かおうと放牧場を出る寸前、ガサリと木々の木の葉が揺れたような気がした。

・・・・・・・・まさか、ね。



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