鳥篭の夢

青年期/人食い虎の報復04



あれから数日かけて旅してきた道を戻り、途中で道を逸れると闇市へと辿り着いた。
初めて来る場所だけど、何だか変。雰囲気が“市場”とは違う気がした。
闇市だってコソコソしてるにしてももう少し活気があるんじゃないかって思う。
嫌な予感。皆より先に数歩進んで、まるでむせ返る様な酷い血のニオイ。

「・・・・何だか様子が変ね?」

ニーナも異変に気付いたと首を傾げる。
それからガーランドさんが顔を顰めた。

「・・血の、臭いだな」
「レイ・・・」

名前を呼ぶけど、多分、目的の人はもういない。
いるならもっと騒然としてる筈だもんね。
傷ついて倒れている人達を治しながら奥へ進んでいくと“闇市のボスはとっくに逃げたんだ”という情報を得た。
“多分、北の関所へ逃げたんだと思う”と言葉を続け、酷く怯えた様子の男をそのままに私達は関所へ向かう事にした。

「レイさんは、マクニールを諦めてこっちに来たんだわ・・」
「昔リュウ達を守れなかった分、暴れるつもりなのだろうな」
「そんな・・・今更そんな事しても、意味無いのに・・」

それは多分、レイだって分かってる筈。
やり場の無い怒りや怨みを発散させようとしているだけだって事。

「それに・・・」

それに?

「そんな事されたら、ボスの取調べ出来なくなっちゃう!!」

ぐっと拳を握り締めるニーナに思わず笑みが零れた。
場に流されずに自分の使命も忘れてないのは偉いと思う。

さん?」
「あ。ううん、何でもないよ。
とにかく北の関所に行かなきゃね、レイを止めなきゃ」
「はい!」
「うん!」

ニーナとリュウが頷いたのを確認して、私も頷いた。

が 闇市を出て橋を渡らずに真っ直ぐ北へと進む。
多分、アレがそうなのかな?目的の関所は案外早く姿を見せた。
もうじきだと思った瞬間、獣の声と大きな影があっという間に通り過ぎて・・・・って、レイ!?

「兄ちゃんだ!」
「急がなくちゃ!」

言いながらも既に足は急いでいた。
どうにか追いつけばそこには胸から血を流す闇組織のボスであろう男とレイの姿。

「───けど、俺は生憎ガキなんでね。
いつでもオイタが過ぎるんだよ」

肩を竦めて、あくまで軽く見せようとしているけど声には殺気が含んでいる。

「レイっ!!」
「・・・・、リュウ。
───なぁ。あの時俺がこれ位強かったら、ティーポは死なずにすんだかなぁ?」

悲しそうな自嘲の笑み。まるで“一生懸命”笑う姿に胸が熱くなる。
やっぱりレイはティーポが死んでると思ってるんだ。
リュウも、私も・・多分死んだって思って絶望して・・・?
でも、そんなのは悲しすぎる。どうして生きてるって信じないの?

「なのに、俺はクダラナイコソドロのくせに、人を傷つけるのが嫌だとかかっこつけて・・・遠慮するほど強くも無いってのに・・・」
「レイさんっ!危ないっ!!」

ニーナの言葉に振り返ると、まるで悪魔のような姿に巨大な斧を持ったボスの姿。
これは私達の明らかな油断。
リュウが剣の柄に手を伸ばしたと同時に、ボスの手に握られている斧がレイに振り下ろされる。
鮮血が飛び散って、悲鳴すら上げる前にレイの身体は吹き飛ばされて岩壁に叩きつけられた。赤い血液が辺りに広がって・・

「レイ・・ッッ!!」

一瞬だけ頭が真っ白になる。直後にレイに駆け寄って、血溜りに座り込んでレイを抱き締めた。
見れば、ボスの嘲笑うような顔が視界に入る。

『“人を傷つけるのが嫌”・・・か?人食い虎が!!
俺達の力は傷つけ、壊し、殺す為に神から与えられたものだっ!!』

言って、まるで睨みつけるようにしながら今度はリュウ達へ視線を向ける。

『お前達はバリオ達を倒したとか言うガキだな。
丁度良い、まとめて面倒見てくれる!』

斧を構えるボスに、全員が武器を構えた。あ・・私も・・・・

「姉ちゃんは兄ちゃんをお願い!」
「あ・・」
、早く治してやれ」
「そうですよ。このボスはわたしが捕まえて見せますっ!!」

何だかやる気のニーナに、それでも言葉が出てこなくて何度も頷いた。
レイを見やって眉根が寄ったのが分かる。
あまりに傷が深くて出血も・・・さっきから身体が何だか冷たい気がして。あれ?血の方が暖かいのは何で?

「レイ?」

名前を呼ぶけど反応は無い。ぐったりとする身体。
精神を集中して、魔法をかけても傷が塞がらない。
・・・あれ?治らない?何で?どうして?
嫌な考えが一瞬頭を過ぎって何度も首を横に振る。

「レイ・・・やだよ?死んだらダメだよ?」

強く抱き締める。怖い、怖い・・。
死んでしまったなんて思いたくない。認めたくない。
・・・嘘だ、レイは死んでないっ!!

───パキ...

不意に何かが砕ける音。それからレイの身体が僅かに動いた気がした。
慌ててもう一度魔法をかければ今度は傷が塞がっていく。
体温が徐々に戻ってきて・・心臓の鼓動も聞こえて・・・・・

「大丈夫?レイ。生きてる・・・?」
「───・・・勝手に殺すんじゃねー・・って」

擦れた声で、そう返事が返ってきて・・・あぁ、良かった。本当に良かった。
何だか、泣きそうな位安心した。

「・・・だって、動かなくて・・ホントに、死んじゃったかと思った・・・・私」
「・・・コイツのおかげか?」

レイが首元から何かを取り出す。それってずっと昔にあげたお守り?
首飾りの先についてる石は欠片しか残ってないけど間違い無いと思う。
あの時からずっと付けててくれたんだ・・・ちょっと嬉しいかも。

「もしかしたら身代わりになってくれたのかもね?」
「・・・だな。で、ミクバの野郎は・・・」

見れば、まだリュウ達の戦う姿。ニーナを庇うようにリュウがドラゴンに変身している。
ふと、私からレイが離れた。
まだ身体はよろけていて、それでも瞳には今までの“復讐”とは違った色合いが覗く。

「・・・レイ?」
「あんなのを弟だけに任せてらんねぇだろ?」

ニヤリと一度笑ってみせて・・レイはワータイガーに変身するとそのままボス、ミクバへと攻撃を仕掛けていった。



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