青年期/人食い虎の報復05
「っち・・・気が、済んだか?・・この人食い虎め。
せいぜいこうやって・・気に食わないヤツを、ぶち殺せば良いぜ?
・・・・ま。生憎、お前の探してるらしい、バリオとサントは・・そこのガキが殺ったみたい・・だが・・・な───」
そう最期に言い残してミクバは事切れた。
静寂と同時に訪れたのは決して和やかとは言い難い雰囲気。
だけど・・ちゃんと説明しなきゃいけないから。
私達はレイと離れ離れになってからの事を簡単に話していく。
私は2人を探していた事を、リュウはニーナとの出会いやバリオとサントの事も。話し終わって、レイの長い長いため息。
「竜の力、か・・・」
ぽつりと呟く言葉。
「そいつで、俺達のカタキはとっくの昔にリュウが片付けてたって事か・・・」
言葉にリュウが俯いてしまった。本当はガーランドさんがトドメを刺したとか言ったらダメだよね?
どちらにせよ、竜の力を使って戦った事に違いは無いんだから・・・。
「俺がしてた事は何だったのかね?
今だってがいなけりゃ死んでたろうし、リュウの助けがなけりゃ勝てなかった。
どうだい?この次は俺とお前とで、俺達を見殺しにしたマクニール村の連中ぶっ殺すってのは?ドラゴンの力があれば一発・・・」
「レイっ!!」
言い終わる前に私は思わず声を上げた。
本気じゃないのは分かってる。分かってるけど・・・・それは言って欲しくない。
リュウが自分の力の事で悩んでるって知ってるから、尚更。
「ちょっと!ウインディアの名に懸けてそんな事は許さないわよ!」
「・・・・嘘だよ」
指を突きつけるニーナにレイが肩を竦めた。
ふいと向こうを見るとガシガシと乱暴に頭を掻く。
「オウガー街道でリュウにやられた時から仇をとるなんて出来そうも無いと思ってた・・。
虎に変身さえすればマクニールだろうが組織だろうが、何でもぶっ倒せると思ってたけど。
・・・・結局俺は虎になる力を使いこなす事が出来ずにやたら暴れてただけだ。そんなのは───」
「そんなのは本当の力ではない・・・か」
ふいにガーランドさんが言葉を継いだ。
「竜の力がもしそんな力だったら・・俺は何の疑いも持たずに竜族を根絶やしにしていただろう」
「あ?竜族は戦争して世界をぶっ壊そうとした。
さっきミクバが言ってた“壊す”力じゃないのか?」
「恐らくは同じような力だろう。ミクバやお前とは桁が違うがな・・・」
「・・・だからっ!リュウは世界を壊したりなんてしないってばっ!!」
ニーナがガーランドさんの言葉に反論する。
小さい頃とまるで変わらないその考え方。でもそれは私も同じ。
思わず小さく笑みが漏れて、それから頷いて同意を示す。
「まぁ、それ位大きな力があるって事ですよね?」
「そういう事だ」
「・・・なんで、そんな危なっかしい力がある?」
「それが分かるのは、竜族の滅んだ今、我等の神だけだろう」
「だから神様に会いに行こうってのか?・・・そりゃ、すげーや」
心から感心する言葉。それからふと口元を歪める。
「・・・だったら、俺もひとつ聞いてみるか?
何故、俺やミクバみたいなヤバイのに力を持たせたのかってな・・・!!」
「兄ちゃん・・」
どこか曖昧だけど、でもどこかホッとするようなリュウの表情。
うん、それは良かった。
「さて・・話も何となく纏まったみたいで良かったんだけど・・・レイ、ちょっと良い?」
「あ?」
───パァン・・・ッ
乾いた音。僅かに余韻を残して、私の放った平手は綺麗にレイの頬に当たった。呆然とするレイ・・と、皆。
ねぇ、気付いてた?それとも気付かなかった?私・・さっきからずーっと怒ってたんだけど?
「ね、姉ちゃん!?」
「・・さん?」
「・・何するんだ、なんて言わないよね?レイ」
「ああ。そうだな」
「言いたい事あるんだけど、良い?」
“好きにしろ”と瞳が訴える。
うん、責められる覚悟が出来てるようで本当に良かった。それじゃあ言うけども・・・
「・・全くっ!!あのね?弟が真剣に自分の力について悩んでるのに、さっきの冗談は無いんじゃないかな?
レイは兄ちゃんでしょ??言って良い事と悪い事だって分かってるでしょ?大切な弟を悲しませてどうするの!?」
お願いだから、家族を傷つけるような事はしないで欲しかったのに・・・。
良く考えればレイだって分かると思うの。
アレだけの強大な力があるって事は、それだけ苦しい思いをする。
それは私よりもずっとずっと理解してあげれる筈なのに・・・。
「それに、どうして家族が生きてるって信じられないの?
勿論ティーポの事もっ!今まで全然情報が無かったから?
・・・そんなの関係ない!!
私だってずっと探しててレイもティーポも情報なんか全然無くって。ずっと見つからなくて・・。
でも、レイとはこうやって会えたでしょ!?
信じてたらきっと会えるんだよ?皆無事でいるんだよ??」
本当はちょっとだけ・・・レイには信じていて欲しかった。
リュウの事も、ティーポの事も、私の事も。
そんなに簡単に死んでしまうなんて思わないで欲しかった。
自分が生きてるんだったら、きっとって・・・。
そう考えられたのは私自身が弱いからなのかもしれないけど、でも───
「もう、さっきからずーっとそんなの・・・・・・・いい加減しっかりしなさい、兄ちゃんっ!!」
言いたい事を全部言い切ってちょっとスッキリ。
まぁ、流石に言い過ぎた気もしなくも無いけどね。
ちょっと悪かったかなって思って顔を見れば、何だか呆れてるように見えた。予想外・・みたいな?
何言われると思ってたの?なんて考えてると、レイはどうしてか楽しそうに咽喉で笑った。
「・・・───く、くく・・あぁ、そうだな。これは俺が悪かった」
「・・?うん、分かってくれたなら嬉しいけど」
その笑いの意味はあまり良く分からないんだけどな。
「あー・・・・・では、とりあえずウインディアを目指そう」
「あ、はい。そうですね」
何だか言い出しにくそうなガーランドさんの言葉。
・・・す、スミマセン、勝手しました。
それからリュウとニーナが互いに顔を見合わせて笑って、それにつられて私も笑う。
でも、レイが無事で良かった。もう一度会えて・・本当に良かった。