青年期/自然界に背く者04
最後の扉を抜けた先。そこにペレット所長はいた。
“お母さんを生き返らせる”“ゴースト鉱と賢樹から作り出したエキス”・・独り言の内容から、変異体を作る理由が漸く分かった。
つまりは死んでしまったお母さんを生き返らせたくてずっとこんな事をしてたんだろう。
それは生命の冒涜で、自然界から外れた行為。ゾクリと寒気が背筋を走る。
見れば、モモとニーナがいち早く所長の元へと駆けて行った。
「ちょっとー、所長!?」
「これは一体何なの!!?」
「っ!?な、何だ貴さ───げっ!モモさんっ!!」
所長はモモの姿を確認して、漸く自分のしている事がバレたのだと理解したみたいだった。
問い詰めるモモに最初は誤魔化して見せるけど、それも無駄だって分かったらゆっくりと後退りながら距離をとる。
「死んだ人を生き返らせる為に、ゴーストを使って変異体を作ってたのね?」
「・・・う、うるさいっ!!!」
更に言葉を重ねたモモに、所長が叫んだ。
「きょ、強化作物は良いって言われたのにっ・・どうしてお母さんに生命を上げるのはダメなんだっ!
大体、この機械を修復したのはレプソル君じゃないかっ!?」
「・・・・え?父さんが??」
所長の言葉にモモが固まる。
モモの父様が・・・人を生き返らせようとする機械を作った?
「君の父上が最初に死んだ奥さんを生き返らせようと、賢樹を切って来て此処に入れたんだぞっ!!」
「そんな・・・」
“ショックが隠せない”
モモはそんな感じだった。私達もただ唖然としていた。
それはモモの父様が発明してた事じゃなくて、本当に生命を生き返らせようとする研究を真剣にしていたっていう事実に・・・。
「あの役立たずの樹木、賢樹の生命力をゴースト鉱を使って利用できる形にした。これは大発明だ!!
・・・なのにレプソル君は“自然に反する”と言って実験をやめてしまった!!
何故いけない?誰だって好きな人が死んだら生き返って欲しいと思う筈だっ!!?」
「所長・・それでも、生命を生き返らせるなんてー・・・」
モモの言葉にも所長は耳を貸す気配はない。
確かに好きな人が死んだら悲しい。私だってレイがもし・・・なんて考えるだけでも恐ろしいし、ミクバの時は本当に気が狂うかと思った。
だけどやっぱり“死んだ”と分かって、それで生き返らせるのは何だか間違っていると思うの。
自然界から外れた存在を作り出す事に、どうしてこの人は何の躊躇いすら持たないんだろう?そう思うと少しだけ怖かった。
・・・・と、所長は白衣のポケットから隠し持っていたらしい薬瓶を取り出す。鮮やかな青色の液体。
「私はやめないぞっ!!聖なる樹木が何だというのだ!
自然に反する・・・?利用できるものを利用して何が悪い!
うふうふう・・・この中には賢樹から取り出した『知』のエキスが入っている」
キュポンッって音を立てて蓋を開けて、それを何の躊躇いも無く・・・・・ぇっ、飲んだっ!?
「ちょっとソレって・・・!!」
飲んだら危ないんじゃないの?だって変異体を作り出すような能力があるんでしょう??
見れば心臓を押さえて蹲る所長の姿。人体には良くないって事なのかな?
「う・・・うふうふう、私は、これで化身して、お母さんを守るぞ・・・邪魔・・させル、モノ・・・カッ!!!」
所長の体が光に覆われて・・・
「───ちっ、っ!!」
「ニーナ、危ないっ!!」
「ぷきぃっ!!」
レイとリュウ、ペコロスが私達の前に出て警戒の姿勢を見せる。
勿論ガーランドさんも無言で前に出ていた。
眩い光の中から現れたのはキノコのバケモノ?傘の部分がまるで脳みたいで見た目が、ちょっと・・・アレなんだけど。
と、とにかくパリアとミカテクトで防御を上げて、皆が炎属性を持った能力とか武器で攻撃。
回復を私に任せてくれてるからか、全員が攻撃に集中できるみたいだった。
『お母さンハ守って見セるーッッ!!』
「へっ!?」
キノコが叫んで私に攻撃を仕掛ける。1対7だからか漸く回復をしているのが私だって事に気付いたみたい。
突進してくるソレに、反射的に身体が後ろに下がって直後に飛翔する。
・・危なかった。こういう時に本当に翼はありがたい。
飛んだままキノコを見る。“母の為”だと化身した姿・・・きっと形の歪んでしまった愛情なんだと思うと少しだけ淋しかった。
・・・・って、何?傘が半分に開いて───
「きゃっ!!」
「っの、バカ野郎!!」
空中にいるのに抱き抱えられる感覚。
見ればレイが跳躍したんだと分かった。そのままトン、って軽やかに着地。
「ったく。油断してんじゃねーよ」
「ご、ごめんね?レイ」
「姉ちゃん大丈夫っ!?」
「うん、大丈夫だよ。リュウ」
慌てて駆け寄ってくるリュウに微笑んで見せる。まさか傘が開いて小さな傘が飛んでくると思わなかった。
いや、小さな傘って言うかあの形状はカラフルな脳・・・・ううん、止めとこう。思い出したら気持ち悪くなりそうだし。
リュウは私が無事だって分かって安心した反面、どこか怒っているようにも見えた。そんな顔するのは珍しいかも。
それからリュウがドラゴンに変身してファイアブレスを浴びせ、元所長だったキノコは炎に包まれて真っ黒に炭化して崩れ落ちた。
「───・・やった、か?」
ガーランドさんがそう呟いて、キノコが動かないかどうかを確認する。動く気配は・・ない。
「、大丈夫ー?」
「大丈夫でしたか?さん!!」
心配そうにモモとニーナが駆け寄ってきて、それに私は頷いた。
それにしても・・・何故この人には分からなかったんだろう?
死んだ人は二度と生き返らないし、眠りを妨げてはいけない。
それがどれだけ悲しい事でも、それを目前にしてしまったら受け入れなければならないって事。
私もそう。もしも・・・もしもティーポが死んでいて、それを目の当たりにしたら受け入れなきゃいけない。
勿論それがリュウやレイやニーナ・・・皆だったとしても。
ただ私はそれまで精一杯に足掻くつもりではいるっていうだけ。
燃え尽きたキノコの断片を見ながら、そんな事を考えた。
「私も・・・」
「え?」
ポツリとモモが機械を見ながら呟く。
「私も、何度も考えたわー。
父さんが生きてたらどうだろうって・・・何度も。だから・・・」
気持ちは分かるんだろうって思う。私よりもモモの方がずっと。
「───でも、まぁ。お父さんがおかしな変異体の実験をやらなかったって事、安心だわねぇー・・?
それにペレット所長のお母さんだってこんな事されて嬉しくなかったと思うし・・・ね?行きましょっか?」
「うん、そうだね・・・・あ」
思い出して、多分機械のスイッチだろうレバーを下げると機械は動かなくなった。
「これで・・・ゆっくり眠れるよね?」
「えぇ、きっとそうよー」
「あ・・ねぇ、?」
「ん、何?」
不意にモモに呼び止められて、私はそっちへと視線を向けた。
真剣なモモの瞳。それからゆるりと微笑む。
「私も多分、貴女達と一緒に行くわー・・?」
「うん。また、よろしくね」
答えて、私も微笑んだ。