鳥篭の夢

青年期/己という存在を01



「さて、ウインディアに着いた訳だけど・・此処から先はレイさんとわたしで行くわよ?」
「え、どうして?ニーナ」
「はぁ!?何だそりゃ」

ニーナの唐突の申し出に、レイとリュウが同時に声を上げる。
何となく理由は分からなくは無いけど・・

「確かに、リュウ達がニーナを連れてった一味って思われてるならそれは仕方ないかも?
デメリットになりそうな要素を除くと、他に行けそうなのはレイかペコロス・・だよね。私は翼があるし」
「ぷききゅ」

それに父様達と顔を会わせるのは出来る限り避けたいし、ペコロスは・・喋れないしねぇ。

「そうなんですよ、さんっ!!
お父様・・王にどれだけ言っても全然聞き入れて貰えなくって・・・!!
あ、でも大丈夫!!王の許しは必ず貰ってくるから・・・ね?リュウ達は外で待ってて??」
「えっと・・どうしよう?兄ちゃん」
「どうって聞かれてもなぁ」

悩むようにレイがガリガリと頭を掻いた。
チラリと私を一度だけ見て、今度はペコロスに視線を移して、それからため息。

「・・・・分かった、俺が行く」
「兄ちゃん、良いの?」
「あぁ。俺は大丈夫だからお前らは外で待っとけ」

私に気を遣ってくれたのが分かる。
黒い翼の事もそうだけど・・多分、城に連れて行かない方が良いって思ってくれたんだろうな。
ペコロスは・・多分、私と同じ考えなのかな。
“連れて行っても仕方ない”って言うとちょっと違うんだけど、喋れないのは致命的だし。

「それじゃあ俺達はウインディアからちょっと外れた森にいるね」
「分かった。ま、見つからないように気をつけとけよ?」
「それはレイもね。敬語・・特に気をつけてよ??
ニーナ、悪いけどフォローをお願い」
「はい、任せてください!!」

念の為だとレイの事を頼んでおくと、ニーナは笑顔で大きく頷いて返した。
レイにはちょっと不満な顔をされたけど。でもレイが敬語を使えない事は分かってるし、王の前でうっかりタメ口とか・・・うわぁ、考えただけでも怖いなぁ。
流石に2つの事件を解決したっていう事もあるから、多少なりともは大目に見てくれるだろうけど・・・うーん。

「ええっと、じゃあ行きましょうか!レイさん」
「へいへい・・・お供しますよ?オヒメサマ」

「行ってらっしゃい、兄ちゃん」
「気をつけてね、2人共」

ウインディアへと歩き出した2人の後姿を見送って・・・でも、やっぱり不安。
こういう不安って何でか良く当たるから嫌なんだよね。
何事もなく、無事に済めば良いけど。一度リュウと顔を見合わせて、お互いに苦笑。


「・・・・あらー?ハニー??」
「え?もしかしてまたハニーいなくなっちゃったの?」

不意にハニーの名前を呼ぶモモの姿に前回もそんな事があったなぁ、なんてしみじみ。───してる場合じゃないけど。
問う私にモモは何度も頷いた。それから困ったように肩を竦める。

「そうなのよー・・前にもこんな事あったわよねー?」

頬に手を当てて首を傾げる。何処にいるのかと視線を巡らせれて・・・あ、あの小さいのそうかも。
ハニーみたいな小さな茶色いのが動いてるのが分かる。
でもあの方向って、ウインディア城下町?だよね。

「皆は集合場所で待ってて?私、ちょっとハニーを連れ戻してくるね。
城下に入ったら見つからなくなりそう・・・」
「え?でも城下町って事は・・姉ちゃん」

心配そうなリュウの表情。それがちょっとだけ嬉しいけど・・

「でも皆が城下町で見つかって変にレイとの関係を勘繰られると困るし、それなら私が適任でしょう?」

それがたとえ黒翼持ちだとしてもリュウ達が行くよりはずっと良いと思う。
このままハニーを放っておく訳にもいかないし。
モモが少しだけ考えるような仕草をして、それから頷いてくれた。

「そうねー。じゃあ悪いけどお願いねー?
「うん。全然良いよ、気にしないで」
「ぷきゅう?」
「姉ちゃん。気をつけてね」
、念の為だ。コレを着ていけ」

バサリとガーランドさんに頭から布を被せられる。それを広げてみれば・・・裾が長めのコート。
翼がある事自体は隠せなくても、コレなら黒い翼だとは分からないだろう。

「ありがとうございますっ!ガーランドさん!!」

礼を言って、走りながらコートを羽織る。
ハニーが小型の機械兵であるお陰か、すぐに追いつく事は出来た。
ひょいって抱き上げれば“いやいや”と私の腕の中でもがいて一生懸命に城下に入ろうとする姿。

「でも、ハニー?このまま1人で城下町に入ると、もしかしたら子供のおもちゃになっちゃうよ?」
『っ!?』

驚いたような表情をして、ハニーが固まる。
それは流石に嫌なんだって動きだけで分かって思わず笑った。
だけど、やっぱり名残惜しそうな視線を城下町・・ううん、それよりもっと遠くへ向けていた。あれは城の方角。
そういえば前も城中を走り回ってたってニーナが言ってたし、もしかして城に何かあるのかな?

「お城に用があるの?」

訊ねるとじぃっと私へと視線を向けた。
頷くでも首を振るでもなく私を見つめてくる姿・・・うぅ、あんまり見られても困るかも。
連れて行ってあげたいけど私じゃ城には入れないし、ハニーだけ中に入れる事が出来てもその後の無事は保障出来ない。

流石にしゃがみ込んで機械兵と話す姿も怪しいだろうから、そのまま城下町を歩きながら考える。
帰る素振りがないからかハニーは肩の上で大人しくしてるけど・・如何しよう?
ちらりと外に視線を向ける。パンの良い匂いが鼻を掠めて・・・あぁ、そういえば城下町なんて初めて見た。
窓からちょっと見る位しかなかったから、それが今凄く近くにあるんだって考えたら何だか不思議な感じ。


・・様?」

聞き覚えのある声で呼ばれ、うっかり足を止める。
しまった・・・“様”なんて付けるんだから城の人間に違いないのに。
気絶させるとかなんとかして乗り切るしかないかなぁ、なんて考えながら視線を向けて・・・・ぁ、れ?

「やっぱり!様でしょう?」
「セ・・セシル、なの?」

懐かしい姿。でもやっぱりあの時よりずっと年齢を重ねたのだと分かる。
抱き締められてその温かさに言葉が出なくなる。
ハニーが肩の上で急げと促すけど、それにも反応出来なかった。



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