鳥篭の夢

青年期/己という存在を02



「大変だったのですね、様」
「ううん、そんな事無いよ。
それよりもセシルが無事で良かった」
「そんなお言葉、私には勿体無いですわ」

久しぶりなのに本当に変わらないなぁって思わず苦笑。
私はもう王女ではないと何度言っても口調は変わらないし。

あれから互いの事を話した。
セシルは城を追放される事も無く今はキッチンの仕事をしてるみたい。
まぁ、その首謀者が情報が漏れるのを防いだっていうのもあるんだろうけど、でも少しだけ安心。
私はレイ達の事、事情があって東に行く事、それで通行証が必要だという事とか簡単に事情を話した。
ティーポの事も訊いたけど流石に分からないみたい。
ウインディアに憧れてたから少しだけ期待して・・少し残念。
後、それから気になっていた事なんだけど・・・

「そういえば、誰も私の事をニーナに言わなかったのね?」
「・・あ。そ、それは・・・」

問えば、セシルは気まずそうに視線を逸らす。
俯いてしまって、それからゆっくりと口を開いた。

様がお亡くなりになったと報されて、王妃様・・シーラ様がショックで体調を崩されてしまって・・・。
その所為で誰も口を開く事を躊躇われ、ニーナ様もまだ物心がつく前でしたのでそのまま───」
「そう。あ、別にセシルを責めてる訳じゃないよ。ちょっと気になっただけ」
「でも、きっと御縁なんでしょうね。
何年も会えなかった御二方が再会されるなんて・・」
「うん。そうかも・・・ね」

正体は明かせなくても、縁が私達を引き寄せてくれたんだと思うとそれは本当に不思議。

「───と、すみません。城へ御用なんですよね?」
「え?あー・・そうだね、少しだけ入りたいかも。
でもセシルに迷惑はかけれないから良いよ」
「いいえ!様の為ですもの・・何とでも誤魔化してみせますわ!」

ぐぐ、とセシルの拳に力が入る。あぁそういえば昔からこんな人だったっけ。
肩にいるハニーが早くと急かしてきて・・・ちょっと待ってハニー。大丈夫だからね?
コートを羽織ったままセシルについて大きな城の門の前まで来て───あれ?門番は?

「あら?どうしたのかしら?・・・門番が」
「ねぇ、セシル。何だか変な音がしない?」
「え?あ、そう言われてみれば・・・───」

何だかさっきから何だか怒声みたいなものが響いてるんだけど・・・酷く嫌な予感がする。
コソリと扉を開けて隙間から様子を窺うと、物々しい兵士達が内側から扉を防ぐ姿があった。
それから慌てるレイとニーナが出てきてそれを兵士達が追いかけて───あぁ、何だか頭が痛くなってくる光景だなぁ・・これ。

様、もしかして・・」
「ごめん、セシル。ありがとう」
「やっぱり、そうなのですね?」

確認するようなセシルの言葉に一度だけ頷く。
そうです、アレが私の仲間です。

「あ、ニーナには秘密にしててね?私の事。・・・それじゃあ」
様」
「ん?」
「どうぞご無事で。私はいつまでも様の御壮健をお祈りしておりますわ」
「ありがとう。会えて嬉しかった・・セシルもどうか無事で」

言葉を交わして、思い切り扉を開く。
驚いた兵士と一緒に同じ様に驚くレイとニーナの姿。
うーん、如何して君達は逃げないのかな?私が身体を張った意味が無いでしょう?なんて一度だけ胸中でため息。
邪魔なコート脱ぎ捨てて黒い翼を大きく羽ばたかせ、そのまま兵士達の頭を越えて2人の元へ駆けつけた。

「“災厄”を恐れるなら動かないでっ!!」

強く言葉を放てばざわめきが起こる。
勿論そんなの迷信だって信じてるけど、足止めになるなら使わない手は無い。・・・あんまり使いたくなかったけど。
それからレイ達へと視線を向けた。

さんっ!!」
「こんなトコで何してんだよ!?」
「今はそんな事よりも・・・あ、ねぇ。結局失敗したの?」

不躾に訊ねれば口を噤むレイの姿。
・・・やっぱりそうだよね。不安が当たったのかと思うと何だか嫌になるなぁ。
───と、ハニーが不意に肩から飛び降りてそのまま走り出した。その先にあるのは・・地下?

「は、ハニー!?」

「2人とも、ハニーを追って!!」
「はぁ?」
「え?でもあっちって・・・」
「大丈夫です。前もハニーについて行ったらお城の外に出る事が出来たから!」

ハニーは放っておけないし、今はニーナの言葉を信じるしかないよね。それに兵士も増えてる気が・・・。
とにかく今は急いだ方が良さそう。意見は満場一致で、一度全員で頷いて走り出す。


!」

不意に呼び止められて、まるで身体が硬直したように歩みが止まった。
見れば王・・父様の姿。

「お前は、・・なのか?」

答えてはいけない。暗殺を企てた首謀者の有無もそうだけど、何より父様を“子を捨てた王”にする訳にはいかない。
一度だけ深く深呼吸して・・・大丈夫、だから。

「───・・・確かに私の名はと申しますわ、国王陛下。
ですが何故、私のような卑賤の者の名をご存知で?」
「・・・・・そ、それは・・いや」

途端に口篭る。これ以上兵士達に父様の悪い印象を与えてしまう前に、一度不敵に微笑んで走り出す。
───ごめんなさい、父様。
折角私を気にかけてくださったのに蔑ろにしてしまうなんて・・・本当に、ごめんなさい。



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