青年期/己という存在を04
「───・・で、一応通行証は手に入ったみたい。
ハニーの事、遅くなってゴメンね?モモ」
「あら別に良いのよー。ありがとう、」
「ま、この先ウインディア王家と仲良くするのを期待しても無駄ってこった・・」
その言葉に、膝を立てて座っていたニーナが額をくっつけるようにして項垂れる。
「ごめんなさい、もう・・わたし何やってるのかしら?」
あぁ、ニーナが落ち込んじゃった。
訴えるような視線を送れば、レイは困ったように頬を掻く。
「あまり気にせずとも良かろう。
それより橋に手が回る前に急いだ方が良いな」
「そうですね。明日は出来るだけ早く出発しましょう?」
「・・・だな」
言葉に私もレイも同意する。
静寂の中に炎の爆ぜる音と鳥の声だけが響いて・・何だか居心地悪い。
「───っと、俺は先に休ませてもらうぜ?」
「あ、レイは今日も遅番なんだっけー?」
「そういうこった」
モモの問いに軽く肩を竦めてからレイはテントに入って行った。
その後姿を見送ってもう一度炎に目線を戻す。
「も同じ遅番だろう。先に休んでおけ」
「・・そうですか?」
「うん、後は俺達で見てるから大丈夫だよ。姉ちゃん」
「そうよー。いつも変な時間帯の見張りを頼んでるんだから気にしないでー?」
次々に言われて・・うん。じゃあ、ありがたく休ませて貰おうかな?なんて言いながら立ち上がる。
気になってちらりと見れば、少し無理をしているようなニーナの姿に胸が苦しい。
「ねぇ、ニーナ」
「はい?」
「じっくり話し合えばきっと分かってもらえるから・・大丈夫だから、ね?」
あの人達だって一国を治める者としてそこまで頑なじゃ無い筈だもの。だからきっと大丈夫。
“誰が”とは言わなかったけど今の言葉で充分伝わったみたいで、ニーナは僅かに安堵の笑みを見せてくれた。
「ありがとうございます、さん」
「ううん・・・じゃあ、お休みなさい。皆」
「はーい。お休みー、」
「お休み、姉ちゃん」
「お休みなさい、さん」
「ゆっくり休んでおけよ」
「ぷひー」
全員の返答に僅かに苦笑しながらテントに入る。っていってもペコロスは既に寝てるけどね。
中にはレイが寝転がってる姿。でも多分横になってるだけでまだ寝て無いんだと思う。
覗き込むようにして顔を眺める。
バンダナして無いなんて懐かしいなぁって思ってじーっと凝視してると急に目が開いた。
「───何見てんだ?」
「え?まだ寝てないのかなぁって思って見てただけ」
「アレだけ凝視されたら起きんだろ、普通」
呆れたような表情であくびを1つ。あれ・・?
「でも、さっきは起きてたでしょ?」
「・・・まぁな。流石に、そんなスグには寝付けねぇよ」
「そっか」
頷いて隣に座る。それにレイも起き上がって胡座を掻いて、真剣な瞳が私に向いてるのが分かった。
「あの時、何かあったのか?」
静かに問う声に小さく頷く。
・・・あ、頷いちゃダメなのに。
「別に、母様にも父様にも簡単に私だって見抜かれちゃって・・少しだけビックリしただけだよ」
「無理はすんなよ?」
「・・・してないよ、無理なんて」
嘘。今だって思い出せばドキドキしてる。また親に名前を呼んで貰えるなんて思いもしなくて・・困惑。
あ、でも。セシルも簡単に私だって見抜いたっけ。
「ねぇ、私ってそんなに顔変わって無いかな?」
「変わって無ぇってより、似てんだろ?母親にさ」
「・・・・なるほど」
ニーナが母様に似ているように私も似ているのかもしれない。
でもそれは仕方が無い、だって血の繋がった親子だから・・・。
それでも周りが気付かない、或いは気付かないフリをしてくれてるのか分からないけど、それは救いだと思う。
「なぁ。無理すんなよ?」
もう一度レイが同じ事を言う。
・・・分かってる、きっとレイは最初から分かってる。私が無理をしてるって。
だから何度もそうやって同じ事を訊いてくれる。
心配しているのだとその瞳が告げているのが分かる。
「あんま無理してっと、リュウが心配すんだろ?」
「うん・・でも、あんまり弱音を言ってもリュウは心配するでしょ?」
「あぁ。だから、嫌なら俺に言っとけ」
思わぬ言葉に思わず笑みが零れる。涙が出そうな位嬉しい言葉。
普段では聞く事の出来ない優しい言葉・・・急にそんな事言うなんてどうしたの?レイ。
「レイ、優しいね?どうしたの?」
「ばーか。どうもしねぇよ」
くつくつとレイも笑って、コツリと額を合わせられる。
すぐ傍にある青い双眸に意識が囚われて───
「───」
「?ごめんなさい、ちょっと良いかし・・・らー・・・」
「「あ」」
バサリとテントの入り口を捲ってモモが顔が覗き込んで、思わず固まった。
いや、だって・・まさか誰かが来るとは思わなかったっていうか。
でも普通に考えたら私達が悪いんだよね?これ。
「モ、モモっ!?何!!」
「ん~・・ううん、やっぱり後で良いわー。
えぇっと、ごゆっくりー?」
そう言ってまた消えていくモモ。
何を言われるか分からなくて凄く恥かしくて思わずレイを突き飛ばして立ち上がった。
顔が熱いけど気にしてられなくて、とりあえずそのままモモの後を追いかける。
「ちょ・・ちょっと待ってモモ!
変な気は遣わなくて良いからっ!!モモっ!?」
「・・・愉快だねぇ、全く」
テントから出る直前に、背後でレイがそう呟く声が聞こえたのは多分間違いじゃ無いと思う。