鳥篭の夢

青年期/逃げ出した守護者02



クリフと呼ばれる村・・というよりも集落に近い場所。
そのずっと奥の方にガイストさんはいた。
ガーランドさんよりもずっと細身のガーディアン。背を向けて一心に何かを彫ってる姿。

「───誰だい?」

「・・・・・・ガーディアン・ガイスト」
「ガーランド、か?」

ゆっくりとガイストさんが振り向いて、それにガーランドさんが挨拶代わりに片手を軽く上げた。
リュウが“竜族の生き残り”だと話すとガイストさんは酷く驚いた様にその顔を覗き込む。やっぱり竜族は滅びたって思ってたみたい。

「俺達は神の命により竜族を殺した・・それが間違いでなかったのか知る為の最後の鍵だ」
「・・お前、またそんなややこしい事言ってんだ?
神が信じられなくなったら逃げだしゃ良いんだよ、俺みたいに・・・」

ガーランドさんとは違う軽い口調だけど瞳は真剣。
本当に神様が信じられなくて戦いを止めたんだ、この人は。

「大体、ソイツ1人連れてってどーすんだよ?竜族の恨みを晴らすのに協力する?
・・・まさかソイツ1人で何とかなると思ってる訳じゃないよな!?」

ガイストさんはぐるりと私達全員を見渡して、一度呆れたように息を吐いた。
あれ?別に恨みを晴らしに行く訳じゃないよね?リュウもそんな事するつもりはないって言ってたし。
見れば少しだけ戸惑うようなリュウの顔。
ガーランドさんが一度咳払いをして気を取り直して、もう一度ガイストさんを見据えた。

「俺は、真実が問いたい。
どうして竜族は滅ばねばならなかったんだ?」
「かーっ!?変わんねぇなー、ガーランド!真面目な顔してそんな事言うもんな。
ま、いっか・・・・で?その真面目なガーディアンさんが、逃げ出した俺に何をして欲しいんだ?」
「ディースの封印を解いてもらいたい。
神に会う為にディースの助力が必要だと・・・」

「───ディース・・か、そりゃ、確かに俺の仕事だわな?」

ゆっくりと俯いて、まるで悩むような静寂。それから一度頷いた。

「分かった、何とかしよう。
・・・・けど、その前に竜族のあんちゃんと2人にしてもらえるか?」

思いがけない言葉。
だけどガーランドさんは一度だけ頷いて、立ち上がると私達にも席を外すように促す。
1人残す事に不安が無かった訳じゃない。
でもガイストさんは神様の言葉に異を唱えて戦う事を止めたと言っていた。
だからきっとリュウに危害は加えない筈。
それは楽観思考だけど・・・でも別段悪い人にも見えないし、ね。

「あ・・えっと、ガイストさん・・・?
1つだけお聞きして良いですか?」
「ん?あぁ、何だ?」

不思議そうな顔。
でも1つだけ確認しておきたかった。

「貴方は、竜族は邪悪な存在だと思いますか?」
「姉ちゃん・・・」

リュウが眉を下げた。
あ、別に私は竜族が邪悪だなんて思ってないよ。リュウが竜族だと分かってからは尚更。
そしてガーランドさんの竜族との戦いの話を聞いてからはもっと・・・だからこそ、もう1人のガーディアンは如何なのか知りたいの。

「さてね。世界を滅ぼすだけのでけぇ力を持ってるのは本当だ。だが・・───」

ガイストさんは一度言葉を止めた。

「俺には、そんな風には映らなかったな。
殺した竜族達も、勿論コイツも」
「そうですか・・ありがとうございました」

ガイストさんはチラリと目線をリュウに向ける。
その答えに安心して私は出来る限りの笑みを見せた。
多分竜族は悪く無いんだろう。
でも、だったら“何故神様は竜族を滅ぼす必要性があったのか”っていう疑問が湧いた。

「すみません。お邪魔してしまって」
「いや、気にしなさんな」
「ありがとうございます、では・・」

出て行く直前にふと気付く。あぁ、ガイストさんってレイにちょっとだけ似てるんだ。
本当は真面目で、色々悩んだりもして、だけど表に出せない不器用な人。
だからこそ軽い態度をとって自分を保とうとする。
家・・とも呼びにくい簡素な部屋から出てレイの顔をじっと見る。
ずっと自分の力とか私達の事とか、色んな事に悩んできた人。

「あ?どうした、?」
「・・・んーん、2人のお話が終わるまで何しようかなって思って」
「あら、。私の本で良かったら貸すわよー?」
「モモのって・・内容は?」
「物理のねー、機械のねー」
「うーん。物理は別段得意じゃないし、いいよ。ありがとう」
「あらそうー?面白いのにー」
「そりゃ学者さんだけじゃねぇの?」
「あー!酷ぉ~い!!」

怒るモモには悪いけど、レイの言葉に少しだけ同意。
流石にモモの読むような本は専門的過ぎて私には分からない。
あー・・でも本か何か持ってれば良かったかも。
ニーナもそわそわと落ち着きが無い。ペコロスは・・・もう寝てるけど。
さて如何しようかなー、なんて考えてると案外早くリュウが姿を見せる。


「・・どうなった?」

ガーランドさんがいち早く駆け寄った。
確かに何がどうなったのかは気になる。
リュウの話によると竜族との事とか、神に会う事をもう一度考え直せとか、ガーランドさんと良く話し合うように言われたみたい。
一通り聞き終わると、ガーランドさんは腕を組んだ。

「ガイストがそんな事を・・・。
試すつもりか、リュウの事を」
「そう、なのかな?」
「昔からガイストは納得するまで動かない。
俺やリュウがどこまで真剣に考えているのか知りたいのだろう」

それはつまり、嘘偽る事無く自分の意思を伝えるって事?
ならリュウは大丈夫だよね。強い意志を持って此処まで来たんだから。
“どうなのか”と問うガーランドさんに、リュウは強く頷いて神に真実を問うのだと告げた。その為に此処まで来たのだと・・。
それでも何だか不安そうな瞳をするリュウが可笑しくて私はそっと肩を叩く。

「心配しないで行ってらっしゃい。
どうせリュウは頑固だから何言われても意見を曲げないでしょう?」
「姉ちゃん、何だかそれって褒めてもらってる気がしない・・」
「そう?でも、しっかりと意見を持ってそれを貫くのは良い事よ?
自分の思いを真っ直ぐ持って、それをガイストさんに見せればきっと分かってもらえるから」

ニッコリと笑えばリュウも少しだけ安心したように笑う。

「全く、変なトコだけに似たな。お前」
「姉ちゃんも頑固だもんね」
「え?そうなの?別にそんな風には見えないけど・・?」
「うーん、そうねぇ~・・?」

うーんと困ったように首を傾げるニーナとモモに思わず苦笑。
2人とは付き合いがまだまだ浅いからなぁ。
ガーランドさんはあくまで無言を守ってくれているけど・・いえ、自分でも理解してるし良いんですよ?ガーランドさん。

「ま、まぁ・・ガイストに会いに行くと良い」
「あ。そうだね、じゃあちょっと行ってくる」

ガイストさんの部屋へと消えて行ったリュウの後姿を見送る。
何も無いと良いんだけど・・・。



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