鳥篭の夢

青年期/神への導02



「アンタ、見たカンジ先祖返りみたいだけど・・?」

先程の問いに答える前にまじまじと翼を見つめられた。何だか恥かしい。

「えと・・・すみません、自分では詳しくは・・・」
「ふぅん。まぁ黒い翼は通常よりも大きい事が多いから分からないのも仕方ない・・か。
しかしこの力、どちらかというと強い力が混じっていて逆に邪魔をしているんだね。
強い・・・まさか竜族?そういやアイツはウインディアに・・」
「え?」

後半ひとりごちるディースさんに首を傾げれば“なんでもない”と何度も首を横に振られた。
・・・何なのかな?竜族とウインディアに関係が?

「あぁいやいや、こっちの話。
・・・と、どうもアンタの魔力の質は治癒寄りのようだね。
まぁそれ以外に枷もあるようだけど・・」
「枷、ですか?」

そんな事、考えた事が無かった。ディースさんがゆっくりと口を開く。

「───アンタ、何かを傷つけるのが怖いだろう?
多分それが力を抑える無意識の枷になっているのさ。
そうじゃなきゃ普通は素質に関わらず攻撃魔法の1つ2つ位使えるもんだよ」
「・・ぁ」

見透かされたような言葉と視線。図星、だから言葉に詰まる。
確かにメイガスさんに教わったからマジックボールは使える。
でもそれは魔力の塊を作り出すだけ。技術の応用だから出来たんだと思う。
それにどれだけ練習してもレイガみたいな基本的な攻撃魔法は無理だったから・・・。

「・・・そうですね、怖いです。誰かが傷つく姿は出来るなら見たく無い。
それが自分に敵意を向けている者であっても・・・。
でも理解はしてます。今の弱いままでは足手まといになるだけだと」

強くなるって決めて、自分や家族を守る為ならって思うけど、でもやっぱり出来る事なら誰も傷付けたくない。
犠牲を出すのは嫌だけど、ソレは不可避だって諦めている。
だから私は弱い・・・多分、決意じゃなくて諦めているから。

「それだけ分かってりゃ充分だよ。
後は覚悟さえあれば、アンタは強くなれる」
「・・・・本当ですか?」

強くなる?
覚悟・・今までの諦めを全て覚悟に変えれば?なら私の答えは───

トン、とディースさんの人差し指が私の額につけられた。そこからでも分かる強い力。
リュウの時みたいに落雷みたいな力が降って来るんだと思って強く目を瞑ると、ディースさんが小さく笑った音が聞こえる。

「先に言っておくよ。
力の解放は簡単だけど、それをコントロールするのはずっと難しい。
それ相応の覚悟が必要だけど、それがアンタにはあるかい?
───いや、今のはお節介だったか」

落とされた呟きに目を開ければ、ディースさんは首を横に振って笑う。

「それともう1つお節介。
多分アンタの素質は聖属性・・・治癒系で、解放してもそれは変わらないよ?
だからもしかしたら大した攻撃魔法は使えないかもしれない」
「それでもきっと、今よりはずっと良いですよ」
「・・アンタは良い子だ。護るモノのある強い目をしている」
「え?」
「守り抜けるだけの力をアンタは持っている。
それがどんな力であれ、それだけは忘れない事だね」

言葉を最後に、衝撃。
額から脳を貫通するような。一瞬だけ意識が真っ白になって、気付いたら・・石碑の前。
何だか今までよりも頭がスッキリしていて、でも力が云々っていう実感は無い。

「姉ちゃん!」
、大丈夫か?」

目の前にある顔。
リュウだけじゃなくて、珍しくレイまで心配そうな顔してる・・なんて少し失礼だったかな。
見ればガーランドさんも安堵した顔。・・って、あれ?他の皆は?

「えっと・・大丈夫だけど、モモ達は?」
「モモさんとニーナには先にラパラに行って貰ったんだ。
海に出るのに船が必要だから・・」
「そういえば神様は海の向こう・・なんだよね?」
「うん」

確認するとリュウが力強く頷く。船が必要って事はラパラから借りるのかな?
あ、でも船の操縦とかって誰か出来るんだろうか?
それ以前にミッド・シーの船って外海でも使えるんだっけ?
うーん・・って考えてるとレイがまだ心配そうな顔しているのが目に入る。

「レイ?」
「別に何とも無いんだよな?
「・・?うん、大丈夫だよ」
「・・・・そっか」

安心したようなため息。
あ、戻ってこなかったから心配してくれてたのかな?・・ちょっと申し訳ないかも。

「姉ちゃんなかなか戻ってこないから心配してたんだよ、兄ちゃんも───いたっ!」
「あんま余計な事言ってんなよ?リュウ」
「ありがとう2人共・・それに、ガーランドさんも」
「・・・いや」

ふぃとガーランドさんはそっぽを向く。何だかんだで優しいよね、ガーランドさん。
視線を戻せば不機嫌なレイの姿。あぁ、その顔も久しぶりに見たかも。
昔はティーポとかリュウとか抱きついたりすると、すぐそんな顔してたっけ?

「そういえば姉ちゃんはディースさんと何を話してたの?」
「え?んーと、力の解放?っていうのをして貰ったんだけど・・・」
「解放、ねぇ。別段何も変わったようには見えねぇが・・?」
「うーん、自分でも実感が無いから良く分からないんだよね」
「・・・全く、愉快だねぇ」

肩を竦めてレイは歩き出す。
それに私もリュウも苦笑しながら後をついていった。

でも───力の解放か。
もし扱いきれなかったらレイのワータイガーみたいになる?
暴れだす・・のはちょっと困るなぁ。
だけど元の素質が治癒系って事はそうでもないのかも・・・?
初めての事だから、どうなるかなんて私には分からない。
とにかく・・・今は覚悟して、気を強く持って!
大丈夫。私はリュウを守るんだから、絶対に。



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