鳥篭の夢

青年期/外海を越える方法03



リュウ達も少し遅れて戻ってきて、エンジニアも来てくれてもう大丈夫だって言うからお言葉に甘えて船室に行く。
それから船の修理が終わるまでパーツ探しをしてた時の話を聞いていた。
ガーランドさんがサルベージをする事になったとか、雷の攻撃を使ってくる大魚を釣り上げたとか、何だか大変だったみたい。
待ってるどころか雑談までしてたのが何だか申し訳なく思えてきた。
うーん・・ごめんなさい、皆。

『こちらエンジンルーム、エンジン点火しまーす!』

エンジンルームからモモの声が響いて、ガタガタと船体が大きく揺れながらゆっくりと動き出した。
上の操縦室からリュウが降りてきて、まずラパラに戻るんだと教えてくれる。まぁ、それが一番良いよね。
船が壊れたって言って来てる筈だからラパラの人達も心配してるだろうし・・・。

「しっかし、船ってのは結構揺れるもんだね」

確かに・・・この船体の揺れは予想以上。
レイも私も船は初めてだからこれが普通なのかどうかも分からないし、ちょっと不安かも。
床に目を落として、レイの尻尾の先が不安そうに何度か揺れてるのが見える。
エンジンルームから上がってきたモモを見れば満足そうにしてるから、やっぱりこれが普通なんだとは思うんだけど・・・。

「ねぇ、モモ。これが普通なんだよね?」
「そうよー。私の修理したエンジン、調子良いでしょー」
「果たしてこれで海を越えるなど出来るのか・・・うーむ」
「あははー、大丈夫って信じるしかないですね」

ガーランドさんも少なからず不安はあるみたいで、腕を組んで悩み始める。
不安になってないのはモモ位じゃないかな?
私もリュウも苦笑して、それから不意に気付いたようにリュウが辺りを見渡した。
ん、どうしたんだろう?

「ねぇ、姉ちゃん。ニーナ知らない?」
「ニーナ?それなら“風に当たりたい”って甲板の方に行ったよ」
「そっか。俺、ちょっと行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」

リュウを見送ってからベッドに腰掛け、小さな丸い窓から外を眺める。
深いエメラルドグリーンに鮮やかな空の色が綺麗。
・・・・ん?

「あれ、何だろう?」
「えー?」

呟いた言葉を聞きつけたモモが読んでいた本から視線を外して私を見る。
同じように窓を覗き込むけど“何が?”と首を捻った。
黒くて大きな船?みたいなものが海の遠くに見えたような気がするんだけど・・・・気のせい、かな?

「別に何もないじゃなーい」
「んー・・ごめん。多分気のせいだと思う」
「あら、珍しいわねー。の勘違いなんてー」
「・・・そう?」

そんな事無いと思うけど・・なんて軽く笑って返す。
もう一度窓の外に目線をやるけど今度は何も見えなかった。やっぱり気のせい?
考えるのを止めてノンビリと過ごす。
っていっても揺れてるからか何だかちゃんとは寛げないんだけど。
暫くそう過ごしていると、見覚えのあるラパラの船着場が見えて船がゆっくり向かっていく。
あぁ良かった、何とか無事に陸に上がれそう。


「お疲れ様でした、皆さん。ラパラに着きました」

船体の揺れが止まってベイトさんの言葉に私達は船から出た。
揺れる船よりもやっぱり地面の方が安心するなぁ、なんて実感。

「色々とお手間を取らせましたが、やっと皆さんのご自由に船を使っていただけます。
こちらの2人に言っていただければ何処にでも船を・・・」

「待て待てぇーぃっ!!!」

ベイトさんの言葉を遮って姿を現したのは───ジグさん?ど、どうしたんだろう?

「その人達を運ぶのは俺様に任せろ、ベイト・・じゃなくてギルド長!!」
「あ、あぁ・・ジグ。それは構わないが・・・?」

“急にどうしたんだ?”と続くんだろう言葉を飲み込んでベイトさんが頷く。
どうやら苦手意識は変わって無いみたい。
だけどジグさんはそれを気にする様子も無く豪快に笑った。

「いつぞやはベイトに凹まされ、灯台修理も横取りされたが・・・っ!!
船に関してはこの俺様、誰にも負けないって所を見ておかないとな!」
「そんな事もあったね」
「そうだねー」

困ったようなリュウに一度頷く。
ニーナのお節介から始まったベイトさんの修行に、結局私達がする事になった灯台の修理。
懐かしいねぇ、本当に。・・・なんて、今はそんな過去を懐かしんでる場合じゃないか。

「つー訳で、皆さん!
俺様はブリッジにいるから出発する時は声をかけてくれ!」

そう言って、ジグさんはそのまま船へと消えてしまった。

「えっと・・・」
「あ、いや。ジグはああいうヤツですが、腕の方は確かなのでご安心下さい」
「すみません、ありがとうございます。ベイトさん」
「いえ。皆さんお気をつけて!」

笑顔で見送るベイトさんに一度頭を下げて、私達も船に戻る。
・・・・・・・船、かぁ。
外海を越える方法は船しかないし、不安はまだあるけど行ってみるしかないよね?



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