鳥篭の夢

青年期/外海を越える方法04



「う・・ぇ・・・」
「だ、大丈夫?レイ」

甲板の端でぐったりとするレイの背をさする。
まさか外海の波があんなに酷くて、レイが船酔いするなんて・・・。
これで向こうの大陸に行けるのかな?なんていうか、不安しかない。

アレからジグさんに“海の向こう側へ行きたい”事を伝えて外海へ出てもらって・・・でも思った以上に海は荒れていた。
うねる波、大きく揺れて軋む船体。
船内だからまだ良かったけど、それでも壁にぶつかったペコロスは気絶したし。
揺れが収まってから一応リリフはしたけど・・・それよりもっと問題なのが今目の前にいるレイ・・・かな?

「ぅえ・・・外海に行くまで、これ・・続くのか?」
「うーん、この船で行くならそうなるかも」
「だったら・・俺、留守番で良いや」

珍しいレイの弱気発言。
でも何処まで続いてるのか分からないのに、あんな揺れにずっと耐えるのは私も多分無理。
リリフとヤクリフを何度かかければ少しは楽になったみたいでレイは長く息を吐いて壁に凭れた。
尻尾が気だるげに揺れてる。
こんなになるなら確かに留守番の方が賢明かもしれない。


「あ、さん発見っ!
パーチに行きましょう!!」

バタンって大きく扉が開く音とほぼ同時にニーナの声が響く。・・・パーチ?

「パーチ・・?」
「はい!外海を越えてきたって噂の“伝説の船乗り”さんがいるみたいなんです!
でもジグさんは詳しくは分からないみたいで、それでパーチ村の村長さんなら知ってるかもって!」
「・・・!?あの外海を越えてきた人がいるの?」
「・・って言っても、わたしも全然分からないんですが」
「あ、だからパーチに行って詳しい情報を・・・って事だよね、ゴメン」
「そうなんです!!」

あの外海を越えたって・・・本当なのかな?あれだけ荒れ狂う波を越えて?
まだ半信半疑だけど、それで外海を越える方法が分かるんだったら行ってみる価値はあるよね。

「うん、じゃあパーチに行ってみよう?」
「はいっ!!・・・・それとですね、さん」
「ん、何?」
「レイさん大丈夫ですか?」

心配そうなニーナの顔がレイに向いてて、見ればまだぐったりしてる姿。

「これでもさっきよりマシなんだけどね。
まぁ外海に出なければ大丈夫だと思うよ?」
「流石に今のままで無茶はしないと思いますけど・・・」
「折角モモが直したのにまた船壊されたら堪らないしね」
「ですねー」

ニーナはくすくすと笑うと“先に船内に戻る”と言って消えていった。
それを見送ってレイの隣に座って外を眺める。
今は船を停めてくれてるから船体が酷く揺れる事も無い。
波が静かに揺れる音と潮の香り、強い日差しが降り注ぐ感覚。
シーダの森にいる間は絶対に知る事の無かったモノ達。
船に乗るって事もだけど・・こうやって時間があるとしみじみ思う。
・・・・まぁ、レイはそんな事言ってる場合じゃないんだろうけど。

「レイ、お水持って来ようか?」
「・・・・いや、いい。このまま寝る」

ぽて、って私の肩にレイの頭が乗っかる。
・・・コレだと私の身動きもとれないんですけど?
でもまだ苦しそうに息を吐く姿をみると、そう言ってしまうのは何だか気が引けるし悪いような気もした。
ガタンって大きな音、それから船体が大きく揺れだしてエンジンが動き出したんだって分かる。
多分、パーチに行くんだろう。だったら着くまではこのままでも良いかなぁ・・・なんて。
暫くして眠り始めたレイにただ笑った。


───で、結局・・・

「何で起こさねぇんだよ!」
「一応、起こしたよ?
レイが起きなかっただけで・・」

レイが目が覚めたのはラパラに着くちょっと前。
勿論パーチに着いた時に起こしたけど全然起きなくて、ちょっと驚いた。
だってあの警戒心の強い虎人がぐっすり寝入ってるんだよ?それだけ消耗してるって事だもんね。
で。目を覚まさないレイと身動きが取れない私は留守番する事にして、申し訳ないけどリュウ達だけで話を聞きに行って貰って。
でも戻ってきても起きなくて、エンジンかけても起きなくて、結局後少しでラパラ到着っていう辺りで漸くお目覚め。
そんなに体力削られたのかなって心配したのに・・・・。

「寝ちゃったのはレイが悪いんでしょう?」
「うっせぇ」

半眼になって短く言葉を返して、でもそれだけ。
笑いながら船室に戻ると全員の視線が一気に集まった。

「あ、レイさん。もう大丈夫なの?」
「ああ」
「それでパーチではどうだったの?」
「・・・・それなんだけど・・」

途端、リュウが言い難そうに苦笑した。
・・・・あれ?噂の船乗りさんの事、教えてもらえなかった??
訊ねれば何度も首を横に振られた。
ニーナが代わりにと話すと言わんばかりに口を開く。

「あの・・パーチってお魚が主食なんですけど、村長さんが身体を悪くされてお魚ダメになっちゃったみたいで・・・。
それでとりつくしまも無いままお話すら聞いてもらえなくって・・」
「そりゃあつまりアレか?魚嫌いの頑固オヤジに魚を食わせろっつぅ・・?」
「ふむ。やはりそれが一番なのだろうな」

面倒そうにレイが頭を掻く。
でも元気になって貰う為にはちゃんと食べてもらうのが一番だものね?

「うーん・・魚の克服方法かぁ」
「そういえば、あの人メーカースの出身って言ってたわよねー」
「へぇ、村長さんなのに?」

ちょっと意外かも。
それにモモが“何で村長やってるかなんて私は知らないケドー”って言葉を投げて苦笑。
・・・メーカースかぁ。そういえば面白い料理があるって父様が1~2回料理長に作らせてたっけ。
良く覚えてないけど、面白い魚料理だなぁって思って・・・確か名前が───

「「シース・・・───え!?」」

ニーナと綺麗に言葉が重なって一緒に目を瞠った。
・・もしかして私、余計な事言ったかも?

さん!シースの事知ってるんですか!?」
「んーまぁ、1~2度食べた事がある位だけど・・あれ確かメーカースだよね?」
「はい、確かその筈です!
わたしは聞いただけですけど・・作り方とか分かりますか?」
「ううん、残念だけどそれはちょっと・・・」

流石に小さい頃だから材料や作り方までは分からない。
でも生の魚を使ってるのに臭みが無くて食べやすくて・・・あぁ、こんな料理もあるんだって感心したのは覚えてる。

「メーカースの方に行ったら詳しく分かるかな?」
「そうね、行ってみましょう!リュウ」

腕を組んで悩むリュウにニーナが笑顔で己の両手を合わせた。



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