鳥篭の夢

青年期/外海を越える方法05



「シオタにシャーリィの実、スーの水、サビ草。
これで材料は揃いましたね、さん!」
「うん、皆が材料を集めてくれたおかげだよ」

目の前に広がった食材達。
メーカース峡谷にアトリエを構えていた夫婦にシースの作り方を聞いた私達は早速必要な食材を集めた。
シオタは私とリュウがメーカース峡谷近くで釣って、シャーリィの実はペコロスが体当たりで落としてモモが回収。
スーの水は茶屋にあるって聞いてガーランドさんとニーナでわざわざ井戸から汲んでくれたらしい。
残りのサビ草はオウガー街道で少し距離があるからって、レイが1人で狩りに行ってくれて、あっという間に材料は揃った。
それから作り方を聞いて、今はパーチの村長さんの家の台所。


「えーっと、シャーリィの実とスーの水を混ぜて・・サビ草を乗せて、シオタの切り身を乗せるんだよね?」
「確かそうだったと思うわー」

何度も何度も作り方を反芻させる。
料理が得意だからって皆にシース作りを押し付けられた訳だけど・・・困った。

「割合が確か切り身10、シャーリィの実8、スーの水2、サビ草4・・・・だったか?」
「わ。良く覚えてますね、ガーランドさん」

材料に夢中で忘れてた・・・ガーランドさんが言ってくれなかったら危なかったかも。

「いや、偶然だ。
それに美味く作れなければどうにもならんかもしれんしな」
「そうですね。
・・・よし、じゃあ頑張ります!」

どうせ作るなら美味しく作らなくっちゃね!
シャーリィの実とスーの水を混ぜて置いて、シオタを少し厚めに切る。
それから割合・・・が、コレ位かな?
それにサビ草とシオタの切り身を乗せて・・・強すぎないように握るっ!

「リュウ、味見お願いっ!」
「え?俺??」

出来上がったのをそのままリュウに渡す。
いや、近くにいたからで誰でも良かったんだけど・・とにかく味が不安。
リュウは一度だけ困ったように私とシースを見比べてそれを口に入れた。
咀嚼しながら僅かに目を丸くさせる。

「・・・ぁ、これ・・・・」

~~~ドキドキする!!
リュウの顔を見れば柔らかい笑顔。

「うん!美味しいよ、姉ちゃん!!」
「本当?」
「初めて食べたけど、俺は美味しいって思うな」

嘘じゃない笑顔に一安心・・・じゃあ後はさっきと同じように村長さん用に握って───・・・・これで良し!
食卓に置けば、その匂いに釣られたのかふらふらとした足取りで村長さんが立ち上がった。

「こ・・こいつぁ・・・!?シースじゃねぇか!!」
「どうぞ、召し上がってみてください」

多分食べ慣れてるだろう村長さんなら味の違いとか分かるんだろうなぁ。
恐る恐るシースを口に運ぶ村長さんをただ凝視。
リュウには美味しいって言ってもらえたけど・・・でも、どうか美味しく出来ていますようにっ!

緊張の一瞬。

ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。
それから眼鏡の奥から一筋涙が零れたのが見えて・・・美味しくなかったかな?
どうしようって内心悩んでたら、村長さんは嬉しそうに笑みを見せてくれた。

「・・・・へっ!サビが目に沁みやがる!!
───ありがとうよ、アンタの心の篭ったシース・・美味かったぜ!!」
「本当ですか!喜んで頂けて良かったぁ・・」

あぁ、もう・・・本当に安心!思わず皆と手を叩いて健闘を讃えあう。
村長さんがまた床に腰を下ろしてから“それで何かオレに用事があったんだろう?”と言葉を継いでくれた。
それに私達が外海に出たい事と、伝説の船乗りの情報が欲しい事を話すと村長さんは何度も頷く。

「ふーん・・・外海に、伝説の船乗りねぇ。
ま、普通ならバカな事言ってんじゃねぇって追い返すトコだが・・・。
あんたらオレにシースまで作ってくれたからな・・・よしっ!コイツを持っていきな」

一度膝を叩いて差し出してくれたのは・・・一冊の、本?

「これは・・?」
「コイツぁ、ここらの海流について書いてある。
ソイツに従えばパーチ東の岩場も越えられるだろう。
そこに行けば会える・・・あんた等の探してる伝説の船乗りにな」
「・・あ、ありがとうございます!」

一度深く頭を下げれば止めてくれと手を振った。

「こっちこそ礼を言いたい位さ、あんがとな」

それに一度だけ笑みを見せて私達は家を出た。
あ~・・・本当に、何とかなって良かったぁ。
緊張が漸くとけて深いため息をつけば、モモが小さく笑った。

「お疲れ様~、
「うん、ありがとー。モモ」

「でも、結局シース食べたのはリュウだけだったわね・・良いなぁ」
「あはは・・」
「良いなぁって、アレは味見を頼んだだけなんだけどね。
でもまだもうちょっと材料があるから、また後でシオタだけ釣って作ろうか?」
「本当ですか!さんっ!!」
「うん、私は良いけど・・皆がそれでも良いなら」
「ぷきゅう?」
「俺は別に構わねぇけど、皆でってんなら材料足りねぇんじゃねーか?」

確かに・・皆の晩御飯にするにはちょっと足りない気がする。
うーん・・・

「じゃあシース食べたい人お手上げ!」

それにペコロスを含む全員が勢い良く手を上げて思わず苦笑。
それなら、食材取りに行こうか?
で、本日の晩御飯はシースにしよう!!



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