鳥篭の夢

青年期/黒色の外海船03



あれから数日。モモ曰く、機械の調子は良くて順調に進んでるみたい。
リュウ、レイ、ペコロス、ガーランドさんで一部屋。
ニーナ、モモ、私で一部屋で別れて各々思い思いに過ごす。
たまにモンスターも出るけど居住区域にはあまり近寄ってこないみたいで案外寛げるんだよね。

「あ、ニーナ。また翼のお手入れして無いでしょ」
「・・・分かっちゃいました?
あんまり得意じゃないんですよー」

苦笑するニーナに、自分の翼の手入れを中断して近くに呼び寄せた。
子供の頃にもしたようにニーナの翼のお手入れ。
良く見ると羽の1枚1枚がぐちゃぐちゃの翼。
あーもぉ!元々が綺麗なだけに勿体無いんだから!!
ブラシをしながら翼を観察すると、影になっている所が薄っすらと桃色に染まっている。女の子らしくて可愛い色合い。
そういえば母様は薄っすらと緑がかってたっけ?
父様は・・・正装だと翼が隠れてしまってほとんど拝見した事が無いから覚えてないけど。


───ドォンッ!!

───ビーッ・・ビーッ・・・!


「え、な・・何!?」

船に何かがぶつかったような衝撃とけたたましい警報機音。
それに私は手を止めて、ニーナも不安そうに辺りを見渡した。
赤いランプが何だか不安を煽って・・・警報機が鳴るって事は何かがあったんだよね?
流石に詳しくは分からないけど。

「とにかくモモに話を聞きに行った方が良さそうね?」
「そうですね、さん!」

2人で部屋を出れば、丁度向かいの部屋から出てくるリュウの姿。

「あ、リュウ!何か起きたみたい!!」
「多分モモはブリッジにいると思うんだけど・・聞いてみましょ?」
「う、うん!」

リュウが慌てた様子で何度か頷いて、その後ろからはガーランドさんとレイの姿もある。
皆と上へと上がればペコロスが混乱するような声を上げていて・・まぁ、急にこんな音がするんだから普通の反応だろうけど。
そのままペコロスも連れてブリッジへと急ぐ。
モモは警報機を止めようと試行錯誤してるみたいだった。

「モモ、何かあったの!?」
「えーっと、ちょっと待ってね~?」

常と変わらない口調でブリッジにある機械を弄くると、漸く警報機は止まった。
それからモモは腕を組んで困ったような顔になる。

「どうも船に異常が発生したみた~い」
「・・また、何か変な事したんじゃねーの?」
「ち、違うわよー!ほら、これ見て?」

むぅ、と不機嫌そうな顔のまま促されて機械を覗き込む。
船の大まかな図が出て、異常があったであろう場所が赤く点滅していた。
えーっと・・これは?

「異常があるのはアッパー・デッキ・・船の先っぽの方ねー。
何かがぶつかったのかも・・・?」
「うーん・・・一応調べた方が良さそうね?
モモ、アッパー・デッキって行ける?」
「そうねぇ・・・んー、私達の部屋の向こう側に、船の先へ出られる廊下があるみたい」

モモがボタンを押すと“ピー”って電子音が鳴る。

「これで廊下の扉が開いたわー」
「ありがとう、モモ。じゃあ調べに行きましょうか?」
「調べに・・って、。お前が行くつもりか?」
「・・・?うん、違うの??」

私が提案したんだし、やっぱり私が行った方が良いんじゃないかって思ったんだけど・・・レイは呆れたように首を振った。

「いや、俺が行くからお前は此処で待っとけ」
「あ。俺も行くよ、兄ちゃん!」
「ぷきっぷきゅう!!」
「・・・もしかして、ペコロスも行くの?」

訊ねれば、まるで意気込むようなペコロスの姿。
怒ってるようにも見えるから、多分お昼寝か何かを邪魔されたのかな・・・?
言葉は通じなくても“絶対に譲らない”って目が訴えてきて、それに思わず苦笑。

「無理はしちゃ駄目よー?ペコロス」
「ぷきゅう!」
「レイ、リュウ。ペコロスの事お願いね?」
「ああ。別にそれは構わねーぜ」
「大丈夫だよ、姉ちゃん」

頷くレイと、ニッコリと笑うリュウ。
それに意気込んだままのペコロスを見送って私達は船のずっと先を見た。

「別段、何も無いと良いのだがな」
「本当に・・何もない事を祈るばかりですね」

ガーランドさんの言葉に思わず苦笑。

結局その“何か”は起こってしまって、イカのような多くの足とカイの混ざったような姿のモンスターが現れた訳だけど・・・。
リュウ達が足場確保の意味合いも含めて後ろに下がってくれた事、魔法で牽制してくれたおかげで距離が取れた事。
それにモモが援護射撃だって言って撃った大砲が見事モンスターに直撃して何とか追い払う事に成功した。


「───ま、耳がおかしくなるかと思ったけどな」
「まぁまぁ、レイ。それで追い払えたんだから良いじゃない?
寧ろモモに感謝しなくちゃ」
「そうよー?私、凄いでしょー!」

私の言葉に便乗するようにモモが背を伸ばして腰に手を当てた。嬉しそうに長い耳が揺れる。
それにレイは言葉を失ってただ深くため息をついた。“調子に乗せんじゃねぇ”って責める視線に苦笑。
まあこれで何とかなったのかな?
リュウとニーナと3人で顔を見合わせて、ホッとしたように笑う。
ペコロスを見れば邪魔をするものがいなくなったとまた惰眠を貪り始めていた。



それから更に数日の後。
私達を乗せた黒い船は、無事に外海を越える事が出来た。
私達の大陸に住んでいる者が誰一人として知る事の無い、最果ての地へと───・・・・



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