鳥篭の夢

青年期/竜族の隠れ里02



宴も終わって、リュウはそれから壁に凭れるようにして寝てしまった。多分疲れてたんだと思う。
話の主役になるだろう本人が寝てるんだから詳しい話を聞くのは止めて、起きるまでそれぞれに過ごす事になった。
ガーランドさんが始終渋い顔をしてて・・いや、理由は分からなくは無いけど。
やっぱり複雑な心境だろうなぁ・・・。

「・・・ガーランドさん、スグに考え込んじゃうからなぁ」

瓦礫の上。遠目からも分かる淋しげな後姿が何とも言えない。
それに身体がでっかいから落ち込むとすぐに分かるんだよね。
何を考えてるのかは分からないけど・・・多分、自分にも私達にも如何する事も出来ないような、そんな事なんだと思う。

「そういやはおっさんと付き合い長いんだったか?」
「うーん・・・まぁ、何だかんだで長いのかな・・?」

そうだよね?リュウを探すからって旅をしてたから一緒にいた時間は長いと思う。
時間だけならリュウよりも・・・。
好きな物とか、大体の性格なら知ってるつもりだけど・・・でもガーランドさんの生きてきた年数を考えるとそうでもない気もした。
私の中では大きな時間でも、ガーランドさんの中では生きてきたほんの僅かな時間しか共有していないようにも思える。

「でも、あんまりそんな気はしないんだよね。
ずっとレイ達を探してたからっていうのもあるケド・・・」
「なるほどな」

ゆるりとレイの瞳が細まる。
急に後ろから抱きすくめられて・・・ちょっと、どうしたの?レイ。
不可解な視線を向けるとレイはあくまで楽しそうに口の端に笑みを浮かべて“さぁな”って返す。
まぁ、別に良いけど・・・。何が嬉しかったのかは分からないけど、機嫌良さそうだし。

「───あ、リュウ!」

漸く目覚めたらしいリュウが家から出てくる姿。
それを確認するとレイも抱き締めていた腕を解く。

「よ、お目覚めかい?」
「おはよう。リュウ」

「兄ちゃん、姉ちゃん。おはよう」

“俺、寝ちゃってたんだね”なんて苦笑交じりにそう言うから“疲れてたんだよ”って返す。
最近、色々と大変だったしね。
地面に着地して一度村を見渡す。
大昔に亡びたとされた竜族がこれだけ生きてるんだと思うと少しだけ不思議。

「でも竜族って凄いね。
絶滅した・・なんて言われてたけど、ちゃんと生き延びてたんだし」
「しかしまぁ・・ガーランドのおっさんは複雑な気持ちだろうな・・?」
「・・・・うん」

リュウが深く頷く。
瞳を伏せて少しだけ淋しそうにも見えなくない。

「昔、敵だった連中の真っ只中だもんな。
あっちでしょげてたからからかいに行こうぜ?」
「あはは・・・うん、そうだね!」

ニンマリと悪戯っ子のように笑うレイに、リュウは一度苦笑したけどそれから笑顔になった。
ガーランドさんをからかうって言うけど・・裏に“元気付けよう”って意味合いが見えて私も思わず笑う。
歩きながら3人で他愛ない話。
此処にティーポがいればなぁ、なんて考えて少しだけ淋しくなった。ティーポだけが此処にいない。
その空間がたまにだけど酷く不思議に感じる事があった。あと1人、ティーポだけなのに・・・なんて。


「ガーランドさんっ!
どうしたんですか、そんな所で・・?」

目的のその人に声をかければ漸く私達に気づいたとガーランドさんが僅かに顔を上げ、そのまま下へと落とす。

「・・・・・・・大戦を目の当たりにしていないとはいえ、俺は此処の竜族にとっても一族の敵だ。
此処の人達は皆、リュウが俺を連れている事を不信に思っているだろう・・・」
「ガーランド、そんな事無いから・・」

リュウが懸命にフォローしようとするけど、それでもガーランドさんは首を横に振った。

「俺は自分のやった事、信じてきた事を今になって疑ってリュウと旅を続けてきたが・・・。
此処に生きている竜族達にとっては、そんな勝手は通らない。
此処ではまだ大戦は終わってないのだ」
「・・・ガーランドさん、またそうやって悩んでたんですか?」

毎度の事・・と、言ってしまえばそれまでなんだけど。
見た目に似合わず変な所で繊細というか何というか・・・。
竜族は竜族、ガーランドさんはガーランドさんの考えがあるんだから、そんな風に思い悩む必要性なんて無いのに。
不意にレイが呆れたように肩を竦めた。

「そりゃそうかもしれねぇが、おっさん・・・アンタ、何を気弱になってんだ!?」

ガリガリと乱暴に頭を掻いて、ちらりとリュウへと視線を向ける。

「確かに此処の連中はリュウの力をアテにして、あんた等の神さんに一発食らわそうとか考えてるかも知れねぇ。
今更神さんに会って本当の事を知りたいなんてムシのいい話だと思ってるだろうが・・・な」
「に、兄ちゃん・・」

フォローにならないズバズバとした物言いにリュウが止めようかと口を挟むけど、でもレイは尚も言葉を続けた。

「でも、真実が知りたきゃついて来いって言ったのはアンタだぜ!?
・・・ったく、デカイ身体してうじゃうじゃ考えやがって」

レイの言葉に今度こそガーランドさんが顔を上げた。
その為に此処まで来たんだとレイは言葉を続ける。
言葉を信じて力の意味を問う為に来たのに、言った当の本人がこんな事で悩んでるなんて・・・って感じなんだろうなぁ。
それに・・・

「ガーランドさん。私思ったんですけど、他の竜族がどう考えたとしても結局はリュウがどうするか・・じゃないですか?」
「え?」
「え?ってリュウ・・普通そうじゃない?
そんな重大な事って誰かに強要されてする事じゃないと思うよ??
特にレイが言ってる神様に~っていうのは誰かを傷付けたりする事でしょう?
それは誰かに強制されてする事なのかな・・?」
「ま、んな事言われりゃ普通おかしいって思うわな」

それが世界を滅ぼす云々じゃなくて、人の生死も関与しないって言うなら・・・多少は仕方ないかなぁなんて思わなくも無いんだろうけど。
・・・例えば、血筋としてニーナが王位を継ぐとか。
でもそれはそれでニーナはもう受け入れてるみたいだけどね。
とにかく、これはレイも私も一致してる意見だと思う。
同意してくれるって事は、結局レイもそれが言いたかったんだろうし・・・ね?


「あぁ・・リュウ殿、此処にいらっしゃいましたか」

不意に声がして、見ればグリオールさんの姿があった。
真剣な表情から何か重要な用事があるんだと分かる。

「最長老様が貴方にお目にかかりたいと申しております。
一族の中で最も長く生きるお方・・・あの大戦を知る唯一の竜族です」
「な・・っ!!」

ガーランドさんが驚いた様に瞠目する。
あの大戦を知る竜族って事はガーランドさん位長生きなんだよね?
その方は村の真ん中にある井戸にいるみたいで、私達は其処へ向かう事にした。
一応皆とも合流してから・・だけど。
でもどうしてそんな井戸の中なんて場所にいるんだろう?
何か意味があるのかな?長生きの秘訣とか・・・??



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