鳥篭の夢

青年期/竜族の隠れ里03



最長老様のいる井戸は既に枯れ井戸になってて、その奥に進んでいくと長い廊下の両面に壁画があった。
両面とも他種族の人達が何かに立ち向かってる様に描かれている。
私はその内の一方に描かれた1人に意識を奪われた。
長い金色の髪と、不吉とされる黒い翼を広げた女性・・だと思う人。
私と同じ・・ううん、もっと大きな黒い翼。

「この人、さんと同じ黒い翼ですね・・?」
「そうみたい。・・・何なのかな?この壁画って」

何だか不思議な感じがする。
その違和感の正体は本当に靄がかかってるみたいに掴めないんだけど・・・変なの。

「ま。考えたって分かんねーし、さっさと行こうぜ?」
「うん、そうだね」

リュウも一度頷いてその最長老様の元へと行く。
壁画の廊下を抜けて、もっともっと奥の部屋。
石造りの少しだけ段になっている所に座っている老人。多分、あの人が最長老様だと思う。


「───来おったな」

目を瞑っている状態で最長老様はそう言うと、ゆるりと瞳を開けた。

「良く来たの、リュウ。
ワシは最長老のボノ・・・ちょっと老けてるナイスガイじゃ!」

グッと親指を立てて笑う。
・・・・・ナイスガイ?・・えぇっと・・少し面白い人なのかも。
多分、リラックスさせてくれたんだよね?
微妙な空気になったのを分かってか分からないでか、ボノさんは一度深く頷いた。

「よし、御子よ・・・此処へ来い」
「あ・・はい!」

少しだけ緊張した面持ちでリュウが階段を上がってボノさんの傍へ行く。
それでもボノさんの表情は優しくて、ゆったりとした口調で話し始めた。
さっき私達が見たあの壁画は竜の一族の記憶なんだそうだ。
ガーディアンとの大戦よりも遥か以前に記憶は遡り、この世に繰り返し現れる邪悪な存在との度重なる争いの記憶。
その壁画に描かれた竜の勇者達は、何時の時代も仲間と力を合わせて邪悪・・ミリアという名の者、或いはそれに連なる者に立ち向かったのだという。

「ミリア・・・・・ウルカンの女神。お主が探している神の名じゃ。
最も、ウルカンの民は神の御名も敵である竜族の名前すらも口にしてはいかん決まりらしいがな」
「それじゃあこの歴史はウルカンの民・・いえ、私達には残らないって事ですか?」

私が思わず口を挟んで、それに楽しそうにあくまでも明るくボノさんは笑った。

「そうじゃのう・・・本当にガーディアンとミリアにはやられたって感じじゃ!!
嬢ちゃんの言う通り、ウルカンの者達が神と竜の名を語らぬ限り、我等が滅んだ理由すら世には伝わらん・・・」
「ご老人・・私達を恨んでおいでで?」

ガーランドさんがボノさんに近づいて問う。
それにボノさんは緩く瞳を細めて首を横に振った。

「恨む・・?中にはそんな者もおったが、それは違うな。ガーディアン」
「それは・・・?」
「恨みに狂い、悪戯に血を流すのではない・・・。
これは───そう、宿命なんじゃよ、ガーディアン」
「宿命・・ですか?
ご老人、それは一体どういう意味です!お教えください、ご老人っ!!?」

ニッコリと笑っていたボノさんの顔に少々の怒り。
それはきっとガーランドさんがガーディアンだっていう事に対してじゃなくて・・・


「えーいっ!!老人老人言うな、同い年のくせにっっ!!!」


やっぱり・・・大戦を知ってるって事はガーランドさんとボノさんって年齢同じ位の筈だもんね。
なのにガーランドさんワザとじゃないかって思う位“ご老人”って連呼してたし・・まぁ、それが素だから困るんだけど。
ボノさんが手で“あっち行け”ってジェスチャーをして、ガーランドさんとリュウが困り果てた顔で戻ってきた。

「こうなったらワシ、ぴちぴちの女子としか口聞いてやらんっ!!」

ぴ・・ぴちぴちって、そんな拗ねながら言われても・・・。
チラリと視線を向ければ困ったような皆の顔。


「・・・・愉快だねぇ」
「あらー、私が行っても良いわよー?」
「あのなぁ・・学者さん。
どのツラ下げてピチピチだって?」
「あーっ!ひっどーぃっ!!」
「レイ、今の発言はどう聞いても失礼だよ?」
「そうよ!レイさん!!」

私とニーナが責めると“知らね”って言ってそっぽ向いた。
全く・・・って、あれ?モモがいない・・?

「ねぇー私じゃダメかしらー?」
「嫌じゃ嫌じゃ!
もっとぴっちぴちの女子じゃないとヤじゃ!!」

「・・・ぶっ!」

思わずレイが噴き出す。見れば“ほらな”ってさっきと打って変わって勝ち誇った笑顔を向けられた。
って!そうじゃなくて、私としてはさっきの発言が失礼だって言いたいの!!
“何よー、失礼しちゃうわー”なんて憤慨しながらモモが戻ってきて、まだ笑ってるレイにバズーカで一発・・まぁ避けたけど。

「でも、モモがダメなら私もダメだよね。やっぱりニーナ?」
「え?わたしですか!?
さんだって大丈夫ですよ!!」
「それで“嫌”って言われたら、流石に私だって傷つくよ・・?」
「え・・えっと・・・」

いや・・ほら、あれだけ嫌がられたら分かってたとしても流石にキツイと思うんだよね。
私だって女だし・・・一応。
ふとボノさんの方を向くと目が合った。柔らかい微笑みでこっちへ手招く仕草。

「そっちの翼の嬢ちゃん達、2人共来ると良い」
「え?は、はい」
「ほら、さんやっぱり!!」

手を叩いて嬉しそうにニーナが笑う。いや“やっぱり”と言われてもね?
後、モモの“良いなぁ”って視線が痛い。
でもどちらかっていうと私は年齢というより黒い翼を見てるような気がするんだけど・・・気の所為かな?



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