鳥篭の夢

青年期/竜族の隠れ里04



「じゃあ、嬢ちゃん達には竜族と女神ミリアの宿命について話そうかの」
「お願いします、お爺様」
「よろしくお願いいたします、ボノ様」

・・・って、ニーナ。
ガーランドさんがさっき“ご老人”って言って拗ねちゃったのに“お爺様”って・・・まぁ、笑ってるから良いか。

「よしよし、2人共良い子じゃな。
良くお聞き・・・」

ボノさんが口を開く。女神ミリアと竜族は常にこの世界を巡って争いを繰り広げていたという。
ニーナが“女神が世界を滅ぼそうとしているのを竜の一族が守ってきたのか”と問えばボノさんは首を横に振った。
そう・・そうなると矛盾が生まれる。
だって竜族が負けた時点で世界は滅んでいるんだから・・・。
寧ろ世界にとって危険なのは竜族の方かもしれないと、世界を滅ぼすに足る力を持っているのだからとボノさんは言葉を続けた。
女神ミリアはそれを恐れて竜の一族を根絶やしにしようと企んだのだと言う。

「そんな・・・じゃあ、リュウは・・・悪い竜・・・なの?」

恐る恐るニーナが口にする言葉。
でも私からすればそれも何だか違う気がした。
竜族が悪い存在なら、それこそもっと早くに世界は滅亡していたんじゃ無いかって思う。
だけどそうじゃないって事は・・・。

「そっちの嬢ちゃんはどうじゃ。
さっきからジッと話を聞いておったじゃろう?」
「私・・ですか?えと、そうですね・・。
ガーランドさんからは“竜族は殆ど力を使う事無く負けていった”と聞いてます。
竜族が本気ならばガーディアンなんて足元にも及ばない、世界を破壊しうる力。
だから単純に竜族が“悪”とは言えないと思います」
「ふぁふぁ、その通りじゃ。
竜族の力を使った全面戦争になれば、それこそ世界を滅ぼす危険性があった」
「え・・じゃあ、つまり竜族は世界の事を考えて?
竜族は悪くないの・・・?」

ホッとニーナが胸を撫で下ろす。
でも・・・何だろう?何ていうか、言い方が悪いけど・・そうなると“悪”が見つからない。

「まぁ安心するのはちと早いが・・もっと重要な話をするからワシの両横に来てくれんか?嬢ちゃん達」
「「え?は、はい・・」」

ニーナと同時に声を上げて、一度2人で顔を見合わせてからボノさんの横に行く。
一体なんだろう?

「えっと・・こうですか?」
「そうじゃ、それからちょっとしゃがんで・・・」

しゃがんで?


「ちゅー、してくれ」


へ?


「え・・っと?」
「如何しようリュウ?」

「・・・って、如何して俺に聞くの?」

困惑する私に、ニーナもリュウに助けを求めるように視線を向ける。
見れば問われて困ったような視線を返すリュウ。
それと明らかにレイへと視線を向けるガーランドさんとモモの姿。
ちょ・・それは一体どういった意味合いですか?2人共・・・。

「ねぇねぇ良いのー?レイー」
「ふむ、止めるなら今ではないのか?」
「ぷきゅー?」

「んな事ぁ知るかよ!俺に言うな、俺に。
如何するかなんての勝手だろ?」

何だろう・・?何だか今の言葉がちょっとムッと来た。
そんな風に言うならちゅーでも何でもしようかな!!
竜族の事も色々教えて貰ったし、お礼だから別に平気だもの。
・・・・何て、あぁもう自分なんでこんなに機嫌悪いんだろう?
屈んでボノさんの頬にキスを1つして、それに倣ってニーナも反対側の頬に同じようにキスをした。
満足そうなボノさんの顔。

「ふぁっふぁっふぁっ!
女子にチューもして貰った事じゃし、これでもう思い残す事は何も無いわい・・!」
「え・・?」
「おぉ、そうじゃ!!
・・・黒い翼の嬢ちゃんは先祖返りじゃな?
混血として雑ざった他種族の血が色濃く出た事によって作られる色彩・・・。
嬢ちゃんにも別の血が混ざっておるようじゃの」
「え・・そうなんですか!?」

確かに黒い翼が混血だからって事は知ってたけど・・流石にもう一方の血が強く出てるからとまでは分からなかった。
ボノさんは“最近はそういった知識も途絶えがちのようじゃな”って言いながら楽しそうに笑う。そうなのかもしれない。
私もまだ幼かったけど、大分本を漁って漸く見つけたのが“混血の結果”っていうだけだったし・・・知識として途絶えつつあるのかも。

「嬢ちゃんの身の内には強い力が流れておる・・・ワシらにも似通った強い力じゃ。
そっちの嬢ちゃんよりももっと強い・・・」
「えっと・・それは?」

どういう意味なんだろう?
それでもボノさんはそれ以上何も言わずにただ笑っていた。

「何、嬢ちゃんは賢い子じゃ。何れ分かる時も来よう・・・。
此処に来るまでにもう1つ部屋があったじゃろう?
大した事も無い書物ばかりじゃが、もし必要だと思えば持っていくと良い」
「・・?はい、ありがとうございます」

「───と、言う訳でそろそろ最後の仕事じゃ!
リュウよ、もう一度此処へ来い」
「あ・・はい!」

私とニーナが戻って、代わりにリュウがボノさんの所へ行く。
レイと目が合って、何でか凄く苛々して思い切り視線を逸らした。
モモがくすくす笑ってたけどその意味は分からない。


「・・・・この地の竜族は待った。
何時の日かやってくる御子に竜の真の力を伝える時を・・・。
竜の力を捨て荒れ果てたこの土地で生き抜いたのは、後世に伝える為の力を女神の目から隠し・・竜族の力は滅びたと欺く為じゃ。
まぁ実際はどうかは分からんが真の力はこうして守られてきた。ワシの中でな・・・。
今からその力をお前に伝えよう───」

ボノさんが立ち上がると同時に、その身体がふわりと光を帯びた。

「リュウよ・・我が血に連なる者よ。
その真の力を受け止めて見せよ・・・!!」

光がまるで柱のように伸びて、それがリュウへと真っ直ぐに落ちる。


「リュウーーっっ!!」


ニーナの叫ぶ声。
でも“真の力を受け止めて・・・”って事は、それは手を出してはいけないって事だよね。
その光が消え去った後には、怪我をした様子もないリュウとさっきまで立っていた筈のボノさんが座っている姿。

「御子よ・・お主に与えたのは最強の力じゃ。
世界を滅ぼすといわれた真の竜の力・・アンフィニ。
これを持ってすれば世界はお主の思うがままじゃ」
「えっと・・俺、それは別に・・・」
「ふぁっふぁっふぁ!!
・・・・心せよ、リュウ。これは女神を恐れさせた竜族の能力のひとつ」
「1つ?って事はまだ他に・・?」

不思議そうにするリュウに、ボノさんは私達へと視線を向けた。

「今一つの能力はそれ・・・信頼に足る仲間を作る能力じゃ。
我が一族の勇者と呼ばれた者達は、常に仲間と共にあり、最強の竜の力を、用いて・・女神を・・打ち倒し、た・・・」

ふと違和感を感じた。
途切れ途切れになっていく言葉・・に、呼吸も何だか荒い?もしかして・・・!!

「ボノ様!?もしかして貴方は・・・!!」
「ふぁふぁ・・なぁに、なんて事は無い。
・・・・・リュウよ、ワシはお主に・・先人と、同じ事をせよ・・・とは、言わぬ。
さぁ・・行くが良い・・リュウ・・・・よ。己が意志のままに・・・・・っ!!」

にこりと最期に笑う。


「さらばだ、我が血に連なる者よ!!」


ふ───と、ボノさんの姿は消えてしまった。
文字通り何も残らずに・・・でも、お亡くなりになったのだという事だけは分かった。
リュウはただジッと押し黙って・・・何だか、涙を堪えてるみたいだった。



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