鳥篭の夢

青年期/死せる砂漠02



「・・・ぁ」

不意に目が覚めた。
アレから本当に寝ちゃったみたいで陽も落ちかけてきてるのか風が少しだけ涼しかった。
見ればニーナもモモも寝てて、リュウとガーランドさんとペコロスと・・・あれ?レイがいない??
不思議に思ってテントの外に出てみて納得。
どうやら1人で見張りをしてくれてるみたいで、ちょっと申し訳ない気持ち。

「何だ、目ぇ覚めたのか?」
「・・・うん。寝てた事にも気付かなかった」

やっぱり疲れてるのかなぁ?なんて言いながら軽く笑えば“そりゃそうだろうな”って返される。
見れば殆ど沈んでしまってる夕日。反対側の空は既に深い藍色に彩られつつあって、もうそろそろ皆を起こして出発しなくちゃって思う。

「戦闘は俺とリュウとガーランドのおっさんでするから、あんま前線出んなよ?」
「でもここ数日ずっと任せっぱなしだよ?
モモとニーナは流石に動かせないけど・・私なら大丈夫。
リュウ達も・・レイも、そろそろ疲れが出る頃でしょう?それなら───」



強い調子で名前を呼ばれて、言葉が出てこなくなる。
向こうもそれが分かってるからそうするんだろうけど・・・。
何でか弱いんだよね・・レイにそうやって名前を呼ばれるの。

「ったく、お前が倒れたら意味ねぇだろーが」
「え?」
「ニーナも学者さんも・・他の奴等だってお前がまだ笑ってっから何とか持ってる様なもんだ。
それに馬鹿な事して倒れてみろ。
折角此処まで来たってのに砂豚で直帰確定だぜ?」
「あはは・・私って実はそんなに頼られてる?」

冗談半分に言ったのに“そりゃあ、な”ってマトモな返答で少し驚いた。
自分ではそんなつもりは無かったんだけど・・・。
あ、とりあえず笑ってた方が皆の気分も沈まなくて良いかなーとは思ってたかな。
動けるから動いてただけだし・・・本当にそれ位だよ?

「そんだけ出来りゃ充分だよ」
「・・・ありがと」

そう言われると少しだけ嬉しい。
流石にもう限界かなって思ってたけど、本当にもう少しで良いなら頑張れるような気がしてくる。

「さて・・と、もうそろそろ皆を起こしてくるね。
陽も落ちたし行かなくちゃ・・ね?」
「そうだな」

“いい加減砂漠も終わりだよね?”なんて僅かに出そうになった弱音を自分の中に押し込めて笑う。
きっと後少しだから大丈夫。
自分に言い聞かせてテントに入ると、苦しそうに喘ぐ様な音に嫌な予感。
視線を巡らせるとぐったりとしたニーナの姿があった。


「ニーナ?・・・ニーナ、どうしたのっ!?」
「ぅ・・うん・・・・あ、・・さ・・・」

緩く瞼を開けて私へと視線を向けた。
焦点の合わない瞳で、それでも精一杯に笑みを見せる。

「いえ、へーき・・です、わたし・・」
「無理して喋らなくて良いから・・気分悪いとか咽喉渇いたとかは?」

訊ねればニーナは小さく首を横に振った。
軽い脱水症状が起こってるみたいで、多分体力の低下と砂漠の暑さにやられたんだと思う。
とにかく少しだけでもニーナに食塩水を飲ませて、戻さないのを確認してからゆっくり横に寝かせた。
やっぱり私みたいに多少でも鍛えてる訳じゃないし、ニーナに砂漠越えは辛かったのかもしれない。
私だってもう辛いのに・・・。

「姉ちゃん、どうかしたの?
・・・ニーナ!?」

ふとリュウが眠たそうな瞳を擦りながら起き上がって、ぐったりするニーナに目を瞠った。

「む、どうかしたのか?」
「ん・・うぅ、どうしたのー・・?」

リュウの声で皆起きたみたい。
ゆっくりと身体を起こしてからその状況に同じように瞠目する。

「砂漠の暑さにやられた・・・か」
「多分そうだと思います。それに、連日歩き詰めだったし」
「ホントよねー。なのに街は見えないし無理ないと思うわー。
まぁ私だってそんなの言えるほど元気じゃないんだけどねー」

モモも体力がほとんど限界近いからか、凭れ掛かるようにしながら肩を竦めた。

「ごめんなさい・・きっと、もうちょっとなのに・・・」
「ぷきゅ~~~」
「ニーナは気にしなくて大丈夫だから・・ね?
もう少し寝てた方が良いよ」
「そうだよニーナ、休んで少しでも元気にならないと!!」
「うん・・そうだね」

リュウが努めて明るく言うとニーナは精一杯に笑みを見せて瞳を閉じた。
そのまま暫くするとすぅすぅと寝息が聞こえてくる。
それを確認して私とリュウはほぼ同時にため息をついた。
勿論、安堵の・・だけどね。ペコロスが傍で心配そうな顔をしてる。


「しかし・・あの様子ではこの先進むのは無理だろうな」
「そうですね。進むとか以前に、ニーナを動かす事が怖いですけど・・・」
「んーと・・・じゃあ如何したら良いのかしらー?」

進む事も戻る事も出来ない状況にお手上げだと言わんばかりにモモが両手を上げた。
“このまま干からびちゃうー?”なんて冗談でも勘弁して欲しいけど・・でも、このままだとその道しか残らないんだよね。
何か栄養価の高い食べ物とか・・そんなのが少しでもあれば良いんだけど・・・。

「俺、近くに休ませられそうな場所が無いか見てくるよ!」
「うん、ありがとう」

リュウが立ち上がってテントの外へと出て行った。
レイと何か2、3言葉を交わした声が聞こえてそれから砂を踏む音。
無事に良い場所が見つかると良いけど・・そう上手くいくかな?
ニーナが苦しそうに息を吐いて・・眠ってはいるんだけど、不安。


「きゃっ!?」

急に地震みたいな大きな揺れに身体がよろめいて・・な、何??

「何かあったのかもしれん、見て来よう・・・」
「あ、いえ。私が行ってきますからガーランドさんはニーナ達をお願いします!
ガーランドさんまでいなくなったら流石に私1人では皆を守れないですから・・あ、もし何かあったら呼びますから、ね?」
「・・・・ふむ、分かった」

捲くし立てる言葉にガーランドさんが頷いてくれた。
良かった・・モモも戦闘は出来ないだろうし、ニーナは動かせない。
そんな状況でガーランドさんがいないのは本当に痛手。
何でもありませんように・・・っ!強く祈りながら私はテントから飛び出した。



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