鳥篭の夢

青年期/死せる砂漠03



「それで・・・如何してこうなったのかな?」
「え、えっと・・・」

問えばリュウが酷く困った顔をしたのが分かる。
あー・・っと、ごめん。今のは流石に訊き方が悪かったね、反省。
それからリュウがその表情のままで“小山だと思って登ろうとしたらモンスターだった”と説明してくれた。
眼前の巨大なモンスターは確かに砂に埋もれれば小山に見えなくもない大きさだし、多分そういう狩り方をしてるんだろうなぁ。
見渡すのに丁度良さそうな小山になる事で獲物を引き寄せて狩る。
砂漠だしそうしないと食糧にありつけないのかも。
でも漸く状況が理解できた。
テントから出て真っ先に見えたのが、2人とモンスターが対峙する姿なんだから・・・本当にビックリ。

・・・て、モンスターについて考察してる場合でもノンビリ状況把握してる場合でもないんだよね。
早く何とかしなくちゃ。視線を一瞬だけテントに向けてそう思う。
モンスターが巨大な拳をただ大地に向けて幾度も振り下ろす。震動が神経を逆撫でる感覚。
正直な話、流石に私もちょっと苛々してたりする。焦りよりも苛立ちが強い。
ただでさえニーナが倒れて気が急いてるのに、モンスターが出てきて・・多分、威嚇なんだよね?あれ。
あんな奴どうでも良いから早くニーナを休ませたい。
こんな事してる場合なんかじゃないのに・・・っ。

・・・・・あぁもうっ!いい加減に・・・ッ!!


───プチ・・


自分の中で何かの糸が切れた音。
それから私の身体から今までにない量の魔力が溢れ出る感覚・・・同時に僅かな恐怖。
だけど溢れ出る魔力は止まらないまま私を覆い尽くして、直後、普段では考えられない位に高く身体が飛んだ。
遠くの方に日も暮れたというのに明かりが見える。
・・・あれは、何だろう?
声を発して自分の何時もの声でも言葉でもなくて、まるで獣・・ううん鳥のソレだって分かって怖くなる。
ただ本能が危険だと告げた。



駄目  コレ以上ハ 戻ッテ来レナクナル



頭の中に言葉が並んで、だけどそれと同時に奇妙な開放感があって・・相反する感覚にゾワリと背筋が凍った。
そのまま纏っていた魔力を一気に大地に放出すればモンスターの断末魔のような声を聞いた気がする。
・・・あまり、良く分からない。


!」
「姉ちゃん!!」

レイとリュウの呼ぶ声に気付くと、私は砂の上に座り込んでいた。
あの巨大なモンスターの姿は既にない。
さっきまで自分が如何だったのかも記憶に薄いのに、それでも酷い疲労感が全身に纏わりつくみたいで気持ち悪いと感じていた。

「私・・今、どうなってた?」
「あ?覚えてねぇのか?」

一度頷くと、レイは困ったような顔をして乱暴に自分の頭を掻く。

「一瞬だけ鳥になったんだよ」
「・・・鳥?」
「うん。凄く大きくて・・姉ちゃんの翼と同じ色をした鳥だった」

“大鳥変身”───飛翼族固有の能力を不意に思い出す。
でもあれは大昔に失われてしまった能力の筈。
だけどリュウ達が嘘を言ってるようには見えないし、元々2人が嘘が苦手だって事は分かってるからそれは本当なんだろう。

「失われた筈の力、なのかな」
「え?」
「んー・・・大昔の話なんだけどね、飛翼族って大鳥に変身する能力があったの。
多分2人の話からすると今のはその力だと思う。
でも血が混ざって薄まってるから、今では最も血が濃いとされる王族だって鳥になる事は出来ない筈なんだけど・・」
「へぇーそうなんだ」

リュウが驚いたような意外そうな声を上げる。
私だって驚いた・・・だって大昔の能力を一瞬だけでも使ったって事なんだから・・。
でも少し間違ってる気はする。
魔力を鳥の形に纏わせてから実体化なんて変な話だし・・・だからこそ私は戻る事が出来たのかも。

「まぁ体力使うみたいだから頻繁には使えないだろうけどね・・?
あ、そうだ。ちょっと記憶の端に残ってる程度だけど、ずっと北の方に灯りみたいなモノが見えた気が・・・」
「本当、姉ちゃん?!!早くニーナに報せないと・・・!!」
「・・って、リュウ待って!
その前にニーナを動かす方法を・・・考えないといけないのに・・・」
「行っちまったな」

少しでも手がかりが見つかって嬉しかったんだろうなぁ。
テントに入って行ったリュウの後姿を確認して、レイと顔を見合わせて苦笑。
でも見間違いじゃないと思うし、少しだけ希望は見えたかな?
何とかしてニーナを動かせるようになったら早めに進まないとね。


「・・なぁに?」

「顔色悪ぃな」

そっとレイの手が私の頬に触れる。
瞳が心配だと訴えていて、それに大丈夫だと笑みを見せた。

「私は平気だよ。
・・・・・あ。それとね、レイ。私少しだけ分かった気がする」
「何がだ?」
「変身する時の、あの感じ・・・」

レイの表情が僅かに強張る。

「気分が高揚して、酷く開放感があって・・でも自分じゃなくなりそうで凄く怖かった」

あの感覚を思い出したくない。
まるで理性を熔かすような・・・一歩間違えれば完全な鳥になって二度と人に戻れない。
本来であれば衰え失われていた飛翼族の力。
ディースさんが力を解放してくれた時の副産物か、こっちが本来の目的かは分からないけど。
でも文献の内容が本当なら、黒翼が見られた辺りで自由に変身する事も鳥から戻る事も出来なくなってた筈・・・。

「その力、出来るだけ使うんじゃねぇぞ」
「・・・・うん。よっぽどじゃない限りは使わないよ」
「安心しとけ、それなら俺が使わせねぇよ」

まるで確信したようなソレが酷く安心できて・・・だから自然と笑みが零れた。
“ありがとう”って言えば照れたような顔。
さて、次はニーナを少しでも元気にしないと!!
一応方法が・・・思いつく限りで1つだけあるんだけど、ね。



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