鳥篭の夢

青年期/死せる砂漠04



リュウが砂豚を斬った。

私も1つだけ考えていたニーナを動かなさいまま唯一出来る体力を回復させる方法。
ホイスさんの話では砂豚は帰巣本能が強いだけじゃなくて栄養価も高くて、もし暑さに倒れたとしても回復させられる。
ドラグニールでも丸焼きが出てきたしね。
だけど砂豚を斬るという事は回復させると同時に先に進む以外の道が無くなるという事。
確かに私は“灯りを見た”けど、でもそれは曖昧で確証がある訳じゃない。
それでも私を信じてくれて、きっと辿り着けるからって強い瞳で言われたら・・本当に大丈夫に思えてくるから不思議。
本当に小さい頃から考えるとリュウは凄く強くなったなぁ・・なんて。

───うん、大丈夫。きっと私達は辿り着けるよ。

でも、如何してかな?
リュウが砂豚を斬ったって聞いた時、頭の中で鵺の事を思い出したの。


「ぁ・・・、さん。リュウ?」
「ニーナ、食事は出来そう?」
「・・あ、はい。多分・・大丈夫です」

起き上がるニーナをリュウが支えて、砂豚の肉を使ったスープを差し出せばニーナはソレをゆっくり咀嚼して飲み込んだ。
これで少しはマシになるんじゃないかな?
私達の為に犠牲になった砂豚の生命・・それを全員で頂いて私達も少しだけ休む。
暫くすればニーナも歩ける程度には回復した。
歩けると言っても足取りも覚束無い危ない状態ではあるんだけどね。

皆が皆を庇いながら灯りを目指して歩く。
灯りがどんどん近づいてきて、あぁ・・やっと辿り着いたんだって安心したのが悪かった。
視界がぐにゃって歪んで───暗転。
何だか誰かの声が聞こえた気がしたけど、よく覚えてない。



「・・・・ぁ、れ?」

陽光が差し込んで不思議に思った。
だってさっきまで砂漠を歩いてた・・よね?私。
それからブランケットとシーツの感触。
目を開ければテントとは違う天井に此処が砂漠じゃないんだって理解した。
村か何処か分からないけど一応人の生活できる場所には辿り着けたみたいでちょっとだけ安心。
でも途中から記憶がないんだよね。

「あらー、目が覚めたかい?」
「あ、はい。すみませんご迷惑をおかけしてしまったみたいで・・」
「良いんだよ。
困っていたら助け合う、無い物は分け合うのがオアシスでは当たり前の事なのさ」

ニッコリと恰幅の良いおばさんが笑う。
私も笑顔で返して、それから隣のベッドを見れば眠ってるニーナの姿があった。
テントにいた時とは違う安らかな寝顔にホッと一安心。

「少しだけ外に出てきますね」
「はいよ、でも体調は大丈夫なのかい?」
「えぇ、もうすっかり。
ありがとうございました」

笑みを向けたまま外に出る。
砂漠みたいな暑さだけど、水辺が近いからか風は涼しくて心地良い。
一度大きく伸びをしてそのまま上を見れば屋根の上にレイがいるのが見えた。
向こうも私に気付いたみたいでひらりと上から降りてくる。


「もう平気なのか?」
「うん、御心配おかけしました」
「ホントにな」

ワザとらしく肩を竦めるレイに小さく笑う。
でも心配かけちゃったのは本当だから申し訳ないっていう気持ちもあるけど・・。
あれから私がどうなったのを訊いた。
どうやらオアシスに辿り着く本当に直前でイキナリ私が倒れたらしい。
リュウもモモも、珍しくガーランドさんも驚いてたみたい。
それで後少しだからってレイが担いでくれてオアシスに到着。
その頃には本当に皆ボロボロだったみたいで・・・あの時、砂豚を頂いたのは本当に懸命な判断だったんだって納得した。

「それにしてもリュウの取り乱しっぷりは凄かったぜ?」
「あはは・・そんなに?」
「そりゃあ───」

「あ、姉ちゃーんっ!!」

偶然なのかはたまた何かを感じ取ったのか、走り寄って来るリュウの姿に思わず笑う。
いやだって凄い丁度良いタイミングじゃない?
まるで仔犬みたいな笑顔のリュウは傍に来るなり“大丈夫?”とか“休んでなくて平気?”とか一生懸命に心配してくれる。
それはくすぐったくて嬉しいんだけど・・やっぱり同時に申し訳ない。
オウガー街道に続いてまた心配させちゃった。

「あ。そういえば私は今回どれ位寝てたの?」
「え?えっと、着いたのが昨夜遅くだから半日位。
でも姉ちゃんが倒れた時は本当にビックリした・・」
「うん、それはレイから聞いたよ。
また心配させちゃってゴメンね?」
「・・って、兄ちゃん何言ったの!?」
「別にまだ何も言ってねぇって」
「“まだ”!?」

これから言うつもりだったのかと困ったような視線をレイに向けて、それがおかしかったみたいでレイが咽喉で笑う。
・・・ふ、と。また感じる違和感に心が締め付けられる。
心配してティーポが出てきてくれるっていう訳でも無いのに・・・駄目だな、私。

「・・・姉ちゃん、やっぱり辛い?」
「ん?ううん、平気だよ」
「あんま無理はすんじゃねーぞ」

心配してくれる姿。
うーん、強くなるって決めたのに・・・ダメだなぁ。
とりあえず笑顔でいる事から始めてみようかな?
そうしたらあんな顔させないで済むよね。
神様に近づいてリュウも悩んだりする時だろうし、負担にならないようにしなくちゃっ!
ただでさえ私は戦力外なんだし・・・よしっ!

「ね、リュウ。神様については何か分かったの?」
「あ!ソレなんだけど・・・・」

少しだけ真剣な顔になって話し始める。
此処の村長さんに聞いても“神様”は知らないみたい。
でもオアシスから北へ丘を1つ越えた所に古い遺跡・・『古の都』があるみたいで、ガーランドさんも“もしかしたら”って。
ドラグニール人達も砂漠の向こうに女神がいるって言ってたんだから本当に神様がいるかもしれないよね。

「“古の都”・・・かぁ。
都って言う位だから今まで見てきた遺跡よりも大きそうだよね」
「しっかり休んでから行かねぇとな」
「また倒れたられたら困るし?」

口の端に笑みを乗せて訊ねれば“当たり前だ”と返された。
あぁ本当に心配してくれたんだろうなぁ、なんて。

「大丈夫だって、半日も寝れば私は充分。
それより心配なのはニーナの方・・・まだ起きてこないみたいだし・・・」
「うん。早く元気になってくれれば良いんだけど」
「・・・だな」

とにかくニーナが元気になるまではオアシスにお世話になるのかな?
それまでに私も体調を万全にしておかないと・・・ね。



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