鳥篭の夢

青年期/女神の閑居02



───ぐるるるるるる・・・・ぐるるる・・・


「良く眠ってる・・・よね?」

前方には獅子と山羊を混ぜたみたいな獣。
背には翼、足は無くて胴体は途中からまるで蛇の様な奇妙な姿。
とにかく見るからに危険だって分かるのに此処まで来たのには理由があって・・・

さん・・今ならあのカードみたいな鍵、取れますかね?」
「このまま眠っててくれたら、だけどね」
「愉快だねぇ。あんな所の取りに行くとか・・全く」

そう、あの獣の近くにあるカード。
此処に来るまでに何度かあんなカードの形をした鍵があったから、今回もそうじゃないかって。
確かに幾つか機械で開ける鍵の掛った扉があったからアレが必要である可能性は高くって・・・それで一応此処まで来た訳。
獣を眠らせてるであろうガスを近くのスイッチで切ってコッソリ近づく事までは出来たんだけど・・。

「今なら大丈夫だよ。
とにかく俺が行って来・・・あ」

目が・・・覚めた。

「・・・て、訳にゃいかねぇか」
「流石にそう甘くは無かったという事だな」


『グルギャァァ・・ッッ!!!』

───ガッチャーン・・ッ!!


獣の凄まじい咆哮にガラスが粉々に砕け散る。
私達を敵だと視認している敵意に満ちた瞳・・戦うしか無さそうだね。
ニーナが既に魔力を溜めていて、でもそのまま戦うのは不安に感じたから私もアシスト魔法を使おうと精神を集中させる。

「ミカテクト!!」
「パリアっ!」

多分リュウも同じ事を考えてたんだと思う。
私とほぼ同時でアシストをかけて防御を上げていく。
と、不意にペコロスが飛び出した。大きく息を吸い込んで獣に向かって思い切り吐き出す。

「ぷきゅー・・・っ!」

アレは・・冷気?
それを思い切り獣の顔に吹き付けて、叫びながらぶんぶんと振るう獣の腕を上手く掻い潜って戻ってきた。

「ペ・・ペコロス、そんな事も出来たの?」
「ぷき!」

まるで自信満々な笑顔。
初めて見たからビックリしたけど本当は色んな事が出来るんだね?ペコロス。
なんていうか・・・“変異植物”だって思えば、これからペコロスがどれだけ凄い事を出来てもおかしく無いような気がしてきたかも。
少し擦り剥いていたからリリフを唱えて顔を上げれば、丁度獣の胴体・・・蛇の尾の先がまるで何かを狙うように揺らいだのが見えた。
その対象へと視線を持っていくと・・ガーランドさんの姿。
あぁ多分あの人は避けられないって、無意識に魔力を纏う。

「ハサート!」
「・・っく!すまない、!」

まるで鞭のようにしなやかに伸びた蛇の尾。
ガーランドさんを青いキューブが包み込んで間一髪でソレを避けた。
少しだけ申し訳無さそうなガーランドさんに、私は一度笑顔で返してまた敵へと視線を向けた。

どうしよう?攻撃はしたいけど・・・でも流石にこんな所で大鳥になるのは邪魔だし逆に身動き取れない。
出来る事なら使いたく無いって気持ちもあるし・・いや、戦闘でそんな我侭言ってられないか。
・・・でも他にも何かあった気がする。えっと・・・


さんっ危ない!
───バルハラーっ!!」
「・・っ!?」

激しい落雷。
それがあまりに近くて反射的に後ろへ跳ぶように下がれば目前まで近づいていた獣の姿。
考え事してたから気付かなかった?
でもそれにしては獣との距離が近すぎる。さっきまでの距離を考えればもっと早く気付けた筈。
アレだけの巨体なら尚更・・・じゃあ、何故?

「大丈夫ですか?さん」
「うん、平気だよ。ありがとうニーナ」
「いえ・・」
「でも、まさかワープするなんて・・・」

ワープ?リュウの言葉で私が気付かなかった理由が分かった。
一瞬で移動されたらすぐには気付けないしどちらにせよ・・・いや、対応が遅れたのは私が悪いんだけどね。

「それにしても、ワープは流石に厄介ねー?」
「うん・・如何したら良いだろう?」

悩むようなリュウの言葉。
今まで黙していたレイが不意に口を開いた。

「俺が囮役やるから、その隙をついて攻撃しろ」
「・・って、それだとレイが危ないでしょ?」
「だがソレ位しか手はねぇぜ?
それに俺ならお前らよりも早く動ける」

それは間違いない。
無闇に周りへ攻撃が行くって事は狙いが付けられないし、レイが誰よりも早く動ける事も囮役としては充分。
だけどソレをそのまま了承するのはあまりに危険だよ。
もし避けれなかったら?僅かでも生きてるなら治療のしようがあるけど、もしもあの時みたいな事があれば・・・。
そんな考えがあるから私はそのまま答えが出せずにいた。

「・・・?」

チリチリと燃える様な熱い魔力。
ゾワリと嫌なものを感じ取って無意識に口が開いた。

「ペコロス、さっきのアイスブレスお願い・・!」
「ぷきゅう!!」

それに思い切り息を吸い込んだペコロスが再度冷気を吐き出した。
直後に火柱が上がり、アイスブレスと交わって水蒸気になる。

「うわっ!?」
「きゃっ!!」

叫ぶ声がちらり聞こえて、それでも薄く視界が曇っただけで近くにいた全員の姿は確認できる。

「今なら好都合だ。行くぞ!」
「あっ!レイ───!!」

返事を待たぬ内にレイが駆け出していってしまった。
別に良いけど・・・水蒸気が晴れるまでは逆に攻撃出来ないよ?なんて少しだけ。
いや、でも攻撃魔法を魔力を溜めて使うなら好都合なのかもしれない。

「ニーナはドメガ、モモはメコムで攻撃用意して。
私も・・ちょっと試してみるから」
「えぇ、分かったわー」
「はい!分かりました、さん!!」

・・・って言っても、本当にどうなるかは分からない。
ボノさんの所から頂いてきた書物の1つにあったもの。
確か“魔力を剣に形状変化させて攻撃”する方法。
何時もは実物の短剣に魔力を付与させてたけど・・それの応用だよね?
精神を集中させて魔力を手の平に集め、鋭い剣のイメージに魔力を重ね合わせて形作る───。

「皆、今だ!!」

リュウの声、顔を上げれば水蒸気が晴れて獣の姿が現れた所だった。
モモとニーナと顔を見合わせて魔力を放つ。
爆発が起こり、まるで隕石のような大岩が降り注ぎ、私の作った剣が獣に深々と突き刺さって・・・そうして獣は地に伏した。
黒焦げやら何やらで何だか凄い状態になってるから、多分生きてるって事は無いと思う・・・流石に。

「・・・どうやら、倒せたようだな」
「ったく。手間取らせやがって」

チラリとレイが獣を見やり、近くに落ちていたカードの鍵を拾う。
まぁでもこれで先に進めるんだし良いんじゃない?なんて。

「でもあんまり重要そうには見えないわねー?」
「愉快だね・・・痛い思いしてソレか」
「うーん・・でもきっと無駄にはならないでしょ」

・・・多分、だけどね。
さて皆も何だかんだ怪我をしてるし、さっさと治して先に進みましょ?



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