鳥篭の夢

青年期/もうヒトリの01



「う・・・わぁ」
「すっ・・ごぉーい!!」

広がる空間に思わず声を上げる。
あれからカード型の鍵を使って向かった先・・“エデン”と呼ばれる場所。
最初は外に出たんじゃ無いかって思ったけど、でも見上げて天井があるから室内だって分かった。

「外に出たのかと思ったら部屋ん中だな、コレ」
「うん。ちょっとビックリした」
「わたしも・・でも、もしかしたら此処に神様が?」
「ぷ?」

悩むニーナにペコロスが不思議そうな顔。
まぁ確かに神様が出てきても不思議じゃない位の場所だけど・・・。
穏やかな空気は“楽園”なんて名前だけはある。
ただ・・・本当に少しだけ、シーダの森に似ている気がした。

歩いていると遠くから不意に翼の羽ばたく音。
見れば美しい青い羽をした鳥が私の肩にトンと乗った。

「・・・ん、どうしたの?」
「可愛いね、こいつ」

何を考えているのか分からない瞳。
似た色の翼だから気になって寄って来たのかな?
リュウも鳥の顔を覗きこんで緩く笑みを見せた。
と、鳥は突然羽ばたいて遠くへ飛ぼうと───して、壁に激突した。


「自分のいる場所を弁えずに遠くへ飛ぼうとするとああなる・・・」


低くて・・聞いた事が無いのに、懐かしさを感じる声。
その声の主は身体に何羽かとまらせていた鳥達を宙へ飛ばすとこちらへ歩み寄ってくる。
リュウが警戒するように剣の柄へと手を伸ばして、でもそのまま固まったのが見えた。

「分かるだろう、リュウ?
・・・・・此処まで来るとは流石に竜族と言うべきか?」

紫色の長髪をオールバックにした、赤い瞳の青年。
ずっと大人になったけどその面影に見覚えはあって・・・。
そう───ずっとずっと探してた・・・・私達の、もう1人の弟。

「ティー・・ポ?」
「お前、ティーポか?」

レイと同時に声を上げて、あぁやっぱりそうだって確信。
だって2人同時に見間違うなんて有り得ない。
こんな場所にいる理由なんて分からないけど・・生きててくれて、その事実が酷く嬉しかった。

「・・・あぁ、そうさ。兄ちゃん、姉ちゃん」

やっと会えた。

肯定の言葉が嬉しくて思わずティーポに抱きついた。
それをティーポは片手で受け止めてくれる。

「ティーポ!」
「良かった・・・ティーポが生きててくれて、会えて良かった・・」

「───・・・うるさいな」

ぐぃと身体を押されて、その手もすぐに私から離れる。
一瞬酷く淋しげで焦燥するような瞳の色だったのは気のせい?
同時に今まで言われた事のない言葉に少なからずショックで・・後ろに下がればレイにぶつかる。
“あ、ごめん”なんて言葉も出てこない。多分レイも同じ気持ちなんだと思う・・・何も言わない。

「俺は、リュウに話があるんだ」
「ティーポ・・・」

視線をふぃと背けるようにリュウの方へと向ける。
さっきの瞳の色合いなんてとっくに消えてしまっていて・・・。
何だろう?少し雰囲気が変わってしまったからかな?何だかずっと違和感しか感じない。

「よく此処まで来た、リュウ。
だが、お前の旅は此処で終わりだ」
「それは、如何いう事?」
「お前が探しているもの・・それを俺が教えるという事だ」

それにリュウも私達も瞠目した。
ティーポが、リュウの問いを・・・・?

「何故“俺達”竜族が滅びなければならなかったのか・・・・」

ティーポも竜族?
まさか、本当に・・・ティーポもリュウと同じ竜族・・・・なの?

頭が混乱している中で、ティーポがゆっくりと口を開く。
ティーポが初めて竜の力に気付いた時・・それはシーダの森の、私達が離れ離れになった時らしい。
あの時、水面に映ったドラゴンの自分を見た時・・自分がただの人では無い事に気がついたって・・・。
それから沢山の血を流した・・・自分の血も、他人の血も。それはリュウと同じ。

「俺達の行く先々で争いが起きる・・・戦い、傷つけ、血を流す。
それが竜族だ!それが俺達なんだ!!
竜族は世界にとって危険すぎる。
存在するだけで世界を脅かす力、そして人々を巻き込む宿命・・・」

表情を僅かに曇らせながら吐き捨てるような言葉。
・・・・あぁ、何だ。ティーポはやっぱりティーポだ。感じてた違和感が少しずつ溶けていく。
だって“人を傷つける”から力が危険で、誰も巻き込みたくないんでしょ?
昔と何も変わらない優しいままの子。


「・・・で、ティーポ“さん”は女神に何か吹き込まれてリュウを殺そうと待ち構えてたのか?」
「レイ!?」

肩を竦めて皮肉を込めたレイの姿。
あれ、レイは気付いてないの?それとも気付いてて言ってるの?
ティーポの根本は変わって無くて、辛そうな顔してるのに・・。
レイの言葉にティーポが僅かに動揺して何度も首を横に振った。

「違う・・っ!あの方は何人も滅ぼそうなどとはお考えになりはしない!!
竜の力のような恐ろしいものが、コントロール出来ぬまま世にある事を心配なさっているだけだ!!」

強く拳を握り締めてティーポは眉根を寄せた。
まだ少しだけ違和感・・何だろう?雰囲気じゃなくて、でも違う。

「リュウ、俺達は他の連中とは違う。一緒にいてはいけないんだ」
「・・でも、ティーポ!」
「だから俺と此処に残れ。ミリア様と共に在るんだ!」

困ったような言葉にティーポは尚も言葉を重ねる。
それにリュウも今度は真剣な瞳になって首を横に振った。

「ティーポ、嫌だよ。そんなの絶対に違う!」
「・・・やはり、すぐには分からんか」
「ティーポ!」
「ならば、ゆっくりと考えると良い・・・・心の奥深くで!」

ティーポが指を前に出した直後、目の前が真っ暗になる。
意識が勝手に堕ちていく感覚・・・・これは、何?



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