鳥篭の夢

青年期/もうヒトリの02



意識の覚醒。

唐突に目が覚めて、まるで自分の周りだけに小さな灯りが燈っているような小部屋のような場所。
あぁ、ズブロ火山の遺跡でディースさんとお話をした時もこんな感じの場所だったっけ?なんて思い出す。

『黒翼は不吉の象徴・・・災厄を呼び込むモノ。
“私”はずっとソレを御伽話だと思ってたけど・・本当は如何なのかな?』

不意に聞こえる声───私の。
闇から浮き出るようにして現れた“私”が私の目の前に来る。

『ティーポは竜族の力が“争い”を呼ぶと言っていた・・・けど、じゃあ災厄を呼び込む黒い翼は?
自分が竜族だって事すら知らなかった2人に“竜族の争う力”という災厄を齎して、レイも巻き込んだ・・』
「・・・・そんな事」
『無い・・なんて言い切れる?』

何処か諦めた顔。
離れ離れになったばかりの私はきっとこんな顔をしてたに違いない。

「それこそ確証が無い・・・黒翼は単なる混血の証なんだよ?
私は逃げ道を作ってるだけ。自分の責任、自分の罪から逃げようとしてるだけ。
それじゃあ何にもならない」
『でも、ニーナは私が連れて行った。
母様に“護ってみせる”なんて豪語して・・・今まで何度危険に遭わせたの?
砂漠でだってあの子を生命の危機に晒した。最悪あのまま死んでしまったかもしれない。
ウインディアから───父様と母様から“私”がニーナを奪ったかもしれない。
2人にも国にとっても大切な子を“一緒にいたい”なんて自分の我侭で!』

ただ言葉が出ない。

『黒翼の災厄がニーナを危険に晒してないなんて、如何して言えるの?』
「違う!あの子を危険に晒してしまったのは私の弱さであって黒翼は関係ない!
そうやって逃げるのはもう嫌なの!!
そんなの、あの時の・・・シーダの森の時だけで充分だよっ!!」

声を荒げた。そうだ・・・私は今までこうやって逃げてきた。
“黒い翼だから”“黒い翼が災厄を招いたから”───でも、違う!
結局は自分のした結果じゃない!ニーナを危険に晒したのも私が弱いから。
シーダの森の事だってそう・・・私達が行動した結果であって黒翼の所為だなんて、災厄だなんておかしい。

「いい加減認めなくちゃいけないよね。
私は自分自身の弱さと向き合わなくちゃ・・・」
『・・・・そう、私は弱い。誰よりもずっと・・・』

皆みたいな腕力も、攻撃魔法を使う事も出来ない。
だけどディースさんは覚悟があれば強くなると言ってくれた。
もう、あの時のままの弱い私じゃない筈でしょう?私はあの時決めたでしょう?


「『絶対にリュウを・・家族を護ってみせる』」


漸く私は“私”と笑う。
簡単だよ・・・答えは最初から決まってる。

「確かにリュウを失うのが怖くて一緒に来た。
もう私よりもずっと強くて今は護られてるけど、それでも心配で・・・。
竜族の事、神様の事、世界を破壊する力。
ちっぽけな私には分からない。けど、私は自分の意志で一緒に来た・・・それは本当」
『それがたとえ自分の死に繋がろうとも』
「大切な弟を護れるなら・・・」

あぁ、何だ。結局考えてる事は一緒だったんだよね。
ただ奥底に封じ込めた矛盾と弱さが出てきただけ。
もう黒翼の所為にはしない。
私は私の力で、命を懸けてでも家族を・・大切な人を護ってみせる。
大丈夫、私は諦めない。
決意が力になると知ったから・・・“黒翼の所為”なんて逃げる必要は無いでしょう?



『決意、出来たのね』

「え?」

聞き覚えの無い声。
私が消えて、代わりに純白の美しい翼を持つ飛翼族の女性が現れる。

『黒い翼が存在するのは全て私が原因。どうしても愛する男と結ばれたくて・・・。
種族としての血が薄まると分かっていて、それでも私は自分の想いを・・・他種族の男を選んでしまった』
『でもご先祖様、それは私も同じ事です』

もう1人。私と同じ黒色だけどもっと大きな翼の女性。
この方達・・・何だか見覚えがある・・・確か───

「あの壁画の・・飛翼族の方々?」
『そうよ。そして同時に貴女の・・の先祖でもある』
「・・・ご先祖様、ですか?」

ご先祖っていうと歴代マクニール家位しか思い出せないけど、何だか少し違う気がする。
不思議がっていると2人ともくすくすと笑った。

『そう。そして常にリュウと共にあった飛翼族・・・私達はニーナ』
「ニーナ・・妹と同じ名前?」
『私達“ニーナ”は常にリュウと旅をしてきた。
貴女の妹のように・・・』

じゃあ何故私の所に?
言葉には出なかったけど理解したように頷いてくれる。

には強い決意と、竜族の血が感じ取れたの・・・黒い翼が齎した偶然の産物なのだけど』
『私と同じ・・ただ黒い翼というだけで不吉を招くと追放された。
でもその本当の脅威は“内包された強大な力”にあるの。それが“不吉”であり“災厄”とされたのよ』
「では、やはり黒い翼は・・?」
『それは貴女が・・が決めるのよ。
勿論、私はそうじゃないって思っているわ。
いえ、思えるようになった・・・という方が正しいのだけど。
でもそれはずっと支えてくれたリュウのお陰・・・』
『あらあら、ニーナったら惚気ちゃって~!』
『ご・・ご先祖様!もぉ!!』

白翼のニーナ様に肘でつつかれて、黒翼のニーナ様の顔が赤くなる。
何だか妹のニーナを思い出す・・て、名前一緒だけど。

『・・・そ、それでね!
竜族の血を感じ取れる貴女になら、この世界を動ける筈だから・・』
「え?」
『家族を・・弟さんを守るヒントが何かあるかもしれないわ』

それはティーポの事かリュウの事か分からないけど、でも鼓動が跳ねるのが分かった。
不意に黒翼のニーナ様が私の手をそっと優しくとって握り締め、まるで祈るように瞳を閉じる。

『貴女の家族をどうか守ってね。
私は妹を守れなかったから・・・どうか』

言って、2人の姿は消えてしまった。その向こうへ光の道が点々と続いている。
この先に・・ティーポが?或いはリュウが。
でも家族を守る為なら何も怖い事なんて無い・・さぁ、行きましょうか!!



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