青年期/もうヒトリの04
「姉ちゃん!その血・・どうしたの!!」
「さんっ!もしかして怪我したんですか!?」
「・・んー、ちょっとね。
でもちゃんと治してるから安心して」
駆け寄ってきたリュウとニーナが私の姿を見て開口一番そんな事を言う。
回復魔法の欠点は出血は元に戻らない事だよね。
服にべったりと血液が付いてて見た目悪いし。
2人は傷が無い事を確認して一度ため息を吐く・・納得してくれて良かった。
何も言わないけどレイも心配そうな視線だけを私に向けて小さく息を吐いた。
変な所で心配性だなぁ、なんて思わず苦笑。
モモ達も集まってきて一体何があったのかと不思議そうな顔をした。
「・・・・何だ、リュウ。戻ってきたんだな。
悪夢に喰われたら竜の力を失うだけで命は助かったものを・・・」
「ティーポ・・それでも俺は───!」
リュウが剣の柄を握り締めて構える。
・・・構える?如何して?
「お前があくまで竜の力を捨てず、ミリア様に下らぬというのなら・・・俺は・・・お前を・・・・・・・」
ティーポから放たれる殺気と強い力。多分、竜族の・・・。
如何してこんな事を?なんて頭で考えてる余裕も無い。
ただその先を言って欲しくなくて私は早足でティーポに歩み寄っていた。
───パァン...ッ!!
「お前を・・・なんて言おうとしたのっ!?ティーポ!!」
叩いた手が痛い。乾いた音が響いて・・・声も自然と荒げた。
それから剣の柄に手をかけたまま瞠目して固まってるリュウへと向く。
「リュウも、剣から手を放しなさい!!」
「・・・ぁ・・」
今まで一緒に暮らしてきたお陰だと思う。
普段は出さないような強い命令口調にリュウは身を竦ませて手を放す。
それを確認して私はティーポへと向き直った。
まるで呆然とするようにも見える表情。
「2人は兄弟でしょう?折角の同じ種族でしょう?
なのに如何して争う必要性があるの!?
竜族の力を捨てないから?竜族の力が争いを呼ぶから?
・・・だからって2人が殺しあう理由にならないよ」
「姉ちゃんは竜族の力を理解して無いからそんな事を言えるんだ。
竜の力が世界を脅かして滅ぼす事を・・それを野放しにしておく事の恐怖を理解して無いから・・・」
「そんな・・竜族は邪悪じゃないわっ!
だってリュウはずっとわたしを守ってくれたもの!」
「そんな単純な事じゃない!!」
問いとは微妙にずれたテイーポの答え。
それに更にニーナも口を出して・・・欲しくはなかったけどね。私も冷静じゃないから。
そのままティーポとニーナの口論になりそうなのを“大丈夫だから”って、今は下がっていて貰う。
「確かに私には分からない・・血が混ざっていても結局は飛翼族だもの。
でもそうじゃないでしょう?
私がさっきから言ってる事・・賢いティーポならちゃんと理解してるよね?」
「それは・・・・!でも、だったら姉ちゃんだって分かって無いじゃないか!」
「姉ちゃん、これは俺とティーポの問題だから・・・」
リュウも漸く立ち直ったと言葉を挟むけど・・・そんな言葉が聞きたいんじゃない。
どうして君達は分からないかな?
「それは分かってます。
あのね・・・平穏な話し合いなら別に良いよ?でも何?さっきの一瞬即発の空気。
あのまま放っておいたら戦うんでしょう?
あんなのじゃ口も出したくなるよ。私達は家族でしょう?
もう2人とも小さくないんだから手を出す喧嘩はいい加減に止めなさい!!」
「だっ・・だけど、姉ちゃん!!俺は───」
「───ぶっ!」
声を上げたティーポとほぼ同時にレイが噴き出す。
・・・お陰で頭に上ってた血が少し下がってきたけど。
それで怪訝そうな顔のまま私達3人がそっちへ向けば、そのまま可笑しそうに笑うレイの姿があった。
「お前ら、結局ちびん時と何にも変わってねーのな。
一度にペース持ってかれたらまんまじゃねえか。
さっきまで殺気出し合ってたとは思えねぇよ・・・・・ったく」
「あ・・・」
漸く気付いたとティーポが一歩後退る。
まるで仮面が剥がれたと言わんばかりに顔を押さえて私達を見た。
「俺、は・・・」
「・・・・・よし!一度落ち着こうか」
「「え?」」
何か言いかけたティーポの言葉を遮ればリュウと2人で呆気にとられた顔になった。
何でそんな顔するかな?
「私も少し頭に血が上ってたから、一旦落ち着いてからちゃんと話をしよう?
リュウが言う事を聞かないからって力ずくなのはもう子供の時だけで充分よ、ティーポ」
言ってから、私はリリフを唱えてティーポの頬を治す。
まぁ私も叩いちゃったから人の事は言えないけど。
でも殺し合うような殺気や強い力なんて、そんなの兄弟喧嘩にはイラナイでしょう?
「わざわざ治さなくても平気だよ。姉ちゃん弱いから痛くないし。
俺の方がずっと強いし、それに俺はリュウを・・・」
「はい。ティーポもリュウも此処に座る」
「あ、うん」
はいはい。お話は後でね、なんて。
話し合うならちゃんとお互いに向き合わないと、一方的な主張は争いの元だと思うよ?
ぽんぽんって近くの木の根っこを叩くと、リュウは素直に頷いて座る。
「って・・リュウ、素直に聞きすぎだろ!?」
「でも姉ちゃんの言う事も間違ってないよ、ティーポ」
「あはは、ありがとう。
ついでだと思ってティーポも座ろう?」
「・・・・ゎっ!」
ぐいと腕を引っ張れば僅かに身体を震わせて手を払われた。
ちょっとビックリして、同時にティーポの心の世界の事を思い出す。
“触れれば壊れてしまう”と怯えていた幼いティーポの姿。
「壊れそうで、怖い?」
「別に・・!そんなんじゃ・・・」
ふいと顔を背けて、ティーポは勢い良く木の上に腰を降ろした。レイも近くに座る。
ニーナ達は申し訳ないけど待っててもらう事にした。
ティーポからすれば見知らぬ人だし不安に思わせるかもしれない。
それにニーナ達も了承して少しだけ離れた場所へと行ってくれて・・・さて、話し合おうか?