鳥篭の夢

青年期/もうヒトリの05



「・・・で?今回の喧嘩の原因はなんだったか?」
「兄ちゃん・・・」

まるで茶化すようなレイの言葉に私は小さく笑ってリュウが困ったように眉を下げた。

「だからさ、リュウが力を捨ててミリア様と共にあれば全部解決するんだってば!
どうして分からないんだよ、リュウ!
大昔から竜族は・・竜族の力は危険なんだ。だから・・・」
「俺は嫌だって言ったよ。
確かに竜の力は強大だけど、これを失ったら俺は俺じゃなくなるような気がして、怖い・・」

意見の食い違い。
あれ?じゃあティーポは竜族としての力を捨てたって事だよね?

「ティーポ、力を捨てたのに此処にいるの?
もうドラゴンになれないんだよね?」
「え?いや・・変身は出来る。
でもコントロールし切れないから強い力が出せないように封印してるんだ」
「・・・それが力を捨てるって事?」

問えばティーポは頷いた。
神様でも完全に竜族の力を消す事は出来ないみたい。だから抑える事で危険性を減らす。
でも封印しても竜の力は強大で、外の世界に戻ればまた争いが起こるかも・・と、女神は危惧したらしい。
その力で多くの血が流れ、生命を失うかもしれない。
だからティーポも了承した。これ以上、誰かの血が流れないように───。

「成る程な。だが、ティーポ。
分かってるかも知んねぇけど、竜族云々に関係なく血は流れるぞ」
「でも!俺やリュウが世界にいるよりはずっとマシな筈だよ!」
「・・・・・それは、竜族が争う宿命にあるから?」

ティーポが黙ったまま頷く。

「確かに強大な力を危惧するのはおかしくない・・けど、何だか変」
「え、変って?」
「何ていうか・・・過保護?ううん、矛盾かも。
そりゃあ力で解決しようとすれば血は流れるでしょう?
でもあの大戦で竜族は力を使わずに死んでいった。
それも神様がガーディアンに命じなければ流れなかった血・・・」

それはあまり意味が無いと思う。
先に不安要素を取り除いておく?それこそ過ぎた放逸な行為。
暴力的で矛盾・・・でもティーポを説得して閉じ込めるのは過保護にも見える。まるで母様みたいな・・・。
それにレイも言った通り、竜族云々なんて関係なく争ったり、血を流す事も生命を失う事も沢山ある。
本当は竜族じゃなくて危険思想の人を何とかすべきで・・まぁこれは私達人間に任せれば良いんだろうけど。

「それに、力ってただ壊すだけじゃないでしょ?
確かに敵意を向けてその力を振るえば壊す方へ向いてしまう。
だけど誰かを助けたいって思いがあればそれは護る方へ向くんじゃないのかな?」
「でも竜族の力は強い。
護ろうとして・・傷つけるつもりのない人を傷つける危険だってあるんだ!」
「コントロールできない程の強大な力・・・か」

低く、レイが呟いた。


「・・・俺も、ね」

ポツリ、話し始めるレイは酷く真剣な瞳をしていた。

「俺もでっかい力を持ってる。
ま、お前らと比べりゃ全然大した事はないんだけどな。
それでも俺自身コントロールしきれずに封印してたのさ。
だが、あん時・・・それでお前らを護れなかった事を後悔した」
「ぇ・・?兄ちゃん・・何、それ・・・」

“そんな事、初めて聞いた”って声にならない言葉を唇が紡ぐ。
だって私達を傷つけるのが怖いから・・・って。
もしかしたら2人を怖がらせるんじゃないかって不安に思って言わなかったんだから・・・知らなくて当たり前。

「で、躍起になって闇組織の事を調べて暴れてた。
それで結局はを傷つけて、リュウに襲い掛かって・・。
力ってのは本当に難しいもんだと思ったよ。
どうしてこんな力があるのか、ともな・・」

肩を竦めるレイ。
ティーポの身体が僅かに震えていた。

「兄ちゃん・・そしたら俺、如何したら良いの?自分の力を如何すれば・・・俺、分からないよ。
ずっとこんな力があるから皆が傷付けるって・・でも、それで護れなくて後悔するなら、じゃあ如何したら良いの?」
「それは私も、レイ達も分からないんだよ。ティーポ」
「姉ちゃん・・・」

それは誰にも分からない事、だからこそ女神様に問おうと此処まで来た。

「俺は・・・ううん。
兄ちゃんも、姉ちゃんも、俺も如何したら良いか分かんなくて。
だから俺達は此処まで来たんだ」
「まぁ、私の力はあまり強く無いんだけどね」
「戦力外だしな」
「あ!それは流石に酷いよ!レイ」
「に、兄ちゃん・・・」
「姉ちゃんも落ち着いて!」

間違ってないけど、回復位は出来るのに。
そっぽ向いて、ティーポを見れば酷く穏やかな表情。懐かしむような・・・・。
あぁ、でもシーダの森でもこんな感じだったよね。
たまにレイと私が言い合いしてると2人が止めてくれる。

このまま皆でシーダの森に帰りたいなんて、独り善がりな事を考える。
ううん。でも、もう・・・いい加減答えを聞かなくちゃ・・ね?これからの事を。

「ねぇ、ティーポは如何したい?これから・・・・」
「・・・・お、俺・・・は・・・・」

ティーポの唇が震える。
それにわしゃわしゃとレイが乱暴に頭を撫でた。

「ほら、言ってみろ」

「・・ぁ・・・俺っ!俺、この力が世界を壊すって思って・・・だったらミリア様と共にあれば大丈夫だって。
でも、力が無いと護れないなら・・・分からない───だけどっ、もしこの力が壊すだけじゃ無いなら!!
・・・そしたら外に出たい!シーダの森に帰りたい!!
姉ちゃんと、兄ちゃんと、リュウと一緒に・・・皆で・・・」

まるで搾り出すような言葉に酷く安堵した私がいた。
それが本心だって、閉じこもる事が心からの願いじゃないって分かって・・・だから安心して嬉しかった。

「・・・良かった」
「え?」

ティーポが不思議そうな顔をする。
だって凄く嬉しいじゃない?

「私もね、皆でシーダの森に帰りたくて・・・だからずっと探してたんだよ」
「姉ちゃん・・・」
「ねぇ・・一緒に帰ろう?ティーポ。
力の意味が分からないなら女神様に聞いてみようよ。
どちらにせよ、私達はその為に此処まで来たんだから・・・」

それにティーポは泣きそうな顔で強く唇を引き結んで頷いた。
良かった・・やっとティーポが見つかって。
誰一人喪う事無くこうやって・・・また笑って一緒にいられる。
嬉しいからか目頭が熱くなってじわりと視界が歪む。
もう堪えられないと言わんばかりに一筋涙が落ちた。

、泣いてんのか?」
「う・・・嬉し涙。ちょっと恥かしいかも」
「ぅー・・俺も。でも良かった、ティーポと戦わなくて」
「ホントに泣き虫は変わんないな、リュウは・・!」

一生懸命涙を拭くリュウに、まるで子供の時と変わらない笑顔でティーポは漸く笑ってくれた。薄っすらと涙を浮かべて・・・。
それから見ればティーポと同じ・・ううん、もっとそうでもない何時もより少し瞳の涙が多いだけのレイの顔。

「・・・あ、もしかしてレイも泣きそう?」
「泣かねぇよ!」
「俺・・兄ちゃんが泣くなんて初めて見た」
「あ、俺も!」
「だから泣いてねぇっつってんだろっ!!」

拳を強く握り締めるレイに、ティーポとリュウが“ごめん”って言いながら頭を庇う。
冗談だって分かってて、だから逃げながらも楽しそうに笑いながら。
まるで子供の頃と変わらない様子。それにまた涙が出た。
家族が全員揃って、誰も傷付けあう事無くこうやってまた笑う事が出来て・・・本当に幸福だと思う。

・・・諦めないで良かった。
もしも諦めてたら私は今、こうやって笑っていられなかった気がするの。



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