鳥篭の夢

青年期/女神ミリア01



「じゃあ、使うよ?」

ティーポがカード型の鍵を差し込む。
この先に女神様が・・・とうとう此処まで来たんだって流石に少しだけ緊張。
“ぽぉん”って音、それから四角い画面に女性の顔?機械の一種・・・なんだよね?きっと。

『・・・・アテンション。
最高機密レベルのナビゲーター・コードが入力されました。
ライブラリ・モードでの入場を許可します』

画面が消えて、奥の扉が開いた。

「ミリア様はこの先にいらっしゃる」
「・・・・・じゃ、行こうか!」

ティーポの真剣な瞳には嘘偽りは見えない。まぁ嘘を吐くなんて全然考えてもないけど・・。
でもどんな方なんだろう?竜族を滅ぼそうとしたのに竜族であるティーポを保護する。
何人も救いたいのに同時に破壊に身を堕とす。酷く矛盾に満ちた考えを御持ちの方。
・・・不安はあるけど大丈夫だよね。レイもリュウもティーポも・・・皆もいるから。


途中、女神ミリア様に仕える人が様々な話をした。
ミリア様が生まれた時、既に世界は砂漠に飲まれつつあったらしい。
それをミリア様は嘆き、力をお使いになって“砂漠に覆われた土地”と、私達の暮らす“緑ある土地”の2つに世界を分けた。
ほとんどの人間を緑の土地へ集め、外海で隔てて行き来を出来なくする事で私達を護っている───と、そういう事みたい。

つまり私達は女神のお造りになられた“箱庭”で生きていた。
だってそうでしょう?
世界だけじゃない。機械技術から、何から何まで管理されている安穏とした世界。
そこで私達は生きてきたんだ・・・・。

「何から何まで神様の手の内だったって訳か・・・全く、気に食わねぇな」
「・・・でも、そうしたら神様は機械文明辺りに生誕なされたって事だよね?ちょっと驚いたかも」
「そうですよね!わたし、ずっと神様って世界が出来た頃からいらっしゃるんだと思ってました。
だけど、だからこそこっちは砂漠の世界が広がっていた・・って事ですもんね」

うんうんとニーナが頷く。
でもドラグニールの書物には大昔の出来事にも“ミリア”の名はあったし・・眠られていただけ?
それともそれだけ大昔から砂漠化が起こっていた?
だけど砂漠の世界が作られたんじゃなくて既に出来上がってたって考えれば、この世界については納得出来なくない。

───ふわり、何かが現れる気配。

「・・・っ!?」
「大丈夫だよ、姉ちゃん・・・ミリア様だ」

慌てて顔を上げた私にティーポが安心させるように言葉を挟んだ。
輪郭がぼやけてたその存在が次第にハッキリとしていく。
鮮やかな金の髪、羽ばたかせる度に色彩を変える光で作られた2対の翼、紫にも近いピンクのロングドレスに身を包んだ姿。
その美しい造型の顔は憂いを帯びていた。


「荒れ狂う海を、死の砂漠を恐れぬ頼もしき子供達・・・そしてリュウよ───私が、ミリアです。
ティーポ、リュウを此処まで導いてくれて感謝します」
「いえ、ミリア様・・・俺は───」

ティーポの言葉を遮るようにミリア様は首を横に振る。
まるで言いたい事が分かってるみたい。

「貴方は・・いえ貴方達竜族は、力を捨て私の庇護の下にあるべきなのです。
ティーポ、貴方はそれを了承した筈。
その力で大切な誰か・・或いはこの世界そのものを壊してしまわぬ為に・・・」
「俺は・・確かにそうだと思っていました。
竜の力はあまりに強大で全てを破壊してしまうものだって。
だけど同時に力が無ければ何も護れないんです!
大切な人が傷付く時に、何も出来ずに終わるのは嫌なんです!!」

ティーポの主張に、ミリア様が表情を曇らせて俯く。

「ティーポ・・・優しくて、可哀想な子。
強すぎる竜の力がまた貴方をそうやって揺さ振るのですね・・?」

そうじゃない・・ティーポが言いたい事はそういう事じゃない。
如何して竜族の力が危険だと決め付けるの?

、どうかその様な顔をしないで?」

・・・・・あれ?

「え・・如何して、私の名前・・・?」
「愛しき子供達の名を知らぬ訳がありません。
には大変申し訳ないと思っています。
ですが竜の力が強大な事はリュウと共に旅をしてきた貴女になら分かる筈。
それがどれだけ邪悪で危険なのかも・・」
「いえ、そんな事は───!!」
「そんな事はありません!
リュウは何時もわたしを守ってくれました!!その力が邪悪だなんて信じられません!!」

私の言葉を遮って、ニーナが声を荒げる。
それはリュウが邪悪と言われた事に対しての怒りもあるんだと思う。
ちょっとだけビックリしたけど・・でもやっぱり嬉しい。私も2人の力が邪悪だとは思わないから。
だけどミリア様はその言葉に眉を寄せて、淋しげな微笑みを口元に張り付かせている。
まるで耐えるように・・・。


「神よ・・貴女に会い真実を問わんと、遠く旅して参りました。
竜族は滅ばねばならぬ運命だったのかを・・・」
「いいえ、ガーディアン・ガーランド。誰が愛しき生命の滅びを望みましょう?
───ただ・・竜の力は大きすぎたのです。私が守れるだけの小さな小さな世界には・・・・・」

ミリア様は瞳を閉じて語りだす。
砂に覆われた世界を元に戻すだけの力はミリア様には無く、残された緑ある世界を守ろうとしたのだと。
外海のシールドで死の砂漠から守り、修理できる機械を与えて世界を機能させる。
ただし危険性のある物は除いて・・・。

「で・・でも!今はまだ無理でも、何時か私達・・自分達の手で機械を作り出せるかも・・」
「生きていくだけで精一杯の砂漠の世界で、貴方達が何かを生み出せるとは思いません。
それに・・もし作り出せたとして、それが自分達を破滅させる危険な兵器で無いと断言できますか?モモ」
「・・・ぁ・・」

柔らかい笑みのままモモの言葉を拒絶する。
諭すようにも聞こえる言葉。確かにそれに反論は出来ない。
ミリア様は尚も言葉を続けた。ミリア様が生まれる前の世界。
まだ世界が砂に覆われる前の平和な時・・・それを壊したのは他の誰でもない人間達だと。
発達しすぎた機械文明がお互いを傷付け、争いを呼び、そうして途方も無い砂の広がる大地が完成したのだと・・・。

「私は、彼らを守れなかった」

まるで悔やむような声。
もっと早くに存在していれば結果は違っていたのだと、そう声音が告げている。

「・・・で。つまり余計な事しねぇで大人しくアンタに守られてろ・・って事か?」
「その通りです、レイ。
二度と同じ間違いは犯しません───私は、貴方達残された生命を守ります」

その決意に満ちた声音も、瞳も・・・ただ違和感。
なら如何して竜族を滅ぼしたの?滅ぼす必要性があったの?
竜族を滅ぼす事に心を痛めたのなら、如何して命じたの?彼らとの共生の道は考えられなかったの・・・?
疑問がただ頭を駆け巡っていた。



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