鳥篭の夢

青年期/女神ミリア02



「・・・お話は、確かに分かります」

気付けば口をついて言葉が出ていた。
ミリア様は視線を私に向けて、それに臆する事無く視線を返す。

「私達は砂漠の中を平然と生きていける訳でもない、ただ守られているか弱い存在です。
竜族の力も世界を破壊出来る程に強大なものなのかも。
ですが・・先程ニーナが言った様に私はそれが邪悪とは思えません。
強大な力は確かに破滅を齎す危険性はありますが、同時にそれは“大切なものを護れる力”だと私は思うのです!!」
「いいえ、。竜の力が世界に牙を向かないと如何して言い切れましょうか?
たとえ僅かな可能性だとしても、世界を脅かすのではあれば私はそれを世界から遠ざけねばなりません」
「そんな・・・」

それは世界に対して余りにも過保護じゃない?
少しでも危ないと判断すれば排除するなんて・・・。
もしかして、その為に竜族は滅ぼされたの?力を持っているという理由だけで??

「でしたら・・リュウとティーポは?
力を捨てる事を拒むのであれば殺してしまうと言うのですか!?
それとも自由を奪って作り物の楽園に閉じ込めてしまうとでも・・・?そんなのはあんまりです」

ミリア様はただ黙して私の話を聞いていた。
肯定するとも否定するとも無く、じっと・・。

「・・・・わたし、世界のほとんどが荒れ果てた砂漠だと知ってショックでした。
確かにそんな大地では1人では生きていくのも困難です。
だけどリュウとティーポの・・・皆の力があれば、もしかしたら・・・!!」
「・・だな。それに全部アンタの手の上ってのは気に食わねぇ。
俺はガキだからな・・・ジッとしてろって言われると逆に暴れたくなるんだよ!!」
「兄ちゃん・・」

腰に差していた対のナイフを抜くレイに、リュウが視線を向ける。

「神よ。一緒に旅をしてきたからこそ言えるのですが、竜の力には神が仰るような危険だけがあるように思えないのです」

答えは最初から決まっていたのかもしれない。
特にリュウとティーポに関しては・・・。
私達はずっと“竜族は危険じゃない”と思って此処まで来た。
だからどれだけ諭されようともそれが変わる事は無い。
だって危険なんて思えないし、あんなに優しい2人が世界をどうこうするなんて想像すら出来ない。


「もう、其処までにしましょう。子供達よ」


その静かな声に酷く不穏なものを感じた。
嫌な予感。小さく首を横に振って、ミリア様はそっと胸の前で手を組んだ。

「・・ミリア様!待ってください!!」
「いいえ、ティーポ。
あの子達が貴方の決意を鈍らせるならばソレを絶たねばなりません。
安心なさい。命を奪うような事はありません。
愛しい生命を手にかける事ほど悲しい事はないのですから・・」

薄く笑みを浮かべたまま、ミリア様はその腕を前へと伸ばす。

「貴方達の勇気と自信を誇らしく思います───レイ」
「・・っ!?」

一瞬の出来事。ミリア様から光が放たれて・・・。
直後、レイの姿が消えた。何が・・・あったの?

「レイ・・・?」
「え?・・・え??」
「心配ありません。
此処までの記憶を奪い、元の世界に帰しただけですよ・・・モモ」

また光が放たれて、今度はモモの姿が消える。
リュウが剣の柄に手をかけた。

「私の力が及ぶのは本当に小さい。
それでも弱い貴女達は、私の守る世界でしか生きられない・・・分かりますね?ニーナ」
「・・・っや!?」
「ニーナっ!!」

無意識の反応だと思う。
ニーナは両腕を前に出して、私も庇おうとするけど一瞬だけ遅かった。
ニーナのいた場所にはもう何も無い。
それからミリア様はガーランドさんへと視線をやる。

「───よくぞリュウを連れてきてくれました。
ガーディアン・ガーランド・・・貴方の使命はこれで終わりです」

ガーランドさんも消えて・・・ミリア様が私を見やる。
そう、今度は私の番なのだと緩く笑みを向けたまま視線だけで告げる。
リュウとティーポが私を守るといわんばかりにミリア様の前に立った。

「ミリア様・・・!」

「・・。大切な弟達を想えばこそ、彼らが此処にあるべきだと分かるでしょう?」
「そうかも・・しれません。でもミリア様!それならば何故“竜族”という種族が生まれたのでしょう?
諍いしか呼ばない種族なら、それこそ大昔に滅んだ筈。
ならば持ち得た力には意味があるのではないでしょうか?
ただ強大だからと閉じ込めておくのではなくて、正しい方向へと導く事が出来るなら或いは・・・!!」

力を使おうと上げていた腕をそっと下ろして、それでもミリア様は首を横に振る。

「ただ守られる者が、強大な力を持つ者達に如何して正しい道を示せましょう・・?」
「ミリア様!」
「姉ちゃん・・!」

ティーポとリュウが私を庇うようにして・・でもミリア様の力はきっと私だけを帰すんだろう。
何となくそれが本能で理解できた。
強く瞳を瞑って、ただリュウ達の事を忘れてしまうのかどうかって酷く不安になって・・・・でも、あれ?何も起こらない?


「わしがいる内は勝手な真似はさせんぞ・・・ミリア」


知らない声。“ミリア”という名前と立っている場所から私がまだ消えてないんだって分かった。
それから声のした方へと視線を向ければそこには・・

「ペコロス?」

何だか普段と比べて凛々しい顔立ちをしてるように見える、ペコロスの姿。
・・・・・・・・・・・・え?



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