鳥篭の夢

青年期/女神ミリア04



「1つだけ・・・お願いを聞いてはいただけないでしょうか?」
「何でしょう?

反対されるのは分かっていた。
だけど、私は皆で家に帰りたいから・・それを口にする。

「リュウとティーポを、どうか自由にしてあげてください。
今、力を持ったままの竜族は2人だけ。ならばこれ以後“純血統の竜族”が増える事はありません。
だから・・・せめて2人だけは最後の純粋な竜族として世界に在る事を許してはいただけませんか?」
「それが世界を脅かすものだとしても・・ですか?」

眉を顰めて、ミリア様が問う。

「万一、2人の力で世界が破滅に追いやられるのなら、そうなる前に私が責任を持って2人の生命を奪いましょう。
家族としてあの子達にそんな罪を背負わせる訳にはいきませんから。
それに・・ガーディアンが傍にいればその破滅は食い止められるのでしょう?」

ぐいとガーランドさんの腕を掴んで引き寄せる。困ったような顔のガーランドさんに小さく笑った。
スミマセン、言い訳に使っちゃって。
でも“竜族を殺す”為にミリア様が力を与えたのだから簡単に否定する事は出来ないと思って。
それに───

「武力で解決しようとするのは本当に最後で良いのだと思います。
ミリア様は私に先程“力が無い者が正しい道を示せるか”と問いました。
でもそれは、きっと可能です。
だって彼らは言葉の通じない、理性すらない獣じゃなくて、私達と同じ人間なのですから。
・・・確かに私達は強くはありません。
だけど、だからこそ私達を・・リュウとティーポを信じて見守っていて欲しいのです」

心臓が強く鳴り響いてる・・・怖くて。
“説得の余地無し”と力を使われれば私は簡単に死んでしまうから。
ミリア様も、リュウもティーポも、レイも、ニーナも・・・皆も私を見ている。
何の音も無い。唯、静寂。


「───ミリア、アンタの負けだよ。
この子達の意志は強い・・だからこそ此処まで来る事も出来た」
「・・姉さんっ!?」

唐突に現れた・・・ディースさん?それに、姉さんって事はミリア様のお姉さん!??
驚く私達にディースさんは“間に合って良かった”って笑みを浮かべてからミリア様へと向いた。

「これまでアンタはこの世界を護ってきた。この子達を守ってきた。
・・・もう、それで良いじゃないか。
確かに竜族を滅ぼしたのはやりすぎだったけど、それもこの子達が乗り越える事だったんだ。自分の足で立つ為に、ね。
何、もし滅びが迫るならあたし達で回避すれば良いだけの事だろう?
まぁそれも大丈夫だとは思うけどね。
この子達も世界も・・あたし達が思ってるよりもずっと強い筈だからさ」
「だけど姉さん・・・私は・・・」

言いかけて、ミリア様は口を噤んだ。私達も何も言葉が出なかった。
ディースさんのあんな優しい顔は初めて見たから。
だからつい見惚れてしまって、何も言葉を発する事が出来なかった。
ディースさんはミリア様の肩をそっと抱いて、ミリア様もそれを受け入れて・・。

あぁ、そうか。ミリア様も如何して良いのか分からなくなったんだ。
愛して、慈しんで、ずっとずっと守って来た子供達が“1人で立ちたい”といきなり言うものだから・・。
危ないと滅ぼしてまで遠ざけた竜族を“大丈夫だ”と何の気も知らず、危険すらも顧みずに言うものだから・・・。


「分かりました。の言葉を一度だけ信じましょう」

ディースさんから離れたミリア様は私を見据えてそう告げた。
喜びに顔が綻びそうになった瞬間“でも”と言葉を続ける。

「私はこれから一切関与しません。
機械の事も、外海の事も・・暫くはただ見守らせてもらいます。
それと・・・もしもリュウとティーポが間違った方へと、破滅へと力を示すならば───容赦はしません。
たとえ愛する子供達だとしても、他の子供達と世界を守る為ならば私は鬼神となりましょう」
「・・・はい!ありがとうございます!!」

それは私の言葉を信じてくれたという事。
ミリア様が・・・女神様が、ただの幼子の1人に過ぎない私を信じてくれた。
酷く不思議だけど・・反面それが嬉しくて仕方が無かった。
ティーポとリュウとまた一緒にいられる。誰かに阻まれる事も無く“家族”として一緒にいられる。
・・そう思うと嬉しくて・・・あぁ、また泣きそう。

「全く・・言葉だけでミリアを捻じ伏せるとは。やるねぇ、ひよこちゃん」
「ひよ・・っ!?」

何でひよこ!?って顔をしてたら“カラスよりマシだろ”って・・確かにそれはそうですけども。
後ろで笑うのは止めて欲しいんだけどな?レイ。

「あ、でもやっぱりミリア様が私を信じてくださった最後の切っ掛けはディースさんですよ。
私はずっとミリア様に反発してばかりで悲しい思いをさせ・・・・きゃっ!!」
「まぁ、可愛いこと言うんだから!この子は・・!!」

ギュウッって思い切り抱き締められた。
ちょっとだけリュウ達の気持ちが分かったかも・・でも多分やめないけど。
思わず苦笑しながら顔を上げれば、少しだけ泣きそうな・・そんな笑顔が目に入った。
ディースさん?

「あの子は頑なだからね。きっと言葉では解決しないと思ってたのさ。
だからアンタの力も解放した。
でも・・・・・ありがとうね、力で解決しようとしないでくれて本当に良かった」

力で解決するって事は、つまりもし戦って私達が勝ったとしたらディースさんは妹さんを喪うという事。
そう思えばディースさんのその表情の意味は分からなくも無い。
私だって同じ状況なら迷ってしまうだろうから・・・。

「姉ちゃんの頑固さの勝利だよな」
「ちょっと、ティーポ!
間違って無いけど・・・!!」

何だかもう少し言い方を考えて欲しかったんだけどな。そう言って、皆で笑った。
私もティーポもリュウもモモもガーランドさんもペコロスもレイもニーナも・・・ディースさんも、ミリア様も。
そう、今までとは全然違う。
ミリア様のソレはまるで少女のような可憐な笑みだった。



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