鳥篭の夢

第一章/獣‐五



「・・・なんと。流石は神皇様・・・と、申すべきですかな。
まさか此処までお力を取り戻しておいでとは──!!」

感嘆の声。今更気付いても遅い、主のお力。それでも未だ不完全ではあるけれど。
主のおられる方・・強い力。砂煙の合間から見える決してヒトとは違うお姿。普段とも違うその圧倒的なまでの・・・。
ゆらり。まるで揺らめくように主のお姿は普段のものへと戻られる。

「確かに我が力は完全とは言えぬ。
──だが、うつろう身なるお前達ヒトが、神を手にかけるなどかなわぬと知るが良い」
「しかしながら・・・・」

アイツが空を見上げる。新しい気配。ヒトなんかじゃない・・・魔獣の。
さっき倒した鳥と同じ魔物。それが大空を旋廻するように舞っていた。

「今しがた神皇様が倒されたのは我が魔物のほんの一部にございます」

バサリ、羽音が響く。己がいる事を主張するように一声鳴いた。何て五月蝿い鳥なんだろう。
どうにか撃ち落せないか考えていると、アイツは“それに”と尚も言葉を続けた。

「フォウル様の半身は未だ生まれたばかりと存じます。
幼子にも等しき神なれば、我等が手にかけるのも容易いかと・・・?」


「──愚かなッ!」


「ッ!?」
『キュゥ・・・』

言葉に痛い程の感情の波、主の・・。あたしと主は多少なりとも力の繋がりがあるからソレを感じやすい。
主は・・どうか分からないけれど、あたしも“アタシ”も感情の色を感じやすいのは確か。
怒り。ビリビリと響いて伝わる力はヒトにも感じられる筈だろう。
愚かなヒト、愚かな行為、愚かな言葉。全てに対する怒り。
嗚呼、どうして主が──竜がそこまで虐げられねばいけないの?
召喚したのはお前達ヒトなのにっ!!望んだのだって・・・っっ!!

「ならばお前達が我が半身を見つける前に、私が帝都へ行くまでの事!」
『キュッ!』

一度だけ主の視線があたしに向く。“”と唇があたしの名を形作った。
主が僅かに腕を上げて乗れと促している。あたしが腕に乗ったのを確認すると主のお姿が竜へと変わる。
もう1つの形としてではない。主自身がそのお姿へと変わられるのは珍しかった気がする。
トンと移動して背に移る。ほぼ同時に、主が凄い速さで帝都へと向かわれ始めた。しがみ付かないと落ちそうな程の速さ。
怒りはやはり胸に秘めたまま・・・でも決して暴走ではない。これは主の御意志。


『・・・ルルゥ』

気配にあたしは唸る。遠くからアイツの声。“逃がすな”と“追え”という単語。
見れば魔物があたし達へと向かってくる姿。バランスが少しだけ危ういけど魔物の方へ向く。
大きく息を吸い込む。魔物もくるりと頭を回した。互いに攻撃準備。

『──ッ!!』

ブレスを吐く。僅かに翼を掠めてバランスを崩したけどまだ生きてる。逆に攻撃、熱線のようなやつ。
主はそれを避けた。ブレスで応戦するけど追いつかない。
体力の消耗。所詮、あたしは“アタシ”の力の欠片でしかない。悔しい。
一瞬だけ目の前が霞んで、ふと上に気配が急浮上。

『ッ!?』

危ない。本能が告げる。反射的にブレスを吐いて、同時に熱線が落ちてくる。
痛み。衝撃。身体が動かない。視界が真っ暗。何が、起こったんだろう?咄嗟に理解できない。

唯、意識が堕ちる───どこまでも。



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