鳥篭の夢

第二章/獣‐弐



あたしと主はまたヒトに助けられたらしい。何だかとても不思議だと思う。
一方で愚かなヒト達が生命を奪おうともがき、またその一方でソレを救うヒトがいるんだから。
ヒトとは不思議な存在。
確かにアタシも元々はヒトだった。でも単なる力の欠片でしかないあたしにはそんなのワカラナイ。

『キュー・・』

主。幾度と声をおかけしても、まだお目覚めにはならない。
体中の酷い火傷。そして度重なる疲弊が主を深い眠りにつかせているのだ。

如何してあたしが平然としているの?

唯そんな疑問が頭を過ぎる。確かにあたしだって傷だらけ。でも主ほど酷い訳じゃない。
あたしは主を守るべき存在なのに・・・・。だけど今のあたしには大した知性など持ち合わせてない。
だから、すぐに何を考えていたのかとか、何を想っていたのか簡単に消えて無くなってしまう。


──ガタ・・ガタン

今にも崩れそうな家屋に相応しい建て付けの悪い扉。ソレを無理やりに開ける音がした。
家主が戻ってきたのかな?目線を向ければ若い女のヒトが立っていた。

「あ。お前さん、もう起きて平気か?」

柔らかい笑顔。前に助けてくれた大きなヒトとは全然違う。でも──おんなじあたたかさ。
そっと近づいてしゃがむと“チリン”って鈴の音。澄んだ綺麗な音が響く。何だか心地いい。
瞳を閉じてソレを聞いていたらヒトがあたしを撫でた。目を開けてヒトを見ると目が合う。
それからその栗色の瞳が心配そうに主へと向けられる。

「まだお前さんのご主人様は起きねぇだな。
そしたらおらはもうちょっと畑仕事するけ、お前さんももう少し休んどった方がええ」
『キュウ』

優しいヒト。柔らかい声。警戒心すらも無くなってしまう程の・・・おかしなヒト。
ヒトはそっと立ち上がると一度だけあたしを見て微笑んで、それからまた外へと消えていった。
出来るだけ音を立てないようにしたのは主を起こさないように配慮したんだと思う。
時折揺れた拍子に鈴の音が聞こえたけど全然邪魔には思えなかった。

・・・主。未だお目覚めにならない貴方様に、その酷いお怪我に、ただ不安になります。
あたしには何も出来ない。傷を治してさしあげる事も何も・・・・・。あぁ、なんて不甲斐ない。
そんな事を考えながらあたしはもう一度主の傍で丸くなった。



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