第二章/獣‐五
『キュ・・』
良い匂いで目が覚める。マミの料理をしてる音。
ことこと何かが煮込まれてる音。トントンって何かを切る包丁の音。それが全部合わさってご飯の良い匂い。
マミの顔があたしに向いて、ちょっとだけ驚いたような顔。
「あんれ、。目が覚めただか?」
それからニッコリ笑ってしゃがみこむ。ちりん、鈴の音。あたしと目が合う。
「おはよう。」
『キュッ!』
おはよう!あたしも返す。言葉は通じないって分かってるけど。
すりすり。擦り寄ったら嬉しそうな顔をしてくれた。何でだろう?ヒトが笑って、あたしも嬉しい。
頭を撫でる手があたたかくて優しい。
『キュー?』
「──あ、起きただか?」
主が動かれたのが目に入る。主もお目覚めになられたみたい。
おはようございます!主、ご機嫌は如何ですか?お怪我は大丈夫ですか??
傍に行く。理解を得られないって知ってて訊ねて、そしたらそっと頭に手を置かれた。嬉しい。
アタシにもそうして頂けたら、アタシだって凄く喜ぶのにな。そう思ったけど秘密。
「待っててけろ。今、朝食の支度すっから」
にっこり笑ってマミはまたご飯を作る。
・・・・・・・あれ?煙の向きが何だか?
『キュッ!?』
「・・・え?あれま!?煙が・・・!!」
もくもくって主のお顔に煙がっ!!
ど、如何しよう!?煙を向こうに?でも、あたしじゃ届かない。アタシなら何とか出来るのに・・。
何も出来なくてただ動く。マミが布を持ってきて煙をばさばさ叩いてどっかに消してくれた。
も、もう大丈夫?あの、平気ですか?主!!
「すまねぇ、兄ちゃん大丈夫か!?」
「・・・ああ」
軽く咳き込みながら答えられた主にホッと一安心。マミもあたしも。
ご無事で本当に良かったです。
「かまどに穴が開いてたん忘れてた。ごめんよー、煙かったろ?」
困ったように笑うマミ。それから本当に、本当に少しだけど不遜な主のお顔。
とても不謹慎だと思う。だけど、あたしはちょっとだけ楽しいと感じてしまった。
そして抱いてはいけないと知っていたけど“幸福”だとも・・・。