鳥篭の夢

第二章/獣‐九



『キュ・・?』

まるで体中がちりちりするような、竜の力。
多分、アタシが感じているからだろう。あたしにもソレが伝わってくる。
見れば主も空を仰いでいらした。貴方様ならもっと強く力を感じておられるのでは?
主をじっと見ていれば、その視線あたしへと降りて・・・。

「動き始めたという事か・・・?」
『キュウ』

はい。どうやら・・世界が、世界の竜達が動き始めたようです。
あたしには詳しく分かりませんが・・・

──ゴゴゴゴゴ...

「きゃ・・」
『ッ!?』

地鳴り?マミが驚いたような声を上げて山を見る。
さっきあの山、噴火した?前兆みたいな程度だけど。見間違いじゃない。

「・・・・あや~~~。山の神さまが怒ってんだべか・・・」
「・・・神?」
『キュゥ?』

神って主と同じ神?そんな神いた?
火山の神なんて、あたし知らない。

「ヨギ火山の神さまだべ。あの山が火を吹く時は神さまが怒ってるんだ。
最近地震が活発だから大噴火するかもしれねぇな・・」

大噴火。それはこの村にも良くない影響があるという事?またこの村の平穏が壊される?それは嫌だ。
主、如何されますか?この間の怪我も完治したので、またあたしが一人で・・・。

『ゥ?』

言葉の途中でひょいとその御肩に乗せられて・・主?

、兄ちゃん。ちょっと待っててくれろ。
この仕事だけやったら家に帰ろうな」

マミの声。それを気にも留めるご様子は無い。唯、歩みを進められていく。
向かった先はヨギ火山。さっきマミが言っていた神のいるという場所。
途中で村人達が心配そうに騒いでいた。“山が暴れ始めた”と怯える姿。それを尻目にあたし達は山へと向かった。


「・・・・・・・・神、か・・」
『キュー・・』

ぽつりと呟かれた主の御言葉。何かを思うような憂う御顔。
歩みを進めれば熱をはらんだ風が吹く。正直、暑い。まるで茹だるような暑さ。
主は大丈夫ですか?あたしでもキツいのに、この暑さは貴方様には御辛いのでは?


『キュ?』
「この世界に、神など必要ないと思わんか?」
『キュ・・ゥ?』

主?如何なされたのですか?
神を否定する事。それはご自分の存在を否定される事ですよね?なのに何故・・?
あたしは何も答えられない。それに主はくつくつと声を漏らして笑う。

「戯言だ。気にするな」
『キュー・・・』

そうは聞こえませんでした、主。貴方様は・・・・。

「しかし・・・確かに強い力を感じるが、これは神の気では──」


『あ゙ー・・・』

主のお言葉を遮る低い低い声。唸り声と共に吐き出される音。何?嫌な気配。

『あ、ぁ、あ゙?』

岩・・・?ギロリ。岩がヒトのような形を成してこっちを睨み付けてる姿。
とてつもなく巨大。頭に大きく育った1本・・だと思う、樹木を乗っけている。
これが神?何だ、主が足を運ばれる必要すら無かった。

『おまえ、だれよ、ちびー』

言語能力はいまいちだって事は分かる。知能は低め。
途切れ途切れに発せられる声は仕方ない。だってアイツはその発声が出来る造りじゃない。
なのにヒトの真似事をして話そうとするからそうなる。

「・・・・お前が神を語る者だな?」
『そう。おれ、かみー』

「お前は神などではない」

鋭く切り捨てられるように主は御言葉をアイツへと放たれた。
理解すら出来ない?アイツは止まると不思議そうな顔をする。

「世界に竜の気が高まり、その力に影響された魔物。それが・・・自らを神だと思い込んでいるに過ぎない。
───やはり、神などこの世に必要ないのだ」

最後の御言葉はまるで呟かれるように零れ落ちて・・・主。
どうかそのような事を言わないで。あたしは主が好きです。主を必要としています!
それにマミだってきっと貴方様の事を・・・だから、だから・・・・っ!

『なに、いってるか、よく、わからない・・・けど・・・』

低い唸り声。

『ばかに、した?』

ぎろり。赤い目が主を睨み付ける。たかだか魔物風情が神に対して何て事を!
自分を神だと思い込んでいる事だって許しがたいのに・・・!!

『おれの、こと、ばかに、した?かみ、なのに・・ばかに、した?』

ふるふると体中が震える。怒り?それは分かる。
でもとても残念。ただ畏れる事も知らず、憤怒の感情しか持てない程度の魔物。

『ころす・・!ころすー!!

───...ヒュッ

全ては一瞬。刹那の時。
襲い掛かろうとした手が触れるずっと前に魔物の身体は半分に引き裂かれた。
主の竜としての御力を使用されるまでも無い。悲鳴も無く魔物は砂へと還る。

「・・・竜の気が高まると、その気を受け魔物ですら自分を世界の王だと勘違いする。
ましてや、ヒトは───」

吐き捨てるような御言葉。憂う表情。ヒトと、世界への想い。
あたしには何も出来ませんか?主・・・・。



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