鳥篭の夢

第一章/03



ぺち。

頬を叩かれた・・痛い。いや、そんなに叫ぶような痛みじゃないけど、小さな衝撃みたいなの。
瞳を開けると青い瞳と青い髪の男のヒト。
・・・何だか懐かしいチカラを感じた。あぁ、そうだ。アタシが探してた御方だ。

「大丈・・・」
「やっと見つけたっ!アタシの探してた御方!!」
「え・・・?」

あれ?もしかして声をかけようとしてくれてた??
しかもアタシ全無視した??・・・・まぁ、良いか。
とにかく勝手に身体が家臣の礼をとって、口が自然と動く。

「我が主の命により、遠き地より貴方様を御迎えに参りました」
「主・・・?」

・・“主”?あの御方はアタシの主?記憶に靄がかかったように不鮮明で、あぁ主の名前も思い出せない。
如何して主がこのヒトを探していたのかも、アタシは何処から来たのかも・・・もう分かんない。
青いヒトがアタシの事を不思議そうに見たけど、アタシにとっても不思議。えぇっと、如何しよう?

「それじゃあ、リュウさんの探している方のお知り合いって事でしょうか?」
「えっと・・・・」

言葉に詰まる。思い出すのを邪魔するみたいに頭が痛い・・・ちょっと困った。

「・・・・・・・如何なんだろう?分かんない」

「「「は?」」」

正直に言えば皆が目を丸くした。そりゃあまぁ、そうだよね。普通の反応だと思う。
よく思い出そうとする。覚えてる事・・・主の元へあの青いヒトを連れて行く事。それと主を護る事。
・・・でも何だろう?“主”っていう言い方は凄く気持ち悪い感じがする。何だかもっと違う気がする。

「うふふー。如何やら記憶喪失のようですねー」
「記憶喪失ですか!?」
「・・・とにかく、何処まで覚えている?」
「ぇ?えっと・・」

虎人に言われて記憶を辿る。主の命をなす為にずっと走ってて、ずっと・・・本当にずっと走ってて。
途中、森が火攻めにあって主とあたしが橋から落ち・・・ん?主とは別行動してるのに何で??記憶が混乱してる。
・・・あ!でもここら辺は少し見覚えあるかも。ずっと遠くにあるダム。・・・そうだ。

「・・・・確かダムの上を歩いてて泥竜を見つけて・・・あれ?じゃあ何でアタシ此処にいるんだろ?」

崖の上からもっと離れた場所。ダムは遠目にしか見えない。
それにテントと焚き火・・・?流されたんだったらこんな場所にいる筈が無いのに・・・此処、え?何で?

「泥竜が君を助けてくれて、僕達で此処まで連れてきたんだよ」
「・・・は?泥竜が何で??」

意味が分からないと言えば、自分達にだって事情は分からないと返される。
・・・酷く、頭が痛い。
泥竜の名前を呼んだ記憶はある。その名前が何だったかは覚えて無いけど・・何か言いたそうにしてたっけ。

「他に覚えている事はないんですか?貴女の名前とか・・」
「アタシ・・・は、
さん、ですか」

そう、自分の名前だけハッキリと覚えてる。むかつく位にしっかりと記憶してる。
飛翼族・・だったっけ?翼の生えた女の子がニッコリと柔らかい笑みを浮かべていた。おっとりとした口調。

「あ、そうだ!さん、リュウさんと一緒に来てみたらどうでしょう?
さんがリュウさんを探していた事は間違い無さそうですし・・きっとすぐに思い出せますよ」
「そうかなぁ?」

何だか自然に治るとは思えないんだけど・・でも、何だかあの笑顔を曇らせちゃうのは気が引けた。
それに目の前の青いヒトがアタシの目的なのは間違いない。
それは分かる───アタシのチカラがそう告げてるから。

「私はウインディアのニーナと言います。
あちらがクレイ兄さま、マスターさんにリュウさんです」
「ニーナとリュウとマスターと・・・クレイニイサマ?」
「何故“兄様”まで付ける・・」
「あ、何だ。“クレイニイサマ”っていう名前かと思った」

呆れたみたいなクレイは、それから大きく脱力。
変な名前だとは思ったんだよねぇって言ったらニーナが笑う。
あ、良いな。女の子らしい女の子の笑い方だ。そういうのアタシ好き。

「君は・・・」


リュウがアタシを呼びかけてそれを遮る。アタシは“君”なんて名前じゃない。

「さっきも言ったけど、アタシの名前・・
「あ、うん。

よしよし。それでオッケー!
・・・で?って訊ねたら一度咳払いしてアタシを見る。真剣な瞳。

は──僕の探している人を知ってるの?」
「んー・・多分、だけどね。アタシはリュウの探し人に命を受けて此処にいる」
「そっか。じゃあ僕達の目的は一緒なんだよね」

“だったら少しだけ安心した”と、リュウがほんわりと笑った。
何だか不思議な感じ。主はこんな顔する方じゃなかったと思う。
・・・・あれ?何で主と比べるんだろう?リュウは主と近い方?
感じる力は懐かしくて・・アタシにも近い。でも分からない。

さん?」
「へ?」
「どうかしたんですか?何処か痛む所があるとか・・・」
「ううん、別に?」

如何して?と訊ねたら“辛そうな顔をするから”とニーナが答えた。ツラそう・・・ツラいのかな?アタシは。
んー・・・そうかもしれない。
今まで覚えていた、大切な主を忘れてしまってるんだから。それは間違いないのかもしれない。

「うん、でも大丈夫。きっと思い出せるんでしょ?」
「はい!そうですね!!」

へらりと笑えばニッコリと笑顔が返ってくる。
そうだ。目的の方は見つけたんだから後はまでお送りすれば・・・あれ?
記憶を辿れば西から東へ走っていた事は間違いないからきっと西へ行けば良いんだと思う。
でも場所が思い出せない。ヤダな・・もやもやしてキモチワルイ。
早く思い出せれば良いのに・・目的も、主の事も・・・・。



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