鳥篭の夢

第一章/05



「・・!!」

ガサガサって不意に草を掻き分ける音。それにアタシ達は立ち止まった。

「あの皆さん・・?」
「・・しっ。ニーナ、誰かいるみたいだ」
「ぇ?」

草が生茂ってる所の一部が踏み荒らされてる・・ヒト、かな?これは。
獣道にしてはまだ完成されて無いみたいだし。辿るように視線を持っていったら大正解!
知らないおじさん・・おじいさん?位のヒトがこそこそと物陰に隠れてた。

「あれが村長さん・・でしょうか」
「・・多分?」

あくまで疑問系。じっと見てるとおじいさんの視線の先、ずっと向こうから獣の気配がした。まだ子供・・だと思う。サイズ的に。
アタシ達にもおじいさんにも気付いてないみたいで・・あ、おじいさんもアタシ達には気付いて無さそうだけど。
とにかく獣は警戒心も無いまま歩いてて・・・ある一箇所を踏んだ瞬間、小さくカチって音がした。

───ドォンッ!!

クレイが村で引っ掛かったのと同じ種類の地雷?・・・だと思うんだけど。音にビックリしたみたいで獣が逃げる。
うー・・でも、凄い音だった。耳がキーンってなってて音がちょっと聞こえにくい。

「うわはははははははっ!やったぞ!ワシの罠だ!!」

嬉しそうな声。ニーナが近づいて声をかけるけど“あの獣を懲らしめた”って大喜び中。
アタシ達がいる事に対して疑問を持って無いのかな?持って無いんだろうなぁ・・・きっと。

「やーい!やーい!!お前の母ちゃんデベソー!!」

何処かで聞いた事のあるようなベタな悪口を言うと、もっと大きな獣の気配。あ、こっちに来る。
リュウも気付いたみたいでニーナを守るみたいに2人で前に出る。


───ドスン...!!

凄い音と衝撃・・・巨大な獣。

「・・・ひょっとして、かあちゃん?」

長い鼻、口元から生える巨大な牙、赤い小さな瞳に近い色の身体。
唸る獣はおじいさんの言葉にあくまで瞳を光らせるだけ。何ていうか、音にするなら『キュピーン』って感じ。
でも・・・・うん“お母さん”なんだよね?んー、仕方ないなぁ。
流石にアレは追い払わないと危ないよね。別に放っとけば害もなさそうな獣に見えるし。

「ねぇクレイ。それちょっと貸して?」
「んぁ?」

不思議そうにするクレイから、でっかい棍棒・・?みたいな物を引っ手繰る。あ、思ったよりも重たいや。
よいしょってソレを肩に担いで母親獣の傍に歩いていくと、警戒する姿勢・・大丈夫だよってニッコリ笑う。

「子供が苛められてたから来たんだよね?お母さんだもん、心配だったんだよね?
だけど・・もう子供のトコにお帰り?そうじゃないと・・・」

そうじゃないと“コレ”を振り回すよ?って殺気を放てば、母親獣はビクって怯えた様子を見せて走り去る。
子供が走り去った方向・・やっぱりお母さんだから子供を守りに行ったんだよね?ヒトと違って獣は素直。
それから“アリガト”ってお礼を言ってクレイに武器を返す。呆れたような意外そうな顔。

「良くそんな力があるな」
「え?」
「・・・いや、何でもない」

そんなに不思議な事かな?少しだけ疑問。確かにニーナに持てって言うのは酷かもしれないけど。
でもリュウだってマスターだって多分持てるでしょ?だったらアタシが持てても不思議じゃないと思うんだけどなぁ。
何で?何でだろう?でも持てるって思ったし、実際に持てたんだからそうなんだと思うよ?うん。

・・・で、あんな場所で話をするのも何だからって、一旦村に戻ってから抜け道を使わせて貰えないかって頼み込む。
“帝国の連中には見えないし”って許可を貰った。帝国・・・聞いた事のある名前。凄く懐かしい単語。
・・・ダメだな。思い出せないって分かってるのに、主に繋がるかもって思うと必死に探ろうとする。無駄な事なのに。


「抜け道はワシが言っておく、好きに使うと良い」
「ありがとうございます。村長さん」

にっこりと可愛らしくニーナが笑う。それに村長さんも嬉しそうに笑っていた。

・・・・でも、罠を仕掛けるのがセネスタへの抜け道の為って言うけど。
もしセネスタからキリアに逃れてくるとかになったら、向こうから来た人達ビックリすると思うんだけどな?
それにしても戦争・・・かぁ。何だか遠い記憶。ずっとずっと昔にもあったような気がする。
ヒト同士が醜く争う姿。血の臭い。赤色。悲鳴と怒声の入り混じった空気。・・・こんな事ばっかり覚えてる、アタシ。

?どうかしたの?」
「ん?んー・・何でもない。記憶に無いのに覚えてるって嫌だなって思ったの。
しかもあんまり思い出したくない事だったし・・主の事は全然思い出せないのにな」

姿形も朧気。でもとても綺麗な方・・白に近い銀髪と、射抜くような金色の瞳が印象的で・・それだけだけど。

「大丈夫、思い出せるよ。それに・・僕だってまだ何にも分かって無いし。
ただずっと誰かに呼ばれてる感じだけがするんだ」
「その呼んでるのがきっと主だと思うんだけど・・・」
「うん。きっとそうだよ」
「・・かな?じゃあ、違ってたら思いっきり笑わなくちゃね」
「あはは!そうだね」

そうやってリュウと笑い合う。不思議な感じ。
とても懐かしい感覚がするのに全然違う、リュウの存在。
何でだろう?安心するのに不安になる。
もやもやするみたいな・・・・ただ変な感じ。違和感、みたいな?



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