鳥篭の夢

第一章/07



「──何のお力にもなれず、申し訳ないのですが・・・」
「そんな・・・」

孤児院を経営してる老いたシスター・・えっと、名前は確かリタ、だっけ?その人が残念そうに顔を伏せた。
ニーナのお姉さんが来て子供達に色々してくれたのは本当だけど、その後の事は分からないって。
ニーナ・・・落胆した顔をしてる。
そうだよね、折角此処まで来たのに何の情報も無いんだからツラいよね。

「此処まで来たのに何の手懸かりも無いな──」
「オレ、知ってるぜ」

「え?」

後ろからさっきの男の子の声。得意げな顔をアタシ達に向けてる。

「あのキレイな王女さまが出て行った後、門まで追いかけてったんだ、オレ」
「チノ・・!それは本当なの!?」
「ウソなんか言うもんかっ!!!」

リタの言葉にチノって呼ばれた男の子が大声で反論。
まぁこれだけ主張するんだし、ホントみたい。
それで“チノって足速いんだね”って言えば嬉しそうに笑った。
あ、足が速いのって自慢なんだ。初めて見かけた時もそういえば追いかけっこしてたもんね。
良いな、そんな風に得意なのがあるのって。

「それでチノ君、エリーナ姉さま・・王女様は何処に?」
「んーっと・・・門を出た所で、確か王女さまに話しかけてきたヤツらがいたんだ。
何を話してたのか良く分かんなかったけど、あの格好は帝国のヤツら──」

───ダン...ッ!!

「帝国ッ!!やはり帝国軍が・・・っっ!!」

クレイが強く拳を机に叩きつけて叫ぶ。ちょっと五月蝿い。
・・・けど必死なのは伝わってくる。心配だって。
でもチノが怯えてる。巨大なおじさんがイキナリ怒り出したんだから怖いよね。ニーナも放心して動かない。

「大丈夫だよ、チノ。チノは全然悪くないから」
「う、うん・・・」

ハッキリそう言えば、チノは頷いてくれた。
よしよしって頭を撫でて・・・そうだ。他に何か知らないかな?

「ねぇ、チノ?他に何かない?」
「ん、んっと・・えと、あ!帝国のヤツらの他にももう1人いた!」
「?もう、1人・・・・?」

ニーナが漸く口を開いた。あ、ちょっと復活?

「うん。アイツは商人のマーロックだよ」
「あの・・マーロックさん、って?」
「マーロックさんはこの町に住んでいる商人の方です。
お金を稼ぐ事に手段を選ばない性質らしく、善悪両方の噂を耳にしますわ。
大きな砂船で帝国相手にも商売をしているみたいで、この辺りでは名を知らない者はいない位です」

所謂守銭奴ってヤツだよね。そんなにお金持ってて如何するんだろ?ヒトの考える事って不思議。
“ソレがエリーナを連れてったのか”って問うクレイにチノが“そうみたい”ってちょっと曖昧だけど返事をする。

「・・・漸く掴んだぞ!!シスター、マーロックとやらの家は!?」
「あ、ええと・・広場の北側にあって・・・大きな家なのでスグに分かりますわ」

「良し、行くぞ!!」

一度頷いて歩き出す。あ、ちょっと・・ちゃんとお礼位言わなきゃダメだよ?クレイ!!
ニーナが頭を下げて、アタシもアリガトウって言って・・・何か言いたそう?に見えたけどまぁ気のせいだよね。気にしない。




「あっはははは!すっごい弱ーい!」
、そんなに笑ったら悪いよ・・」
「だって用心棒なのに一撃なんだよ?ビックリだよ」

本当に酷かった。“マーロックさんに会いたかったら俺を倒せ”って言おうとして、そのままクレイの一発でダウン!
本気で信じらんない!流石にありえなくてビックリした!!
あー・・でもすっごい面白かったぁっ!・・・ん?流石に面白がっちゃダメ?

ニーナが一生懸命“ごめんなさい”って言いながら家に入る。
途中で女中?召使い?が止めるけどクレイは止まらない。
うーん・・これって不法侵入じゃなかったっけ?
用心棒が自分を倒せば良しって言っても家主の了解が無きゃダメじゃない?
・・・・・ま、良いか。クレイが勝手にやってるんだし。
ごめんなさい、召使いサン。と、コレで良いよね。
それからクレイが勢い良く扉を開けた先には、豪華な部屋。豪華な椅子から煙が立ってて・・あ、誰か座ってるんだ。

「・・・・何ですの?さっきから騒々しい。外で騒いでたのもあんたらですか?」
「マーロックとやらはお前か?」
「はぁ。確かにワイがマーロックですが・・・」

特徴のある喋り方。面白いオレンジ色したカエルだなぁ、アレ。
怪訝そうな顔。逆にクレイはオレンジのカエル・・もといマーロックを怖い顔で睨みつけてる。

「単刀直入に訊く、エリーナを何処へやった・・・!!」
「・・・エリーナ?」

きょとんって顔。・・知らない?名前を知らないだけ?

「惚けないで下さいっ!!貴方が攫ったウインディアの王女です!!」

わわ、ニーナがあんな風に声を荒げるのなんて初めて見た。
・・・あ、でも今のは怒るよね?普通の反応か。
それよりアタシもリュウもマスターも部外者だからさっきからずっと傍観だけど・・放っとくの少し怖いなぁ。
で。マーロックの話だと確かにソレっぽいヒトを砂船に乗せた記憶はあるみたい。
帝国に“西側に送って欲しい”って───

「何だと!?何故エリーナが敵地へ行く必要があるッ!!?」
「わ!クレイ、それはダメ!!」

ぶらんって・・足届かないからぶら下がってるし。胸倉を掴んだら何も喋れないでしょ?
話を聞きたいんだったら、そんなのダメだよ!!って、必死に説得したら何とか解放してくれた。あ、危ないなぁ。
話だってまだちゃんと聞いて無いのに、そのままぶら下げたら死んじゃうでしょ!・・・ん?何か変な事言った?
呆気にとられた顔?みたいな。そんなのしなくても良いじゃん、リュウ。

「・・全く、手荒い事しますなぁ。さっきのお言葉ですけど、ワイはそんなん知りません。
帝国さんに頼まれたんは運ぶ事だけで、それ以上は何も知らへんのやわ」

何度か咳き込んでから、マーロックは少しだけ首を横に振った。
ニーナが・・ちょっとだけ不安そうな顔。

「ほ・・本当に何も知らないのですか?」
「金さえ払てくださったらそれ以上は追求せぇへん。それがワイの商人道ですわ」

ハッキリと返す位だから本当にそうなのかな・・・?と、クレイが自分の掌に拳を打ち込んだ。

「ともかく、これでハッキリした。エリーナは帝国領にいるッ!!すぐにでも西側へ渡るぞ!」
「あ、でも兄さま!砂船はもう使えないです。西側に渡るとしても、如何したら?」
「む。そうだったな。何とか調達するか、他の手段を取るかせねば・・・」

「・・・なるほど、砂船が必要なんでっか?」

敏感に2人の言葉を聞きつけてマーロックが凄く嬉しそうに笑った。



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