鳥篭の夢

第一章/08



マーロックが言うにはここら辺で“砂船”を持ってるヒトはマーロックだけみたい。
だから調達するにも乗せてもらうにもマーロックの協力が必要って事らしい。
・・・何だか面倒な話になってきたかも。歩けば良いのにってちょっと思ったけど、ニーナが体力なさそうだもんね。
流石に徒歩で砂漠越えは無理かぁ。

商談・・って言ってもクレイはそんなにお金の持ち合わせないし、アタシもリュウ達だって持って無いからちょっと違うけど。
それで砂船に乗せて貰う条件でクレイ達男手は掃除と雑用、アタシとニーナはマーロックの身の回りの世話をする事になった。
身の回りの世話って、何したら良いんだろう?

「このごうつく商人が!ニーナとに何をさせる気だ!!」
「んー・・マッサージとか?」
「ふざけるなッッ!!」

ありゃりゃ、尻尾が凄い逆立ってもっふもふになっちゃってる。
でもそれ位ニーナが心配なんだろうなぁ。

「でも・・・用心棒を勝手に倒しちゃったし“当然の取引”だってマスター言ってますよ。
うふふふー。掃除と世話係位で砂船を出してくれるなら安いもんだそうです」
「ぐ・・ッそれは、確かに・・・」

楽しそうに笑ってるけど正論だよねぇ。そういえば、アイツうっかり倒しちゃったもんなぁ。

「兄さま!私、頑張ります!!
やっと掴んだ姉さまの手懸かりなんです・・・今は迷ってる暇なんかありません!!」
「僕も手伝うよ!クレイ」
「アタシも一緒にお手伝いするし、皆でやればすぐに終わるよ!」
「ニーナ。リュウ、・・・・」

漸く頭が冷えた?でもまぁ結局、お世話って何したら良いのかわかんないんだけどね。
んー・・・まぁ何とかなるんじゃないかな?って思う。

「・・・そうだな。分かった、従おう」

クレイの言葉にマーロックは“商談成立”って嬉しそうに笑った。
それからリュウ達を見送って・・・・


「・・・で、アタシ達は何したら良いの?」
「せやなぁ・・ニーナはんにはワイの肩でも揉んで貰いましょか。そんではんには・・・」
「──あ!この茶器可愛い!!」
「ちょ・・!?人が話しとる途中なんやけど・・・何や、それが気に入りはったん?」
「ん?んー・・・別に。ちょっと可愛いなって思っただけだよ」

茶器なんて久しぶりに見たなぁ。
久しぶりって前が何時か覚えて無いけど・・・でも確か、昔はお茶淹れたりもしてたっけ?
・・・・・・あれ?何でマーロックずっこけてんの?変なヒト。

「・・な、何や、お茶の1つでも淹れれるんやったらお願いしよか?」
「あ。お茶の葉っぱある?」
「そりゃまぁそれ位はありますけど・・その茶器西側のやで?はん大丈夫かいな」
「西・・?わかんないけど、多分平気。こんな形の茶器で淹れてたような気がするから」

っていうか、他の茶器の形なんか分かんないんだけどね。

「ほほぅ、せやったら西側出身やったんですか?」
「・・・・・さぁ?」

首を傾げたら“よう正体の掴めんお人やね”って言われちゃった。
だって記憶喪失中だもん。正体不明に違い無いよね。
それから女中さんにお湯とお茶の葉を持ってきてもらって、記憶通りにお茶を淹れる準備。
とりあえず茶器を温めながら待つ。そういえばこの香りの茶葉・・・って、何だっけ?えーっと・・・

「ねぇねぇ、マーロック。このお茶の名前なんだっけ?」
「えーと、何やったかな?帝国さんから貰たもんやったし、よぉ覚えとらんけど・・・確か“茉莉花”やったかな?」
「あ、それそれ!マーロック偉いっ!!」

あースッキリした!そう、“茉莉花茶”だよ!!
リラックスするのに良いとか何とかって話なんだよね。
後は脂っこいもの食べた時とかスッキリして良かった気が・・・・・って──

「違ぁーうっ!!そんな記憶ばっかりイラナイんだってばっ!!」

思い出したいのと全然違う小ネタばっかりじゃんっ!!あー・・バカみたい。
・・・あ、そうだ。さっさとお茶淹れよ。
もう温度も適温みたいだし、あんまり待ちすぎるとぬるいを通り越しちゃう。

「・・・ど、どないしたんでっか?」
「別に何でもないよ。──はい、出来た!」

コポコポって器に注げば薄めのキレイなお茶の色。
・・・・・・確かこんな色だったよね?変なトコで記憶が曖昧だけど。
それをマーロックに出す。まぁ1人分しか淹れて無いから不味くても気にしちゃダメって事で。
匂いを確かめて、色を見て、それをゆっくり口に注ぐ。うぅ、何だか動きが一々気になるなぁ。

「──・・ほぉ、美味しいやないですの!こんなお茶、向こうでも頂いた事あらへんわ」
「あ、ホント!?えへへ、今のはちょっと嬉しいかも」
「ははぁ、西側のお茶もホンマはこないに美味しいもんなんやねぇ。
・・・あ、せや!ニーナはん肩揉んで貰えます?このお茶にニーナはんのマッサージ・・極楽やでぇ」
「あ・・はいっ!分かりました!!」

ニーナが一生懸命頷いて、それからマーロックの肩を揉み始める。うーん、何だか暇になっちゃった。
何か面白い事とか無いかな?流石にお茶菓子は作った事無いし・・作り方分かんないし、今から作っても遅いし。
だからって何処かに行ったらクレイが怒るよね?
ニーナを1人にするんだし・・・すっごく怒りそう。それもヤだなぁ。

「いやー・・極楽やわぁ。ニーナはん、マッサージの天才やね。
ホンマ、こんなん気持ちえぇんは久しぶりやぁ」
「そうですか?良かったです」

にっこりと柔らかくニーナが笑う。
ズズ・・って音を立ててお茶を啜って、本当にリラックスしてるみたい。
・・・・・ん?バタバタって足音。あれは多分───

───バァン・・ッ!!


「終わったぞ、マーロック!!」

やっぱりクレイだ。別にそんな思い切りドア開けなくても良いと思うんだけどな・・・五月蝿いし。
後ろからはマスターとリュウの姿もある・・って事は、途中で投げ出したんじゃなくて終わったって事だよね。

「掃除も雑用も全部終わらせた。コレで良いだろう?」
「・・・・もう少し行儀良ぉ出来まへんか・・?」
「約束だ。砂船を出してもらおうか!」

ずずいと詰め寄るクレイにマーロックは半眼になってため息。それからクレイを見据えた。

「しゃーない、そしたらご案内しますわ。とっておきのVIPルームにお乗せしましょ」

それにニーナがホッとして・・・うん、良かったね。アタシと手を叩いて喜び合う。
西側。帝国。近づけば少し位は思い出せるのかな?思い出せると良いな。主の事とか、目的とか・・ちゃんと。



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