鳥篭の夢

第一章/10



「───ッ!」

不意に嫌な予感が過ぎった。胸騒ぎって言うのかな?そんな感じの。
隣にいるリュウも同じみたいな顔をしてて・・・まさか主に何か?何でそう思ったのか分かんないけど、そんな風に感じた。
お互いに顔を見合わせて、何か言いたい訳じゃないけどただ口を開いて───

「リュウ?」
さんも、どうしたんですか?」

クレイとニーナの声に同時に2人へと向いた。えぇっと・・・2人には心配させたらダメだよね。

「ううん!何でもないの。ね?リュウ!!」
「う、うん・・」

アタシの言葉にリュウも何度も頷く。唯の胸騒ぎ。そう言ってしまえばそれまでのあの感覚。
そんなものでニーナ達まで不安にさせちゃうなんて、そんなのは嫌だもん。・・・・・きっと大丈夫だから。
アタシ達の反応にクレイは不思議そうにしてたけど“そうか”って返してくれた。

「ともかく、少し足止めをくらったが・・・漸く動くそうで何よりだ」
「え?」
「何が??」
「お前達、話を聞いてなかったのか?」

クレイの言葉の意味が分からなくて一緒に頷く。リュウもアタシもさっきまで全然違う事してたから。
そうしたらクレイは呆れたみたいな顔になった。あはは・・ゴメンね、クレイ。

「大帝橋って移転装置なんだそうですよ。私・・てっきり橋を渡るものかと思ってました」
「あ、そっか。一応名前が“橋”だもんね」

勘違いしちゃうよね、普通。

「ああ。それで今日、漸くその装置が作動するそうだ。如何やらこちらにいる軍人が帰る為らしいが・・・」
「ふぅん、そうなんだ。じゃあ丁度良かったんだね」

そう言ったらクレイは一度頷いた。軍人さんが行き来する時しか開かないつもりなら渡れないもんね。
でも、軍人さん・・・か。そういえばセネスタにもそれっぽいヒトがいたっけ。アレも帝国の人だったのかな?

「見つかっては面倒だ。先に行って上で待機していよう」
「移転装置・・・」

ふとリュウが高い塔を見上げる。そういえば移転装置だって事は言ってなかったんだっけ?まぁ良いけど。
アタシだってさっき思い出したばっかりだし。それに思い出したら逆にそれが当然みたいな感じがしちゃってたし。
ニーナが言ってくれなきゃ移転装置なのが当たり前だって思う所だった。

大帝橋を昇っていく。途中までは階段を使わなくちゃいけないけど、でも最後はリフトで上に行くから楽々なんだよね。
5人で乗ると少しだけ狭いけど・・・でも何とかリフトで上へと辿り着く。
屋上みたいになっている場所に作られた移転装置。主も変な場所に作ったよね・・・ホントに。


「此処が頂上か・・・」

───ガコン
・・・何だろう?そう思って後ろを見たらリフトが下がっていく。

「リフトが・・?」
「降りてっちゃった。、これって・・」
「ううん。下で操作出来た筈だから、誰かが動かしたんだと思う」

あまり良い予感はしない。じっとリフトを眺めていたらパリ・・って電流の走る音。
移転装置が動いたんだってわかる。唐突に鋭い音を発して流れる電流にアタシ以外の皆が構えた。

「きゃっ!」
「何・・だ!?」
「大丈夫だよ、移転装置が動き出しただけだから」
「そのようですね」

アタシの言葉にマスターも頷いた。
ぐにゃり。空間が歪む。あぁ、懐かしいなぁ・・最初はアレに飛び込むのが怖かったっけ。

「これは・・その中に飛び込めば良いのか?」
「うん、そうだよ」
「早めに行った方が良いってマスター言ってますよ。
移転装置が動き始めたって事は、敵も此方に向かってるって事だそうです」
「あ、あぁ・・そうだな」

クレイが頷く。やっぱり最初は怖いよね。あ、アタシが最初に行った方が良いのかな?
そう思って先に一歩を踏み出して───ゾワリ。背筋に嫌なものが走る。


「皆っ!!」
「危ないッ!!!」

「きゃぁっ!!」

アタシとリュウが同時に叫んで、それから一筋の衝撃。石畳みたいな床が痛いほどの悲鳴を上げた。
酷い音に耳がキーンってする。見渡して、リュウがニーナを庇ってくれたから誰も怪我はしてないみたい・・・良かった。
って、良くはないんだけど。むき出しの敵意。視線を向けると1人の軍人さん、かな?砂埃で良く見えない。

「・・・・ッ誰だ・・!!」

リュウが剣を抜いて構えた。勿論、アタシだって戦闘態勢。砂埃が晴れてきて攻撃してきたヒトの姿が見えた。
金髪の男性が1人だけ。緩く口元だけが笑ってて何だかキモチワルイ。

「──はぁい、お久しぶりね」

「・・お前は・・・」
「ぁ、て・・帝国の・・・」

何でこのヒト、女の人の口調なんだろう?
とりあえずニーナとリュウの反応から、2人はこのヒトを知ってるみたいだった。驚いた顔をしてる。

「全く、厚かましい人達ね。断りも無く帝国の装置を使おうだなんて!」
「・・軍人か。見逃しては・・・くれんようだな」
「ええ、残念だけどね!そっちのボーヤに借りがあるのよ」

軍人が自分の顔の傷痕をそっと撫でた。額から眉間を通って真っ直ぐに切り裂かれた痕。

「・・・・痛かったのよぉ、コレ!!」

うわぁ、相当怨んでるんだろうな・・。口だけ笑ってるけど目には怒りが滲んでる。
“倍以上で返す”って言ったその軍人は、何処からか紙切れ───あれは多分、符?だと思う。それを取り出した。

「1人で俺達と戦うつもりか?仲間を連れてくるべきだったな」
「あら。何言ってるのかしら?」

クレイの言葉に軍人が緩く笑う。アイツの言う通りだ。
符を使うって事は何かを呼び出すって事なのに何考えてるんだろう。あ、もしかして“東”にはないのかな?

「私が1人で来たのはね、アンタ達の相手は“コレ”で充分だからよっ!!
───我が名において命ずる。いでよ!攻鉄鬼イメカフ!!」

ふわり、投げた符が甲冑に身を包んだ魔物に変化した。・・・げ、ああいうタイプは苦手なのになぁ。



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