鳥篭の夢

第一章/11



「っ!?」

召喚された魔物の片手。握られてた大剣が素早く振り下ろされて、それは避けたけど同時に衝撃派。
流石に避けれなくって───うぅ、地味に痛い。
無理やり身体を動かそうとしたら貫かれるような激痛があった。あ、もしかして足が折れてるかも。だからこんなに痛いんだ。
やだなぁ。これじゃ上手く動けなくなるのに。


「ほぉら、ね?」

不意に声。見れば衝撃派で飛ばされた皆の後ろに軍人の姿。リュウが応戦しようとするけど・・・・ううん、ダメっ!!

「リュウ!危ないっ!!」
「ぐ・・・ッ」

魔物の何も持たない方の手がリュウを捕らえた。逃れないように力を入れてるのがわかる。
もしかして潰すつもり・・・?ダメだ・・それは絶対にダメ!!
何とかしなくちゃ・・そう思うけど折れてる足の所為で思うように動かない。

「──あぁ、ホント腹の立つ。特にアンタは・・じっくり苦しませてから殺してあげるわ」
「や・・やめてっ!!」
「ダメ!ニーナ!!」

パン...ッ

乾いた音。リュウを助けようとしたニーナを軍人が叩いた音。
遅かった、なんて後悔と胸に怒りが滲むのが分かる。
何も出来ない女の子を叩くなんて許せない。ニーナを叩くなんて・・・!

「あら、妹の方もまだ一緒にいたの?」

翼を掴んで引き上げる。痛そう・・アタシだって尻尾とか耳を掴まれたら痛いんだから。
それにニーナは本当にただの女の子なのに手を上げるなんて何考えてるの!?何も考えてないの??
痛みと恐怖に歪んだ顔。そんな顔させるなんて許せないっ!!

「ニーナを離してっ!!」

動かない足を無理やり動かす。分かってる。今のアタシはあまり役には立たないって事位。
それでも動いた。身体が勝手に動いて、痛いけどよろめきながらアイツに突っ込んで行って──“蹴られる”そう思った瞬間に身を低くした。
そのまま手をついて、反動で何とか無事な足の方でアイツの顎を蹴り上げる。

「・・・・・がッ!!」

一瞬だけ怯んだのが見えた。僅かに緩んだ手からニーナを引っ手繰る。
でも・・うーん、やっぱりダメだ。バランス取れなくてそのまま転倒。顔面から転んだから恥ずかしいし痛い。
走り出そうとしたニーナもそのまま止まった。早く逃げて欲しいのになぁ。

・・ッ!」
さ・・・・きゃぁっ!!」

声が聞こえる。そうだ、起きなきゃ!!・・・・そう思ったと同時に背中に鈍い痛み。それと悲鳴。ニーナの?
状況確認。えっと、アタシがアイツに踏まれてて、ニーナが髪を掴まれてて・・これも痛そう。乱暴すぎじゃない?
で、リュウはまだ平気なのかな。位置的に見えない。

「この・・っ私を蹴るなんて良い度胸じゃないの、お嬢ちゃん。
あらあら、よく見たら足も折れてるみたいだしこんなので動けたなんて凄いわねっ!!」
「ぁ、ぐっ!!」

激痛。鞘に収めたままとはいえサーベルで折れた足を叩かれたら流石に痛い。でも、こんな奴の前で悲鳴を上げるのは嫌。
だから無理やり奥歯を噛んで悲鳴を抑えて睨みつけた。凄く苛々する。こんな奴に足蹴にされてるなんて・・・・助けられないなんて。

「ふふ、威勢が良いじゃない。嫌いじゃないわよ?・・・ムカつくけどね。
貴女は後で始末してあげる。それよりも先に王女様の方・・お土産にするなら生かしとかないと」
「・・・ぁ・・ぁ・・・」
「妹でも一応ウインディアの王女様だものね。何かの役に立つかもしれないわ」
「・・ぁ、やっ!放してぇっ!!」

「ニーナッ!!」
「やめろ・・ニーナとに、手を出すな・・・っ!」

羽ばたく音。ニーナが抵抗してるって分かる。アタシも何とかしなくちゃ・・・。
リュウの声は苦しそうで、まだあの魔物に捕まってるんだと思う。クレイとマスターはどうなんだろう?分かんない。
でも何とかしなくちゃ。リュウを主の元へお連れする為にも。こんな奴に構ってられない。あんなただの軍人なんかに・・・ヒト風情に。
そうだ、アタシは■■■■■■なんだからっ!ただのヒトじゃないんだからっ!!

「──いい加減っ!!」

叫ぼうとして言葉が止まる・・勝手に。
空気が変わった。プツンと何かが切れたような変化。
そう。例えるなら、それは激しい炎のような怒り。我を失った苛烈な炎。
それは勿論アタシのじゃなくて・・・分かる。これはリュウの力だ。主と近いのに全く違う力。■■様だからこその力。

「ニー・・ナ・・・・・・!!」

リュウが途切れ途切れにアタシ達の名前を呼ぶ。誰も気付いてない、でも確かな変化。畏れる程の力。


「いやぁぁぁぁっ!!!」


すぐ傍のニーナの悲鳴すら遠く感じる程。だけどそれが切っ掛けになったのは確かだと思う。
力が爆ぜる。深紅の炎が・・・リュウの辺りで一気に燃え上がったのが分かった。僅かに踏まれていた足の力が緩くなる。

「え?」

アイツの困惑の声。何とか上体を起こして、圧倒的な雰囲気を持つそのお姿に息を飲んだ。
でもそれと同時に酷く懐かしいと感じる。竜てあるお姿。やはり貴方様は主の■■様なのですね?


「・・・・2人に、触るな・・・・」

リュウが手を伸ばす。ソレと同時に真っ直ぐ力が伸びた。爆発音と破壊音。地面が抉り取られてて煙が上がってる。
視線を戻せば何時ものリュウの姿があった。でも疲れてるみたいで息が上がってる。

さん!」
「あ、うん」

そうだ。逃げなくちゃ・・・まぁ、追って来る気は暫く起きないだろうけど。
ニーナに肩を貸してもらって何とかリュウ達の元へと移動する。ずるり、リュウの身体が崩れ落ちて・・・。

「リュウ!」
「リュウ・・くそっ!!」

転移装置の空間が歪む。あ、ダメだ。

「このままじゃ門が閉じちゃう!」
「く・・ニーナ走れッ!マスターはを頼む!」
「了解ですよ」
「ぇ、え!?」

ひょいってマスターに抱えられた。た、確かに足が動かないけど・・・!!
見ればリュウはクレイに抱えられてて。そんな状態でアタシ達はそのまま門を抜けた。

そういえば門を抜ける直前ふと思い出した事がある。
アタシが本当はヒトじゃないんだって事。そして主も同じように・・・・ううん、もっと別次元の存在だって事を。



inserted by FC2 system