鳥篭の夢

第一章/12



「・・・大丈夫ですか?リュウさん、さん。
怪我はリリフで治せましたけど・・体力までは」
「う・・ん、何とか。ありがとうニーナ」
「アタシも治してもらったから平気だよ。ありがと!」

申し訳なさそうなニーナの声。さっきの力を使ったからだと思う、リュウの体力は大分消耗してるみたい。
アタシは足を折っただけだからニーナに治してもらってもう大丈夫なんだけど・・・。お礼を言ったら嬉しそうに笑ってくれた。
変なの。アタシを気にする理由なんてないのに。優しいヒト。

「ニーナは大丈夫だった?怪我してない??」
「あ、私は大丈夫です!さんとリュウさんがすぐに助けに入ってくれましたから・・・。
・・・あの、ごめんなさいさん。私がもっとしっかりしていれば怪我をさせなかったかも」

申し訳無さそうな顔。そんな顔する必要なんて無いのに・・・。

「そんな事ないよ!
悪いのはイキナリ攻撃してきたアイツなんだから・・ね?それよりもニーナが無事だった方が嬉しいよ!」
「はい、ありがとうございます!」

少し恥ずかしそうに笑うニーナの姿。良かった、笑ってくれた。嬉しいな。
それからニーナの目線がリュウへと向く。

「私、凄くビックリしました。リュウさんにあんな力があったなんて・・!」

笑顔のまま言って・・でもニーナの言葉はそのまま止まっちゃった。

「リュウ?」

見れば、凄く複雑そうなリュウの顔。

「リュウさん、どうかしたんですか?」
「・・・・あの時。ニーナとに酷い事するアイツが許せなくて。目の前が真っ赤になって。
気付いたらあんな───」

アタシも畏れたあの力。決してヒトとは違う・・・そんな力。
それが自分の中にあるのが怖いんだ、リュウは。じっと自分の両手を眺めて苦い顔。

「自分にあんな力があるなんて知らなかったから、少し怖いんだ・・・。僕は一体何なんだろう・・・」
「リュウさん・・・」

アタシは・・リュウは多分“竜”なんだと思う。まだ記憶が戻らないから絶対とは言えないけど。
うーん、リュウにもアタシにも“コレ”って思えるような決定的な事があれば良いんだけどな・・・・。
そんな事を考えてたらニーナがそっとリュウの手をとった。

「答えはこれから一緒に探しましょう?
リュウさんが私達に力を貸してくれたように、私も兄さまもリュウさんの力にならせてください・・ね?」

柔らかい笑顔。それが急にアタシに向いた・・・え、と?

「それにさんも一緒にいますしね。
リュウさんの探している方とさんの大切な方は一緒みたいですし、きっと何か分かりますよ!!」
「・・うん!そうだよ、リュウ。1人じゃないんだから絶対大丈夫!!」
「ありがとう・・ニーナ、

嬉しそうに漸くリュウが笑ってくれた。
皆笑ってくれると嬉しくて、アタシもリュウの手をとって笑う。

「ご自身の御力を初めて・・・それも無意識に暴発させ、目の当たりにした恐怖がありましょう。
ですがご安心ください。確かに貴方様の御力は強大ではあります。でも決して自身が恐れるべきものではありません。
恐れれば力を知る壁となります。それが結果として力を暴走させた際に惨事を招く結果に繋がる事も・・・。
貴方様の中ではそれが一番懼れるべき事態なのでは?」
・・・?」
さん?」

今のは口をついて出た言葉。そう──多分、ガーディアンとして出てきた言葉。
主を・・・主の■■様を想う言葉。
だけどアタシ自身だってそう思う。心の均衡を崩して、我を忘れて力を振るう事が一番怖い。
でもそれに怯えて力を使わない結果、結局怒りに身を任せて全部壊しちゃう方がもっと嫌だと思う。
知っていれば、回避する方法だって見つかるかもしれないよ?だから怖がる必要はないんだよ。
でも・・主じゃない人にあの喋り方が出るなんて思わなかったけど。とりあえず笑って誤魔化してみる。

「あはは、気にしないで。たまに勝手に出てくるだけだから。自分でも良くわかんないの」
「う、うん・・・」

“分からない”って言ったからかリュウはそのまま頷いてくれた。良かった。


「皆!」

クレイの声。それに3人で目線を向ける。そういえば情報収集頼んじゃったんだよね。
大帝橋の先に何があるかなんて全く分からないし。何があったっけなぁ?ホントに。
まぁ昔と今が同じとは限らないしね。・・・・・・昔?今??何でそう思ったんだろ?

「どうもこの先に町があるらしい。とりあえず其処へ行ってみよう。
何か、エリーナの事が分かれば良いが・・・」

ぽつり。最後に呟くような言葉・・本当に心配なんだって分かる言葉。
一緒にいる間に何度も聞いた“エリーナ”っていう名前。呼ぶ回数に比例するみたいにそのヒトが大切なんだって分かる。


「・・・あ、リュウ」
「え?」

言っておかなくちゃ、リュウには。アタシはまた“何時忘れちゃうか分からない”から。せめてリュウには覚えていて欲しい。
それは貴方が■■様だからなんだけど・・・ん?何だっけ?リュウが・・何なんだろう?まぁ、良いか。それより言っておかなくちゃ。

「あのね。アタシ、ヒトじゃないから」
「・・・・・え?」

呆気にとられた顔。

「だからね。アタシはガーディアンっていう主を守護する者で、ヒトじゃないから。
あんまり心配してくれなくても平気だからね・・・・あ、でもさっきのは嬉しかったけど」

アタシに危害が加わりそうになって、それで助けてくれた。
それがニーナのついでだとしてもそれはちょっと嬉しかった。

「また忘れちゃうかもしれないから言っておくね。それだけ!」
「え。、それは・・・!!」
「あ。リュウは違うよ。リュウは確かにアタシに“近い”けど、もっと違う力だから。
そうだなぁ・・どっちかっていうと主の方に近いかも。何となくそんな気がする」

だってリュウは竜だから。あれ?でもそうすると主も竜になるのかな?・・・でも多分、そうかも。

「大丈夫。決して悪いモノじゃないのは確かだから・・ね!」
「う、うん・・ありがとう」
「ううん。だって本当の事だもん」

リュウが笑う。アタシも笑う。自分達の事なんて本当に全然分からない。
ガーディアンって言っても結局どんな事してたんだっけって感じだし。少しずつ蘇る記憶・・早く、主に近づけば良いのに。



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