鳥篭の夢

第一章/14



「あー・・ドキドキしたぁ」
さん・・まだ誰かいるかも知れないのに」

カーテンの裏を通り抜けて大きく伸びるアタシにニーナが苦笑。
えー?もう大丈夫だと思うんだけどな。追って来る気配はないし・・。
あ、でも前から誰かが来て鉢合わせとかはありそうだけど。

「いや、流石に此処まで来れば大丈夫だろう。何とか見つからずに──」

「残念ですが、見つかってますよ」

クレイの言葉を遮る声。さっき聞いたばかりのユンナって男の・・・・え?如何して??何で進路方向にいるの?
追いかけてきたんじゃないよね。だって方向が違う。
って事は、もしかしてあっちから回ってこれる道があったって事?でもそれにしたって・・・何だか変。

「な・・・ッ何時の間に!!?」
「あなた方、フォウ帝国の者じゃありませんね?
いけませんよ・・許可無く此処へ入られては」

クレイの問いには答えるつもりはないみたい。それに一度深呼吸してクレイは一歩踏み出した。

「人を・・探している」
「あの。ウインディアの王女でエリーナっていって、此処に来たって・・・!」
「エリーナ王女?」

名前に反応を見せる。多分、ユンナは知ってるんだ。

「ああ、その方なら確かにこの町へおいででしたよ。お優しい方で、戦争で傷付いた人をお見舞いなさってたとか・・・」
「やはり此処にいたのか!エリーナを返してくれッ!!」
「そう申されましてもねぇ・・・」

何で渋るんだろう?分かんないけど、エリーナさんにそれだけの価値があるって事?帝国に・・?
だって行方不明だって聞いた。取引するなら存在を示しておかなくちゃいけないのに・・じゃあ如何して?何で??

「応じないつもりか・・・・ならば実力行使だッ!!」
「ひぇっ!!」

武器を構えるクレイの姿に情けない悲鳴。

「ややや!それ以上近づかないで下さいよ!!」

慌てた様子で手を上げて・・・合図だったみたい。兵士が沢山入ってきてあっという間にアタシ達を取り囲む。

「・・・くそ!」

忌々しげに言うけど、でも手は出せない。ぎゅって拳を握って耐えるクレイの姿。形勢逆転?
うーん、でも元々あんまり良い状況ではなかったからちょっと言葉が違うかも。ユンナが安心したように笑ったのが腹立つけど。

「此処で暴れられると困りますからねぇ。
──時に、其処のお二方。ウインディアの王女とフーレン族の族長ではありませんか?」
「!?」
「・・・ぁ」

バレてた。ニーナとクレイの事。やっぱり上に立つ人間として多少なりとも顔は知れてるって事なの?
そういうのは詳しく分からないけど、でも2人の反応からそれが良くない事だって分かる。

「何故こんな所にいるのかは存じませんが・・敵国の軍事施設に無許可で入り込むのはよろしくないですね。
取り押さえなさい!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」

一斉に兵士が返事をしてアタシ達の身体を掴む。
・・・痛い。もしかしてこのまま東に帰るのかな?折角此処まで来たのに?
それに疑問がまだ残ってる。帝国のエリーナさんの扱い。まあ聞いた所でアタシが理解できるかは別だけど・・・。
それとエリーナさんの居場所だって分かってない。とりあえずアイツは戦え無さそうだし、それを何とかできれば良いのに・・!!


「離せっ!!」

鈍い音。短く悲鳴を上げて兵士が倒れた。えっと・・・リュウがやったの?今の。

「リュウ?」
「2人の邪魔をするな!!・・・は、早くエリーナさんを探しに・・・!」

・・・そうだよね。実力行使が一番早いもんね。
それにリュウは力を使ったり、水に潜ったりで体力を消耗してるんだから、アタシが頑張らなくちゃ!!
倣って、近くにいた兵士を蹴り倒して持ってた槍をぶん取る。何だか手に馴染むような感じがする。
何でかは分からないけど凄く使いやすそう・・・・。

「・・いい加減、ニーナを離してっ!」
さん・・!!」

ニーナを捕まえてた兵士を殴りつけると、良い所に当たったみたいでゴンって音と同時に兵士が倒れる。

「見つけるんでしょ?アタシだってお手伝いしたいんだから・・・ね」

リュウがそうしたいって言うんだったらアタシだってお手伝い。それにニーナもクレイも優しくしてくれてるから。
その分はお返ししてあげたいって思う。とりあえず力仕事くらいなら出来ると思うし・・・。
ヒュッて風が通る感覚。クレイの棍棒みたいな大きな武器が真横を通過して1人の兵士をなぎ倒した。

「そうだ・・2人の言うとおり、此処まで来たんだ!必ずエリーナを連れ戻す!!」
「やゃゃっ!だから暴れるなと・・・!
い、良いですか貴方達!これ以上暴れると外交問題に発展しますよ!!」

言葉にクレイの動きが止まった。苦々しい顔。上に立つ人間としての判断。手出しできないって・・・悔しそう。

「そんなの・・・」

アタシは槍で兵士をなぎ倒していく。目指すは勿論アイツ。・・・ユンナ。
だって、このままなのは何だかアタシも悔しくて・・・・・

「そんなの知らないっ!どうして大切な人に会いたいって、心配だって気持ちが分からないの!!
外交問題?そんな事で人の気持ちが片付く筈ないでしょ・・・っ!!この──・・!!」

───ゴッ

「きゃぁっ!!」
ッ!!!」

背後から衝撃。言葉の先は続かない。ニーナの悲鳴とリュウの叫ぶ声が聞こえて・・でも反応できない。
頭を強く打ったんだろうな。何だかくらくらする。そのまま倒れて・・・あ、手から槍も落ちちゃった。戦えないや。
誰かが抱きとめてくれたのは分かった。でもそれだけ。

「~~~っ!!」
「───・・?──」

僅かに声は聞こえる。何を言ってるのかは分からないけど。ただボンヤリと意識が落ちていく。


「いませんよ───そう、“ヒト”はね」


何でかな?アイツのその言葉だけは、どうしてかハッキリと耳に残った。



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