第二章/02
「今・・・だよね?」
「うん、今なら大丈夫だ」
夜。監視役のヒトが寝ているのをリュウとアタシで確認すると、こっそり作っておいたカーテンをロープにしたのを窓から垂らす。
出来るだけ物音を立てないように降りていった。
布に体重がかかって軋む音。僅かな靴音。これがあのヒトに聞かれないと良いけど。
「・・・ッ!」
先頭を切ってたリュウが急に立ち止まる。ヒトの気配・・・多分、見つかったんだろうな。
リュウの隣に並べば、そこにはさっきまで寝てた筈の監視のヒトの姿。
・・・・ちぇ、ダメだったかぁ。
「やっぱ見つかっちゃってたね」
「リュウさん!ど、どうしましょう?」
「・・・・くそ」
リュウがアタシ達を守るみたいに腕を横に広げた。ちょっとだけ緊張する。
「・・・・ど、どこ・・行く?」
「・・城へ行く」
「お、俺。監視・・・する」
「邪魔するのか?──だったら・・」
実力行使も厭わない。そう言いたそうにリュウが鞘に手をかけて・・・・。
「俺も行く」
・・・えっと?
結構、思いがけない言葉。ちらって見たらリュウもニーナもビックリしたような顔してる。
・・うん、普通そうだよね。アタシもビックリした。
普通に道あけてるし・・・・え、あれ?そんなんで良いの??
「ぇと、止めなくても良いの?監視役なんだよね??」
「・・・お、俺の仕事・・。監視する事、だけ・・一緒に行けば・・・・問題ない」
・・・そんなもんなの?
「・・どうしようか・・・」
「あ、でもどの道一緒に行って貰うしか・・・」
「とりあえず邪魔しないみたいだし、行く?」
ごにょごにょって話し合う。それで今此処でごちゃごちゃもめる方が良くないよねって話になった。
ちょっと心配だけど・・・逃がしてくれそうには見えないし、それにボーっとしてるように見えてこのヒト凄く強いと思うし。
気配?雰囲気??なんて言えば良いか分かんないけど、でも下手に戦いたくない。
それにしても監視だからついていくだけで問題ないって・・何だか面白いヒト。
「うーん・・しっかり見張ってるよね?」
「訳を話してもダメ、ですよね」
「うふふー。それは無駄だと思うってマスター言ってますね」
城の入り口にしっかり立ってる警備兵が1人。でも周りには誰もいない、かな?それなら・・・・っ!!
「・・・ッえぃ!!」
「ぐ・・・ぁッ」
──ゴス
鈍い音と呻く声。敷地内だから油断してたのかな?素早く移動して鳩尾に一発入れて終了。
ぱんぱんって手を叩いて・・・叩く必要は無いんだけど、何となく。うん、まぁとにかくコレで大丈夫だよね。
リュウの方に向いておいでおいでって手招き。でも皆驚いた顔してて・・変なの。
「うふふ、は無茶しすぎだってマスター言ってます。声出されたら危険でしたねー」
「んー・・でもほら。一発で綺麗に入れたし、とりあえず上手く行ったし良いでしょ?」
「・・・うん。だけど、あんまり無茶しないで」
「そうですよ。私、ビックリしちゃいました」
ホッと胸を撫で下ろすニーナの姿。えっと・・今のダメだったかな?そう訊いたら首を横に振ってくれた。
ただ心配だからって・・・・何だかくすぐったい気持ちになる。
「とにかく先に進もう!ニーナ、クレイのいる場所は分かる?」
「あ、はい。多分・・ですけど」
「じゃあさっさと先に進んでクレイ奪還しなきゃね!」
「・・・はいっ!」
皆で一度頷いて、それから先へ進んだ。途中何度か同じように警備兵がいたけどソレを片っ端から気絶させる。
リュウとアタシだけじゃなくて監視のヒトも手伝ってくれてちょっとビックリしたけど・・・でもお手伝いしてくれるのはアリガタイよね。
そのお陰で多分アタシ達だけでやるよりも早く片付いた気がするし・・ちょっとだけ感謝。
変なヒト。不思議なヒト。でもそれは嫌な感じじゃなくて・・・・・・。
それからニーナが“多分此処です”って言った扉を開けて──。
先には、深く項垂れてるクレイの姿。何?落ち込んでたのかな??
「兄さまっ!!」
「ニーナ!それにお前達・・・如何して此処に!?」
「兄さまを助けにきたんです・・!一緒に逃げましょう?」
2人の会話を後目にこそっと扉の外に出る。開け放したままだから声は一応聞こえるし良いよね。
とりあえず話はニーナに任せて、一応アタシは見張りでもしよっかな?もし声を聞きつけて誰かが来ても大丈夫なように・・・。
「ん?」
何かいる?そう思って顔を上げたら監視のヒトが目に入った。綺麗な緑色の着流しが良く似合ってる。
・・・・あ、そういえば名前って何なんだろう?抜け出してバイバイだって思ってたから聞くの忘れてた。
「ねぇねぇ、名前なんていうの?」
「・・・サイアス」
「そっか、サイアス!アタシはっていうの」
ぽつり。名前だけが返ってきたけどそれだけでもちょっと嬉しい。ちゃんとコミュニケーションが取れるって素敵だよね。
アタシも名前を名乗ったら一度だけ頷いて返された。
「サイアスってお喋り苦手?あんまり喋らないし」
「得意では・・・無い」
ぽつぽつと喋る。独特の喋り方と低い声が耳に心地良い。聞いてて落ち着く声してるんだなぁって思う。
「あ、でも一緒に来てホントに良かったの?見張りも倒すの手伝ってくれたし・・・」
「・・・見てろと、言われた。けど・・・止めろとは、言われて・・ない」
グって親指を立てて笑う。
「そか。優しいんだね、サイアスは」
そう言ったらキョトンって感じの顔。目は見えないけど何となく分かる。面白いなぁって見てたらニーナがひょっこり顔を出した。
あれ、もう見張って無くても良いの?って訊いたら“はい、ありがとうございます”って笑顔で頷いてくれた。
「・・・い、行く・・のか?」
「はい。すみません、監視の方なのに見張りの方お願いしちゃって・・」
「・・・・?誰だソイツは」
クレイの怪訝そうな顔。そりゃそうだよね。
「あ、あのね。サイアスって言って、監視のヒトなんだよ」
「監視役!?何故監視役まで一緒にいるんだ!!」
「・・・って言われても」
だって見てるのがお仕事だって言うから。
同じような事を言ったニーナに、それでもクレイは“こっちの情報が筒抜けになる”って反論する。
「でもずっと一緒にいるのにどうやって筒抜けになるの?」
「逆に言えばこちらからも監視が出来るという事なんじゃないかってマスター言ってます」
「・・・・ふむ」
あ、納得してくれた?暫く腕を組んで悩んでたけど、やっと一度だけ頷いた。それからサイアスをジロリと睨みつける。
「・・・雇い主はイゴーリか。少しでも妙な動きをしてみろ、その場ですり潰すからな」
「に、兄さま・・・」
物騒な言葉。確かにあの武器ならすり潰したり出来そう・・って、違うか。でもそれだけやっぱり警戒してるって事なんだと思う。
・・・あ、これから何処に行くんだっけ?そう思ってニーナに訊ねてみたら“ウインディア”だって返ってきた。ニーナの故郷なんだって。
んー、何だかちょっと楽しそう。