鳥篭の夢

第二章/03



「う・・・ぁ」

ぬらりと怪しく光る鱗。

「ゃ」

本能が今すぐ逃げろと警告する。
これは無理だ。相手にしちゃダメだ。今すぐ逃げないと、逃げなく・・・・っ!
ズルリと大地の上を引きずるみたいな音に恐怖で頭が真っ白になって───

「っ・・・いやぁぁぁぁあっっ!!!」


アタシの絶叫が響き渡る。何で・・何でこんな所にこんな奴がいるの?
わかんないけど、わかんないけどとりあえずこれがアタシのピンチだって事だけは分かる。

「え。さん・・?」
「ど、どうした急に・・・」

皆の驚いた顔。でもそんなの気にしてらんない。目の前のアレが・・・蛇から目を逸らせない。
何でウインディアに行くのに蛇を渡らなくちゃいけないの?しかも・・あんなに大きいの!!無理だよ、絶対に無理っ!!
体が凍りついたみたいに動かなくて、でも震えてるのが分かる。瞳に涙がじわって滲んで視界が見えにくい。
どうにか一歩だけ後ろに下がって・・・でも、でも如何しよう?

「蛇・・やだ・・・」
「もしかして、蛇苦手?」

聞いてくるリュウに何度も頷く。

「ね・・ニーナ。ウインディアに行くの、此処通らなくちゃダメ?」
「あ・・はい。でも蛇さんは臆病ですし、大人しいですし・・きっと大丈夫ですよ」

絶対に大丈夫なんかじゃないよっ!!
声が出なくてただ一生懸命首を横に振った。無理。だって無理、こんなの。こんなのの上を通るなんて・・・っ!!

「やだぁ~・・・」

何とかならないのかな?どうにか出来ないのかな?でも頭が混乱してぐるぐる回ってる感覚だけがする。
どうしたら・・どうしたら・・・・?

「・・・・ひゃ!?」

悩んでたら急に体が軽くなった。目線が一気に高くなって、見てみたらサイアスの顔がずっと近くにある。
これって抱っこされてる状態だよね?えと・・・サイアス?

「こうすれば・・平気」
「そうですよ、さん!サイアスさんなら背が高いですし・・・ね?」
「そうだよ!、これなら少しは大丈夫??」

ニーナとリュウが笑顔を向ける。少しだけ心配そうなのも混じった表情。
・・・・・うん、でもこれならまだマシかもしれない。このまま蛇を見なければ。頷いたらホッとした顔になった。

「全く、世話の焼ける・・・」
「うー・・クレイに言われたくないもん」

負け惜しみ。だってクレイだって捕らわれのオヒメサマ状態だったくせに。アタシだけ言われるのは何だか嫌。
サイアスの首にしがみ付いてギュって目を瞑った。しっかり抱き締められた腕は全然緩む気配が無くて逆に安心できる。
移動してるのが震動で伝わってきて・・・・あ、でも凄い歩くの静かだな、サイアスって。変な所で感心しちゃったけど。

暫くそうしてたら、ぽんぽんって軽く背中を叩かれた。恐る恐る目を開けてみれば、そこはもう沼を抜けた先。
・・・・・・蛇、いないよね?目線だけサイアスに向けたら口元だけ緩く笑みを浮かべた。大丈夫みたい。

「あ、ありがと!サイアスのおかげで助かっちゃった」
「いや・・・」

少しだけ照れてるみたいな顔。えへへ・・見てて楽しいなぁ。


「さ。アムの沼を抜けましたから、もうすぐウインディアですよ!」

少しだけ機嫌良さそうなニーナの声。
サイアスがそっと降ろしてくれて、先頭を歩き始めるニーナにアタシ達も歩き始めた。



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