鳥篭の夢

第二章/04



「ちょっと嬉しそうだね、ニーナ」

先を歩くニーナの後姿を見ながらリュウがそう言う。でもアタシもそう思った。
エリーナさんの事とかクレイの事とかでずっと沈んでたっていうのもあるけど・・・少し晴れやかな顔。

「久々の故郷だからな・・・無理も無い。ニーナはウインディアを、俺は虎人の里を。
互いに人々の上に立つ身でありながら帰る時はエリーナを取り戻した時だと決めていたから・・・。
まさかこんな形で此処へ帰る羽目になろうとはな」

静かなクレイの言葉。ずっとそう思って来て・・それで西側まで行ったんだって本当に良く分かる。
“明確な誰か”に対する強いが伝わって──アタシも早く記憶を取り戻して、それで主にお会いしたいな。そんな事を考えた。


「こ・・これは、ニーナ様!!」
「よくぞご無事で・・」
「出て行かれた日から王はずっとニーナ様の身を案じて・・・」
「あぁ!クレイ様もよくご無事で・・!」

「皆!ニーナ様がお戻りになられたわ!!」
「本当っ!?」

お城に案内してもらったアタシ達を迎えたのは沢山の兵士さんや女中さん達の姿。ニーナとクレイに集まってすっごく嬉しそうに笑う。
帰りを心から祝福してるって分かる。まだ知らない人達にも報せに行って・・ニーナも嬉しそうで、アタシも何だか嬉しくなっちゃうな。
それから兵士さんの目がアタシ達に向いた。不審人物を見るような・・・・あ、でも不審だよね。

「何者だっ!!」
「あ、大丈夫です!その人達は仲間ですっ!!」

武器を構える・・まではいかないけどアタシ達に向ける。それにニーナが慌てて注意してくれて、兵士は武器をおろした。
“申し訳ありません”って頭を下げられたけど。んー・・でもまぁ、ニーナ達が旅に出た時にはいなかったし。
それにマスターだって全身鎧で見た目結構怪しいし。仕方ないよね?だからアタシは全然気にならないかな。
ニーナはコホンって1つ咳払いして気を取り直したように兵士さんに笑顔を向けた。

「ところで、お父様はどちらに・・・?」


それから兵士に案内された部屋にいたのは思ったよりもガッシリした感じの王様。厳しそうに見えるけど、でも嬉しそうに笑ってる。
うーん・・じゃあニーナはお母さんに似たって事だよね。良かった、お父さんに似てなくって・・・うん。失礼?そんな事無いよ、多分。

「おお、ニーナ!良く無事に帰ってきてくれた。心配したのだぞ?」
「ごめんなさい、お父様」

親子の感動の再会?みたいな感じ。
それからアタシ達へと王様が向いて、誰?って不思議そうな顔。

「あ、えっと・・こちらはリュウさんとさんです。旅をしている間色々手伝っていただいたんです。
サイアスさんもルディアから逃げ出す時協力していただいて・・・ありがとうございました」

あ。サイアス、またちょっと照れた?ニーナが“勿論、マスターさんも”って言ってマスターが笑った。
それを王様はどこか嬉しそうな顔をして見てる。優しい雰囲気。何だか良いなぁって思っちゃう。
お父さん・・・か。全然記憶に無い、っていうかそういう存在がいなくちゃいけない事にも気づかなかった。
何でだろう?ニーナ達とは違って凄く遠い存在に感じる。
アタシがヒトじゃないから?何か違う気はするけど、んー・・・でもま、別にどうでも良いか。

「そうか。娘が世話になりましたな。
・・・クレイ殿も、そなたも苦労をかけたようだ」
「い、いえ・・・俺は、結局何も出来ず連合の足を引っ張ってしまい・・・」
「兄さま・・・」

クレイの複雑な表情。やっぱりクレイがした事は良くないのかな?西側に行ったり抜け出したりした事。
でもそれは大切な人を守る為でしょ?助けたくて、それは今も変わらないから此処にいる。それが悪いの?アタシには分からない。
王様もニーナもじっと黙ってて、だけど纏う空気は決して責め立てるんじゃなくてもっともっと優しい。
まるでクレイの心境を察したみたいな、労わるみたいな。だけど言葉がかけれないから沈黙するしかないっていう感じがした。

「ともかく」

ふと王様の言葉で空気が少し柔らぐ。何だか不思議な感じ。
目線がアタシとリュウの方に向いて、ニッコリと笑顔を見せてくれた。

「長旅疲れたであろう。今、食事の用意をさせる。話はそれからでも良かろう?
客人方もどうかゆっくり休んでいってくだされ」
「・・あ、ありがとうございます」
「はい。お気遣い痛み入ります」

「・・・え、?」

リュウが慌てたようにお礼を言って、アタシも頭を下げる。それから驚いたみたいなリュウの反応。
アタシの言葉に対して、だよね?・・・・えっと。言い方、間違ってないと思うんだけど変だった?少し不安。
主にはたまに使ってた気がしたんだけど。あ、でも主なのにたまにって如何なんだろう?まぁ、良いのかな?



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