鳥篭の夢

第二章/06



食事が終わって日も暮れた。とりあえず部屋に案内してもらったけど・・・何だか落ち着かない。
ふかふか過ぎるベッドとか、よく見ると高そうな調度品とかいっぱいあって気が休まらないっていうか。
こんなトコで1人で寝るの?何だか嫌だなぁ。
あ、それに。もしもリュウに何かがあっても気付けないし守れないし・・・。

「うん、やっぱりリュウの部屋に行ってみよーっと」

ヒトリゴトだけどそんな事言って部屋を出た。長い廊下。リュウの部屋が分かんないから気配を辿る。
近くにいるからか力を強く感じて居場所がすぐに分かる。力が近いって便利だよね。
主は遠すぎて“西側にいる”って事位しかまだ分からないけど・・・でもそれだけでも少し安心。
・・・・・と、あれ?何だか見覚えのある後姿。


「サイアス、ドコに行くの?」

声をかけたらサイアスがゆっくり振り向いてアタシの方を向く。前髪?みたいな部分の毛が邪魔して目は見えない。
見えないんだけど、アタシには何となくサイアスが何処を見てるのか理解できた。

「・・・ひ・・昼寝が、出来る場所・・を、探す」
「ふぅん。そっか」

ううん、本当は違う。サイアスは嘘を吐いた。だってアタシの顔を見て無い。
後ろめたいって少しだけ思ってるんだよね?多分だけどそう思う。
“じゃあ気をつけてね”って言ったらちょっと驚いた顔。あ、言葉を選び間違っちゃった。

「・・良いの、か?」

サイアスも気付いてるよね?アタシのさっきの言葉の意味。うーん・・もっと違う事言えば良かったなぁ。
ジッと今度はちゃんとアタシを見てる。返事を待ってる。だからアタシは笑った。

「だってそれがサイアスの大切なお仕事なんでしょ?サイアスにとって必要な事なら止めるなんて出来ないよ。
それにアタシだって自分の主の命令は最優先だし・・・だから別に良いと思うよ?」

アタシはきっと主が命令したならリュウにもニーナにも敵対するんだと思う。攻撃も、生命を奪う事も厭わない。
だってアタシには“主”しかいない。ほとんど覚えて無いけど、心の中にはあの御方しかいない。
だから寧ろ雇われた監視役なのに今まで手伝ってくれた事の方が不思議なんだよね。・・・・・・あ、そうだ!

「それと、ありがと!」
「・・・?」
「クレイを助けに行った時に手伝ってくれたでしょ?だから、アリガト!」

アタシはどっちかっていうとクレイは如何でも良いんだけど、リュウの提案だったし。ニーナも泣いちゃうからお手伝いした。
でもサイアスはそんな目的も無いのに手伝ってくれた。それが監視するって名目だったとしても、その事実は変わらないよね。
だからきっと優しいヒトだと思う。傭兵とか、監視役とか関係ない。
それにサイアスは小さく首を横に振る。それからポンってアタシの頭に手を置いた。・・・・なんだろう?

「・・も、優しい」
「あはは。嬉しいなぁ、ありがと」

そんな事言ってくれるのはニーナ位なんだよね。って言って笑ったら、サイアスも口元に笑みを見せた。
頭から手が離れてサイアスが歩いていくのを見送って・・口が勝手に“いってらっしゃい!”って言う。
サイアスがビックリしたみたいな顔して一度振り向いて、でもアタシも何でそんな事を言ったのか分かんない。

“いってらっしゃい”は帰ってくる事を信じて送り出すコトバ。
帰ってきて欲しいから言うコトバ。

帰ってきて欲しいの?サイアスに?分かんないけど、そうなのかもしれない。だからそんな言葉が出たのかも・・・。
考えれば考える程、酷く変な感じ。遠くなっていく後姿が少しだけ淋しい・・・淋しい?アタシが?まさか!
そんなの気のせい。アタシは淋しいなんて思ったりしない。だって主の事じゃないのに、そんなの変。
何だろう。もやもやするみたいな変な感じが少しキモチワルイ。
何度も頭を横に振って考えを打ち消して、アタシもリュウの部屋に歩き出した。


が来てくれて良かった。1人部屋ってどうも緊張しちゃって・・・」
「うん、アタシもアタシも~」

部屋を訪ねたらリュウは快く迎え入れてくれた。
良かったぁ、嫌って言われたらどうしようかと思っちゃった。
アタシと同じふかふかのベッド。やっぱり変な感じがするけど1人じゃないから全然マシ。
それから別に何かお喋りしたりっていう訳じゃないけどのんびりする。リュウの傍って結構落ち着くなぁ、なんて。

「ねぇ、
「ん?何ー」

じっと考え事をしてたみたいなリュウが顔を上げた。真剣な瞳。

は僕の事を“竜”だって言ってたけど・・それは竜眼があるから?」
「あ。んっとね、それもあるんだけどそうじゃなくて・・・」

何て言ったら良いのかな?

「んー・・・主に近い感じ?だからかな」
「主って僕の探してる人と同じだよね?じゃあ、その人も竜って事?」
「うん。主は竜・・ヒトに“神”と呼ばれる存在なの」

やっと思い出せた事。本当に嬉しい主の情報。
またちょっと忘れかけてたけど、もう絶対に忘れないんだから!

「主に関して思い出せたのはまだそれだけなんだけどね。
あの時・・大帝橋で戦った時のあのリュウの姿を見て、懐かしいって思った」
「あの姿が?」
「うん。滅多には見られなかった気がするけど」
「・・・そうなんだ」

窮地に追いやられる事なんてそう滅多にある事じゃないし。勿論、アタシだっているもんね。
・・・・あ、でもアタシが一番足手まといだったんだっけ?まぁ良いや。そこら辺はあんまり覚えてないし。

「リュウ。あのね、だから自分を怖がる必要は無いんだよ?」
「え?」
「確かにリュウが竜だって確証はまだないんだけど・・・。
でも竜は別に怖い存在じゃないってアタシは知ってる。本当は凄く優しい存在なんだから」

口元が緩んで勝手に笑顔になる。アタシは主が好きだから。怖いって思った事はないから。
そういう感情は簡単に思い出せて、でもそれはちょっと嬉しくて、だから笑顔になっちゃうんだと思う。
それにリュウも安心したみたいに顔を緩ませてくれて“ありがとう”って言ってくれた。

のおかげだ」
「え、何が?」
「うん。最初は自分の事が、この力が怖いって思ったけど・・・でもがそう言ってくれたから。
そうやって笑ってくれるから自分を知る事はもう怖くなんかないって思えた。決意出来たんだ」

真剣な顔をして、それから嬉しそうに笑ってくれる。嬉しいな。少しでも不安を取り除けたなら凄く嬉しい。
だって悩んでばかりじゃ生きてて楽しくなんてないんだよ。いっぱい笑っていっぱい嬉しいって思わなくちゃ!!
アタシはそれが一番だって思うな。



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