鳥篭の夢

第二章/07



「ふぁ・・・ねむー」

追っ手が迫ったら困るからって、なにもこんな早朝から行かなくても良いと思う。
長い階段。カツン、カツンって持ってる槍が階段の段差に当たって音を立てた。
少しでも武器があった方が良いと思って借りたけど、邪魔だったかも。長いし。持ち歩くの面倒だし。

「結局、昨日から帰ってきませんでしたね。サイアスさん」
「うん・・・」

でもそれはお仕事に戻ってるから。自分のやるべき事。大切な事。
だけど終わったら、やっぱりもう帰ってきてくれないのかな?何だか胸の辺りがそわそわする。

「全く。まだそんな事を言っているのか?アイツは敵側なんだぞ!」

呆れたようなクレイの声。

「そ、そうですけど・・・でも悪い人じゃありません。監視してたのはお仕事ですし」
「うん、僕もそう思う。捕らえるならサイアスが行動を起こしたって良い筈なのに・・・」
「そうだよね!でも捕らえるどころか、クレイ救出の手伝いまでして貰ったし!
やっぱり悪いヒトじゃないと思うな、アタシも」

“ねー”ってリュウとニーナと顔を見合わせて言えば“底抜けのお人好し”だって返されちゃった。
大きく溜息をついたクレイにマスターが楽しそうに笑う。と、大きな扉?
それをクレイが開けたら強い風と同時に一気に辺りが明るくなる。うわぁ・・・何だか凄い。

「頂上だ」

一気に視界一杯に空が広がって。凄い、雲があんなに近い。

「うわ、高い・・・」
「わぁ・・大帝橋より高いですね!」
「う、うん。凄いねぇ」

風車の柱みたいな細い足場。下は・・・・ちらっと見て、すっごく高くて背筋がぞわってなった。
落ちたら死んじゃうよね、これ。当たり前だけど。ニーナだけ何だか楽しそう。

「あ。リュウさん、さん見てください!
あそこに翼のついた船があるでしょう?あれに乗って飛ぶのです!」
「あれに乗って・・・」
「飛ぶの?」

だって屋根とかない本当に小舟って感じの乗り物だよ?大丈夫??

「此処から更に上に行くと言うのか・・・?」
「はい!ラーウィ様は遙か上空にいますから。
これを打ち上げて、風に乗って高く飛べば風竜に会えると聞きました!」
「・・・・そうか」

笑顔のニーナにクレイが力なく頷く。そっか、やっぱりこれに乗らなきゃダメだよね。

「迷ってる暇は無いな。行くぞ」
「うん」
「そだね!」

主の事が何か分かるかもしれないんだから、こんな事で迷ってちゃダメだよね!
クレイの言葉にリュウと一緒に頷いて、乗り込──


「そこまでです」

ふと制止の声。誰が?見てみたら、爬虫類っぽい感じのヒトとマスクを被ったヒト達。

「逃げ切れるとお思いでしたか?」
「イゴーリ!」

クレイの叫ぶ声でそれがイゴーリなんだって分かる。あれがサイアスを雇ってるヒト。

「全く、仕方の無い方達だ。事の重大さが分かっていらっしゃらないようですね」
「ど・・如何して、此処に?」

信じられないって問うニーナにクレイは“サイアスが報せたんだろう”って。
多分、間違ってないと思う。だってそれがお仕事だから。

「俺達の後をつけて来たな?」
「・・・・あなた方は連合にとって非常にまずい事をした。
しかし、同時に帝国に対する切り札も手に入れましたね?そのリュウという少年、いや“竜”でしたか」

狙いは・・・・リュウ?

「そこまで報告済みか」
「如何でしょう?その竜を素直に引き渡すと言うのであれば、あなた方のした事を許して差し上げるというのは」

言葉に、反射的にアタシはリュウの前に立つ。絶対にリュウに手出しなんてさせない!
ヒトが神に手を伸ばそうなんて、そんなことが許されるはずが無い。

「何をバカな事を・・」
「そうですかな?あなた方とて風竜とやらに会いに行き、その竜の事が分かれば・・・。
それを元に帝国と取引するつもりだったのでは?」
「そ、そんな事しませんっ!リュウさんは私達の仲間なんです」

ニーナが強く叫んでくれて、仲間だって言ってくれて。それが凄く嬉しい。
あぁ、やっぱり大丈夫だって心から思う。このヒト達が一緒なら、きっとリュウは・・・。強く槍を握り締める。

「そうだよ、絶対にリュウは渡さないんだから!」
「仲間、ですか・・・下らない。
素直に渡さないというなら良いでしょう、少々手荒な方法をとらせて頂きます」

マスクを被った怪しい奴らがアタシ達を狙う。その両手には鋭い爪。
だけどそんなの全然怖くないんだから!リュウはアタシが主の元へお連れするのっ!!
アタシが受けた命を邪魔するつもりなら絶対に許さない!
ニーナとリュウを後ろにやって、槍を構える。


「ま・・・」


え?

「・・・・待て」

声?聞いた事のある。顔を上げて、屋根の上にいる長い犬・・・・・って、あれって。

「サイアスっ!」
「サイアスさん!!」

ニーナと一緒に名前を呼ぶ。何で?如何してサイアスがいるの?



inserted by FC2 system