第二章/08
「サイアス!?貴様、何故此処に・・!お前にはもう用は無い、失せろ!!」
イゴーリがサイアスにそう言ったけどサイアスは動かない。ただ袋を出してイゴーリへと投げた。
じゃらって重たそうな金属が擦れる音。・・・・もしかしてお仕事の報酬じゃないのかな?あれって。
「!?な、何のつもりだ?」
「・・・か。金・・は、返す」
「何故だ。この者達に加担するつもりか!?
信じられん、何の得にもならんというのに・・・何故だ!!?」
少しだけ静寂。サイアスはゆっくり首を横に振る。
「わ、分からない・・・ただ・・・」
ただ・・?
「そんな、気がした」
自信有り気に笑った。何だろう。胸がぽかぽかする。凄くあったかいのが広がっていく。
まるで主を想った時みたいに・・何でなのかな?分かんないや。
「──実に下らん。ならば貴様から消してやる!!」
「・・ぁ、サイアス!」
「危ない!」
「サイアスさん!!」
イゴーリが指示を出して、マスクの黒尽くめがサイアスに襲い掛かった。
サイアスはアタシ達と正反対の場所にいるからすぐに助けに行けなくて、ただ名前だけが口を突いて出た。
だけど・・・・・・
「ぅ、わ・・・」
素早い一閃。それに思わず声が漏れた。だって凄く綺麗な太刀筋だったから。
真っ直ぐに迷い無く伸びていって、あっという間にマスクの人達が地面に転がった。刀はもう鞘に納まってる。
「ルディアに歯向かうつもりか!この馬鹿犬め・・・!!」
イゴーリの言葉が虚しく響く。サイアスが柄に手をやると“おのれ・・!”って捨て台詞を残して帰っていった。
でも戦力の差は歴然。それにアタシ達だっているし。逃げる以外に選択肢は無いっていうのかな?そんな感じ。
「サイアス!!」
「サイアスさん!!戻ってきてくれたんですね!」
もう大丈夫ってリュウとニーナと一緒にサイアスに集まる。でも少しだけ困った顔。どうしたのかな?
「す・・すま・・・。イ、イゴーリ・・は、嫌な奴。でも、俺・・報せ・・・」
「良いんです。だってそれがサイアスさんのお仕事だったんでしょう?」
「あ、でも戻ってきてくれたんだよね?」
「そうだよ!」
皆で次々と言葉を重ねてって“ありがとう”って笑う。うん、やっぱりサイアスは優しいね。
折角お仕事して貰った報酬だって返しちゃってアタシ達の味方をしてくれた。何の見返りもないって分かってるのに・・・。
照れて困った顔になったサイアスにニーナとリュウと3人で笑う。サイアスはすぐ照れちゃうんだね。
「ホラ!お前達、追っ手が来る前にさっさと行くぞ!!」
「「「はぁーい!」」」
サイアスをからかってたらクレイの声。確かにまたイゴーリみたいなのが来られても困るかも。
何でか分からないけどマスターは楽しそうに笑ってる。
あの羽のついた船に乗るのはやっぱりちょっと怖い気もするけど・・・まぁ、大丈夫だよね?きっと。
「・・・ぁ」
そうだ。折角サイアスが帰ってきてくれたんだから、ちゃんと言わなくちゃ。
顔を上げたら丁度アタシの方を見てたみたいなサイアスと目が合った。それが何だか嬉しくて口元が緩む。
「おかえりなさい、サイアス!」
「・・・た」
また照れたような顔。ソレを誤魔化すみたいにアタシの頭に手が置かれて───
「ただい、ま・・・」
小さいけどハッキリ聞こえた声。何でだろう?その言葉が、何だかすっごく嬉しかったの。
また一緒にいられるのかな・・そう考えたら胸の辺りがあったかい感じ。変なの。凄く不思議で、でも嫌じゃない。
へらり。笑ってアタシも“うん”って言って、そのまま皆のいる船へと走った。
さっさと乗り込んで・・・・う。全員で乗ったら結構狭い、コレ。きゅうきゅうに詰め込まれて身動き取れないんだけど。
「それじゃあ飛ばしますよ!しっかり掴まってて下さいね!」
「・・・本当に飛ぶのか?これが・・・」
ぼそり。クレイが呟いたのが分かる。
ガコン
「ぇ?」
重たそうな音の直後、ゆっくり羽・・羽って言うかアタシ達が今まで立ってた所が回り始めた。
ぐるぐるってどんどん勢いが強くなって・・・・・ちょ、待って、何コレっ!?
「うわわわわわ・・・っ!!」
カチって小さく金具が外れる音。リュウの叫ぶ声と一緒に、勢い良く船が空へと打ち出された。