鳥篭の夢

第二章/09



風を切りながら船が空へと突き進む感じ。顔に直接ひんやりした空気がぶつかってちょっと痛い。
バサッて音がして風が緩んだから目を開けてみたら・・・・うわぁ、凄い!

「雲がすぐ近くにある!」
「うゎぁ」
「凄いな・・・」

風はさっきの勢いは無くて、まるで空を飛んでるみたいに風を受けてゆっくり動いてる。
船に繋がったロープだけが地上の方へ落ちてるのが見えた。なるほど。あんな風になってたんだぁ。

「えっと・・ラーウィ様は・・・?」

探すようにニーナが辺りを見渡してるけど竜みたいな姿はない。
・・・・ん、あれ?下に何かいる?リュウも気付いたみたいに下を覗き込んでるし。

「ね、もしかしてアレかなぁ?」
「うん。何かいる!」
「え・・・・きゃぁっ!!?」

突風?・・ううん、違う。下から上に吹き上げる風は多分ラーウィがこっちに来たから。
真横をゆったりと横切っていく、アタシ達とは全然大きさの違う姿。アタシ達の何倍もあるのにまるで泳いでるみたい。
大きな瞳がアタシ達を捉える。とても優しい瞳。

「ラーウィ・・?」

名前を呼んでみたら、その大きな瞳が緩く細まった。

「こ、これが風竜・・・」
「でかい!」

クレイは唖然としていた。多分、初めてみた大きさでビックリしたんだろうなぁ。
竜なんて皆姿形が違うんだからアタシ的にはあんまり気にならないけど・・・。


『良く来た』

まるで頭に響く声。

「これって・・」
「ラーウィ様の・・・声?」
「お、俺にも聞こえたぞ」

『来る頃だと思っていた。翼を持つ者よ、そしてアルカイの竜とそれを守護する者よ・・・』

「・・アルカイ?」

ラーウィの言葉。アルカイの竜──聞いた事のあるような気がする単語。ずっと遠い昔に・・・。
だけど守護する者はアタシの事だって分かった。アタシは守護する者。それは間違いない。

『私に聞きたい事があるのだろう?』

ラーウィの声がすぐ近くで聞こえる。振り向いたら・・・小っちゃなラーウィ?

「え、と。あれ?」
「な・・何?」
『私はラーウィの化身。この姿の方が話しやすかろう?』

ぽかぁんってしてるアタシ達にラーウィがそう言ってくれて漸く納得。
確かに大きいラーウィよりは話しやすいかもしれない。大きいとちゃんと聞こえてるか分かんないし。

「あ、あの・・ラーウィ様。私達、竜の事を教えて頂きたくて来たんです」
『ふむ。リュウが何者なのか・・・という事についてだな?
────リュウは我々と同じ存在。“うつろわざるもの”だ』

うつろわざるもの。神様。この世界の理。
それにニーナは何度か瞬いて首を捻った。

「普通の、人・・ではないと言う事ですか?」
『“竜”であり、お前達ヒトの言葉で言えば“神”に近いものであり、そして同時にヒトでもある』
「神・・・リュウがか!?」
「だけど、神様でもあってヒトでもあるって・・・半分こって事なんですか?」

信じられないってクレイの顔。それと不思議そうな顔をするニーナにラーウィは頷いた。
“今の所は”って言葉を続けて、それからジッとアタシへと視線を向ける。何だろう?

『ガーディアンよ。
記憶の有無に関わらず、守護する者であり神に近き位置にいるお前になら分かるだろう』
「アルカイの、竜の・・事?」
『そうだ。我々うつろわざるものはヒトによってこの世界へと召喚された者。
召喚したもの次第で神にも魔神にもなりうる存在だ。だが、アルカイの竜とは・・』
「・・・未だ定まらぬ者、だよね」
『その通りだ』

えっと、どうしてそんな事が分かったんだろう?別に何か思い出した訳じゃない。
でもどうしてか分からないけど知ってる。ガーディアンとしての記憶?本能?なのかな。

?」
「アルカイの竜。不完全な召喚によって未だ何者か定まらない存在。
何でかな?今、何となく頭に浮かんできたの。自分でも良く分かんないけど・・」
「つまり、リュウはその“アルカイの竜”だと言うのですか・・!?」
『如何にも』
「アルカイの、竜・・・・」

肯定するラーウィにリュウが口の中で転がすみたいにしてその名前を呼んだ。
アルカイの竜・・・アタシもちゃんとは覚えてないけど、でも教えてもらったんだと思う。ずっと昔の話だけど。

「まさか帝国はリュウを魔神にしてまた戦争を起こさせようとしているのでは・・!?」
「そんな・・・っ!!」

絶対無い・・とは言い切れないけど。でもそれはまだ分からないよね?
それにあたしの記憶だと違う気がする。魔神?戦争?違う、もっと愚かしいヒトの欲望。
何でって聞かれると答えられないけど、もっと違う何か。
でもラーウィにもそれは分かんないみたいで小さく首を横に振った。

『それは分からぬ。だがリュウよ、お前はまだうつろわざるものとして完全ではない。
完全になる為には召喚の地へ行かねばならぬ』
「召喚の地・・?」

初めて聞いた。そんなのがあるんだ。だって主はで召喚されたのに。
・・・・・ん、あれ?何処だったっけ?ちゃんと覚えてない。まだ思い出せない記憶。酷くもどかしい。

『召喚を司る一族の村。その村を訪ね、自身の事を・・・うつろわざるものの事を知るが良い。
リュウよ。そして記憶を失くしたガーディアン、よ』

アタシの名前も知ってる。ガーディアン・・だったっけ?何だかしっくり来る単語。
それを知ってるって事はもしかしたらラーウィはアタシの事をもっと何か知ってるのかな?

「お待ち下さい、ラーウィ様!私達は一体如何すれば・・・っ!!」
『良いか、ニーナ。我等はこの世界で神と成る程の力を持つ。
しかしその力をどの様に使うかはお前達が決める事だ。何故なら此処はお前達の世界だからな。
今は唯、知る事だ。お前達はもう関わってしまったのだから』
「ラーウィ様っ!!」

ラーウィの化身だって言ってた小さなラーウィが消える。まるで空気に溶けちゃうみたいに跡形も無い。
瞳を閉じていた大きな方のラーウィがゆっくりその瞳を開けてアタシ達を見る。


『さぁ、その地へ案内しよう。若き竜よ!』


「ゎっ!?」
「きゃっ!ロープが・・・!!」

ブツン
ラーウィが身を翻して起こった突風でロープが切れ・・・・って、えぇっ!?ロープが切れた!!?
え、ちょっと待ってそれって案内するって言わないと思うんだけど・・っ!!

「ラーウィ・・待っ!!」

それにアタシはまだ訊いてない。アタシの事も、主の事も、思い出せない事何も・・・。
ぐんってラーウィが船を遊ぶみたいに運んでいく。凄い揺れ。それ以上何か言ったら舌を噛んじゃいそう。


「待ってください!僕が会いたいヒトの事を────っ!!」


リュウの言葉。クレイが“墜落する”って叫んで、後はもう言葉にならない叫びとかそんなのだけ。
ただ悲鳴を上げて落ちていく感覚。一瞬だけ身体が浮くみたいな感じがして、それから温かい何かがアタシを包み込んだ。
何だろう?分からないけど、直後の衝撃にぷつんって何かが切れたみたいに目の前が真っ暗になったのは分かった。



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