第二章/15
がつがつ。ばくばく。もぐもぐ、ごくん。ズルルルー。
全部ディースの食べてる音。本当に凄い食べっぷりで見てるだけで圧倒される位。
身体はリームのだから小さいのに・・・・うーん。あの量、何処に入ってるんだろ?
「良く食うな・・・」
「んぐ。食べるの久しぶりだからね」
クレイの言葉に、無理やり口の中の食べ物を飲み込んでディースが答える。
久しぶりだからかぁ。うーん、それでもそんなに食べるかな?
アタシは・・・・アタシは、如何だろう?ご飯は好きだけどあんまり食べるイメージは無いや。何でだっけ?
ガーディアンだから?うーん、分かんない。最近は用意してくれてるからちゃんと食べてるし・・・。
ん、最近は?じゃあ昔は如何だったんだっけ?
ごっくん。
ディースが食べ物を飲み込んだ音で我に返る。
また・・・思い出せないのに考える。昔もこうだったのかな?
昔・・?昔も同じ事があった?分かんないけど、主を思い出したいから些細な情報でも欲しい。
「ま。神様とお話しするってんだから、こん位のお供え物は用意してくんないとね」
げぷ。って行儀悪くげっぷする。
だけどそのまま次に手を伸ばして・・・だ、大丈夫なのかな?そんなに食べて。
「では、話してもらえますか?あなた達の事を・・・」
長老さんの言葉。それにディースは真剣な表情になって頷いた。ちょっとドキドキする。
「そう・・・だね。あたしとリュウはヒトではない。うつろわざるもの、さ。
あぁ、ところであんた等はうつろわざるものって何だか分かってる?如何、ヒヨコちゃん」
「えっと、あの・・・この世界に召喚された、竜とか神とか呼ばれる者達の事・・・ですよね?」
「そう。何だ、知ってるじゃない。やるね、ヒヨコ」
唐突に訊ねられて慌てながらニーナが答える。それにディースが満足そうに笑った。
でもそれはアタシだって知ってる。竜は理。そして神・・・確か、主がそう言っていたと思う。
と、ディースの目線は今度はクレイに向いた。
「あたし達はそうやって別の世界から此処へ呼ばれてくるんだけど・・・。
何の為に呼ばれるか分かるかい?トラちゃん」
「い、いや・・・」
「ふーん。じゃあ、この世界が大きな船だとして・・風が吹かなければ船は如何なる?」
的確な例えだと思う。船は──
「動かない・・?」
「そう。トラちゃん、あたし達は世界を動かす風みたいなモンさ。
・・・で、その風を好きなように操る事が出来たとしたら?」
「世界は召喚したヒトの思いのままになっちゃう・・・だよね」
「そういう事さ、ウサギ」
思わず言葉が出て、でもディースは気に留めないで返した。
これで間違ってたら恥ずかしかったけど・・でもこの答えしか出てこないもんね。ホッとはしたけど。
でもいい加減“ウサギ”はやめて欲しいな。アタシには“”って名前があるのに。
「だから召喚の術はこの地の外では禁じられている。
その召喚の禁を破り、あなた方を召喚したのは一体・・・!?」
長老さんの言葉に、難しい顔をしながらディースは手に持っていたお肉に噛り付く。
って、まだ食べるんだ。お腹大丈夫なのかな??
「──確かに、あたしとリュウは此処ではない所で召喚された。
あたし達を召喚したのはフォウ帝国さ・・」
「帝国が召喚の術を!?」
ディースの言葉にクレイが驚いて言葉を挟む。
帝国・・フォウ帝国。やっぱり何度聞いても懐かしい。東にあるものじゃなくて西の方がそう感じてる気がする。
でも大帝橋以外は見覚えが無かった。それは単純に切っ掛けが足りないってだけなのかな?
「帝国は独自のやり方であたし達を召喚したんだ──でも、それは不完全だった。
不完全なまま召喚されたあたしは実体化できずに鎧へ封印されたし・・・。
リュウ。アンタは召喚された時に二つに分かれてしまったのさ」
「二つに・・・」
分かれてしまった・・・?そうだ。アタシは知ってる。最初から知ってた。
リュウが二つに分かれていた事。だって・・そのもう片方は・・・・。
「リュウが何処かにもう一人いるという事なのか?・・・まさか、帝国の何処かに?」
「そうさ。でもリュウと分かれた半身とは場所だけじゃなくて時間もずれてるからね」
「時間・・・ですか?」
ニーナの不思議そうな顔。時間・・そうだったかもしれない。昔の事は思い出せない。でも、遠い遠い記憶。
アタシの有するソレは、数年前とかじゃなくて本当にずっと古いものだったような気がする。
「まさか・・その、リュウさんの半身ってひょっとして・・・・」
長老さんは何かに気づいた口ぶり。
「じゃあもう一人は誰なんだ・・・!僕の半身は・・・っ」
リュウの必死の声。
アタシは知っている。本当は知っている。ずっと思い出せなかったけど・・・それは・・・・
「。あんたは分かってる筈だね。
まぁ、記憶喪失みたいだから思い出せてないとは思うけど。それでも記憶に無くたって理解している筈。
ガーディアンであるという事はそういう事さ。主を守護し、主に生命を捧ぐ存在」
「が?」
「そうさ、リュウ。良くお聞き。
あんたと分かれて召喚されたもう一方の神・・・つまり、あんたの半身は──」
リュウの半身様は、アタシの主。
「フォウ帝国、初代皇帝。神皇フォウルだ」
「「フォウル」」
リュウとアタシの声が重なる。だけど、それよりももっと頭がくらくらした。
嬉しくて。苦しくて。申し訳なくて。色んな感情がごちゃごちゃになって仕方ない。
主・・ううん、フォウルの名前にじんわり涙が滲んだ。
ねぇ、分かったよ。ちゃんと・・・名前、分かったよ。フォウル、ごめん。ずっと忘れててごめん。
まだ名前だけだけど、分かったから。自分で思い出したんじゃないけど、でもちゃんと分かったから。