第二章／１６
「──･･･こうして、あんた達は別々の時と場所で目覚めた。
やがて二人はひとつになる運命──完全なる神となって帝国の為に力を使うべきなのさ」
ディースの話で少しだけ思い出した。御伽噺のような物語だけど･･･でも、思い出せた。
まだ記憶は靄がかかったみたいになってる。
フォウルの姿形も思い出せない。どんな風に暮らしてたかも分からない。
だけど何も知らなかった時とは違う。その時よりもずっとずっと思い出せてると思う。
最も大切な事。アタシの受けた命。リュウを帝都に･･･フォウルの元へ無事にお連れする事も。
「さん」
話を聞いてる間。ぼろぼろと涙が止まらなくて、気づいたらニーナに抱きしめられてた。
泣き止まなきゃって思うのに･･･何でかな？自分じゃ止められない。
悲しくないのに流れる涙。混乱してる。感情がごちゃ混ぜになってて、良く分かんない。
「うん、平気だから。ごめんねニーナ」
「あ、いえ･･」
心配させちゃったから謝って、出来るだけ笑う。
あれ？そういえばディースの心の中でも･･あ、いやアレはマスターのだっけ？どっちか分かんないや。
でもとにかく心の中でも心配させちゃったよね。アタシって本当にバカだなぁ。全然成長してない。
「ちょっと待ってくれ･･！先程、帝国に力を与えるべきだと言ったな」
「ああ、そうだけど？」
クレイ？如何したんだろう、そんなに慌てて。
「帝国が神の力を手にしたら、また戦が起きるぞ！そんな事が許されるものか！！」
叫ぶ言葉。あぁ、そっか。今はまだ一時休戦みたいな状態なんだっけ？
だったら力を手に入れたら攻め時だもんね。戦争が起こるのは確かに嫌だな、アタシも。
「怒鳴っても仕方が無いんだよ、トラちゃん。
あたし達神様は召喚した者に力を与えるものなんだから」
「ヒトの願いを叶えて、その後も神様として世界を見守る者だから？」
「そういう事さ」
アタシの言葉にディースが頷く。だからヒトが争いを望むならそうするの？本当に？
フォウルに皆が望んだのは争いだった？････違った気がする。望んだのは争いの無い平穏。
それを実現する為に結果として争ったけど、でもようやっと国を纏めた筈なのに。
「どうして争いが終わらないのかな？
あの時、国を纏める為に帝国を作って、それで戦争を終わらせた筈なのに･･･」
遠い昔。あの頃、確かに平穏は訪れた筈なのに。
「さてね。あたしにはヒトの事なんて分からないよ。
何を考えてるのかも、何がしたいのかも･･･ね」
「うん。そうだよね。アタシにも分かんないや」
もしかしたら誰にも分かんない。色々な願いや思惑がある。
世界中に色んな性格のヒトがいる。今に満足してるヒトもしてないヒトも、欲が大きいヒトも小さいヒトも。
この世界に全く同じヒトなんていない。だから、それが入り混じって今みたいになってるんだよね、きっと。
「･････じゃあ」
「ん？」
ずっと考え込んでたリュウが口を開く。俯いたまま悩むみたいな。
「フォウルに会ったら僕は･･･」
「──吸収されちまうだろうね」
「え？」
吸収？それは、リュウがいなくなる･･って事？
「吸収って･･！？」
「“リュウ”だったものが“フォウル”になるのさ。
そしてフォウルは神として完全になる。それでもあんたは半身に会いたいと思うかい？」
「･････ッ」
「リュウ」
「リュウさん･･･」
ニーナとほぼ同時にリュウの名前を呼んだ。心配だから。すごく深刻な顔。
ディースからの問いの答えは出てこなくて押し黙ったまま。
「ふあぁ～」
今の空気をぶち壊すみたいな場違いな大欠伸。ディースの。
「ま。自分が消えるかもって分かりゃ、そりゃ決心も鈍るかもね。
明日までにその辺決めておくれよ。あたし寝るから」
ごろんって横になって･･あれ？ディース！？
「ちょ！寝ちゃうの！？」
「そ、そんな話の途中で･･･ディースさん～っ！！」
身体を揺するけど聞こえるのは寝息だけ･･･って寝るの早っ！！？
ニーナと一緒に顔をあわせて思わずため息をつく。だってまだ聞いてない事もある･･よね？
ガタン
物音。それを目で追ったらリュウが部屋から出て行く姿。
「リュウ？」
返事は無くて、そのまま扉は閉まっちゃった。残ったのは静寂、というかディースの寝息だけ。
あ、でもあんな風に言われたら考え込んじゃうよね。普通は。
それにしても、吸収･･･だったっけ？ひとつになるっていうのは。それは何だか違う気がする。
アタシはどうだろう？アタシも、もしフォウルの力から作られたんだったら吸収されるのかな？
怖い？ううん、そんな事無い。それは違うって思ってるから？確証がないから？
分かんない。だけど･･･アタシはあたしとひとつになる事は恐れない。勿論、あたしだって。
･･････ん？今、良く分かんない事を考えたような気がする。アタシがひとつになる？
アタシはアタシなのに？んー････変なの。