第二章/17
「でも、あの・・・」
不意にニーナが口を開く。考えるみたいにこてんって首を傾げた。
「リュウの半身がフォウ帝国の初代皇帝だって言うのは分かったんですけど。
その方、とっくに亡くなってますよね・・・・?」
「いや。彼もうつろわざるものだったとしたら、そう簡単に死ぬ事は無いよ」
「うん、生きてるよ。フォウルはずっと眠ってただけだから」
「さん、思い出されたんですか!?」
驚いたニーナの顔。それに曖昧・・っていうのかな?一応だけど頷く。
だってまだまだ思い出せてない事は沢山あるから。
「少しだけど・・でもフォウルの名前を聞いたからかな、アタシ的には結構思い出したと思うんだ」
「わぁ!良かったですね、さんっ!」
ぽんって手を叩いて手放しで喜んでくれるニーナにアタシも嬉しくなる。
えへへ。何だか照れちゃう。多分、今のアタシって間抜けな笑顔になってるんだろうなぁ。
「あ、でも初代皇帝はずっと眠ってたんですよね。
そうしたらさんは初代皇帝さんと何時会われたんですか?」
「ん、と。ずっと昔・・かな。フォウルが召喚されたのが何時なのか分かんないし、覚えてないけど。
でもそれ位から一緒にいたような気がする。アタシはガーディアンだからフォウルが眠ってる間は寝所を護ってたの」
護ってたって言うか一緒に寝てたんだっけ?良いように解釈してるかも・・・ま、良いか。
「ガーディアン・・ですか?そう言えばラーウィ様もさんをそう呼んでましたね。
それに先程もディースさんが、ガーディアンだからリュウさんの半身の事が分かるって」
「あ、うん。えっと、ガーディアンは主に力を貰って存在する者・・・だったかな。
アタシはフォウルに力を貰ってるから、それで存在が近いから分かるって事だと思う。
それにずっと一緒にいたから・・・あ、後。ガーディアンってヒトじゃないんだよね」
「そ、そうなんですか!?」
驚くニーナ。クレイも言葉に出さないけど、信じられないって顔。
「え?じゃ、じゃあさんも神様・・・という事になるんですか??」
「あ!そうじゃなくて、その神様を護る為の存在なの。
強い力とかは無いけど多分ヒトよりかは丈夫に出来てるんじゃないかな?」
「そ、そうだったのか。まさかそんな者がいるとはな・・・」
呆然としたクレイの言葉。そんなにビックリする事かな?
あ、でもリュウも驚いてたっけ。皆には話してなかったし・・言っておけば良かったのかも。
だけど此処の人達は普通にアタシを“ガーディアン”って呼んでた気がするんだけど。
「んー。でも長老さんもガーディアンは知ってたし、普通にいるんだと思ってた」
「いや、実はあまり存在しないんだ。伝承や文献には残っていたりするから知識はあるけど。
竜は神が願いを叶えた後の姿。そしてガーディアンはその神が力を分けて形作った存在。
だから大抵は竜になる時に力に戻してしまう事が多いし、そもそも使役を好まない神も多かったからね」
「ふーん。そうなんだ」
力を分けて作り出した・・・かぁ。じゃあアタシもフォウルの一部だっけ?如何だっけ?
ちゃんと思い出せないなぁ。やっぱりちょっともやもやする。大切な事をまだ忘れてるような、そんな感じ。
ちらり、ニーナ達を見る。少しだけ動揺したみたいな顔。
流石にちょっと申し訳なくて、同時に“ごめんなさい”って感情。
「あの・・ニーナ、クレイ」
2人の名前を呼ぶ。謝らなくちゃって・・如何してかな?そう思う。
「ゴメンね。ヒトじゃないってちゃんと言ってなくて。
でもアタシはアタシだから!それは変わらないから・・・あの・・・」
「はい、大丈夫です!それは分かってますよ、さん」
「そうだな。お前がガーディアンだからといって何か変わる訳じゃないんだろう?」
え?んー・・・
「多分?」
「多分って・・・、お前な」
クレイの呆れた様な顔。それにアタシは笑って返す。
「冗談だよ。アタシはアタシだって言ったでしょ?
そだ!アタシちょっとリュウのトコに行って来るね!やっぱり気になるから」
「あ、はい。分かりました」
ニーナが笑顔で頷いてくれたのを確認してアタシは部屋から出た。
っと、すぐ近くに誰かいる?視界の端に気配と影。見てみたら・・・サイアス?壁にもたれる様に座っている姿。
「あれ?サイアス、如何したの?」
訊ねたら落ちてた視線が上がってアタシを見た。相変わらずサイアスの目は見えない。
けど、真剣な空気に心臓がドキドキする。如何してなのかは分かんない。
・・・・あ、そうだ。サイアスにも言わなくちゃ。もしかしたらさっきの聞こえてたかもしれないけど。
「あ、の・・」
あれ?何でかな?言葉が咽喉に引っかかって上手く出てこない。
「あの・・ね、サイアス」
さっきはずっと簡単に言えたのにな。変なの。
「あのね・・もしかしたら聞こえてたかもしれないけどね。
アタシ、本当はヒトじゃなくてね。それでね・・・」
声が震えそうになる。どうして?
嫌われるの、怖い?拒絶されるの、怖い?
嘘だ。そんな事無い。だってアタシが本当に怖いのはフォウルに嫌われる事だけだもん。
だからそれ以外は平気だし如何だって良い筈なのに・・・・。
ぽん。頭に、大きな手。
「・・・サイアス?」
「う・・・上手く、言えない。けど、は・・・何だろうと、だから・・」
「あ・・・」
すとん。心が一気に軽くなる。不思議な感覚。
一生懸命なサイアスの言葉。あんまり喋るの得意じゃないって言ってたのに、それでもそう言ってくれた。
さっきも自分で言った事だけど、やっぱり誰かに言ってもらうと違うのかな?良く分かんない。
でも、ほわほわする。何時だったかと同じで胸の辺りがあったかい。
「ありがとう!サイアス!!」
勝手に笑顔になる。嬉しくて仕方なくて・・・えへへ、理由は分かんない。
けど分かんなくても嫌じゃない。それ位、嬉しいって気持ちが溢れてる。
見ればやっぱりサイアスは照れたみたいに顔をちょっと横に向けた。
「べ、別に・・・」
“お礼を言う事じゃない”って事なのかな?でも本当に嬉しかったんだもん。
だから、気にしない気にしない!ぎゅうって一度サイアスに抱きついたらビックリしたみたいに身体が硬直。
「本当にありがとう!アタシ、いっぱい元気になっちゃった。
じゃあこのままの勢いでリュウのトコに行って来るね!!」
サイアスが頷いたのを確認してリュウを探しに走り出す。
そういえば、さっきサイアスの顔が赤かったような・・・?ま、気の所為だよね。だってサイアス毛皮だし。