鳥篭の夢

第二章/21



「此処なのかな?」

埃まみれになった服を手で叩く。何だか凄く大変だった。
だって神殿の中はボロボロだし、ディースはアタシ達みたいに動けない。
まぁ、それはリームの身体を借りてるんだから仕方ないんだろうけど。

「ねぇ、ディース。竜の気も強いし此処で良いんだよね?」

確認しようと思ってディースを見ると、じっと黙り込む姿。
あれ?違ってたかな?もっと気が強く感じられる場所があるとか?

「ね、ディース?」
「ん?あ・・あぁ、此処がうつろわざるものを召喚する祭壇のようだね。
確かに神の・・・竜の気が強い。此処なら竜達と話が出来そうだ」

如何したんだろ?変だなぁって思いながら何気なく視線を向けたらリュウと目があった。
リュウもやっぱり不思議そうな顔。何か変だよね?ディース。
言葉にはしなかったけど分かってくれたみたいで首を傾げたアタシにリュウは頷いた。

「う・・ゎ・・・」

ぞわぞわする感覚。ディースの詠唱が進むにつれて、その感覚が増していく。
強い力。世界中に散らばって均衡を保っている筈のソレが近づいてい来る。


「来た」


大きな光が祭壇に落ちて、それと同時に竜・・だよね?ヒトとは違う姿と力。
あ、良く見たらラーウィも小っちゃい姿でいる。えーっと、確か“化身”だったっけ?
じゃあ他のもやっぱり竜だよね。同じように化身で来てるって事になるのかな?

『我々を呼んだのはお前か?若き竜とガーディアン・・そしてディースよ』

率先して喋ったラーウィに、ニーナが小さくその名前を呼んだ。

「そうさ。此処なら出てこられると思ったよ。
草竜、海竜、岩竜、砂竜、樹竜、泥竜、そして風竜・・あんたら、この世界の竜だろ?」
『いかにも』
「あんた達を呼んだのは他でもない、この生まれたてのピヨピヨのリュウちゃんの事なんだけどさ」
「ピヨピヨ?」

って、リュウはヒヨコじゃないと思うけど。言葉にする前に泥竜・・ノストが僅かに光る。

『リュウ・・アルカイの竜。未だ定まらぬ竜・・』
「そう。定まってなくて力も弱い。
だからフォウルに吸収されないよう、あんた達古い竜の力を貸してやって欲しいんだ」
『・・残念だが、ディースよ。不運にも身体を持たぬまま召喚されし者よ。
リュウがフォウルと出会う事はさだめ。ガーディアンの存在に彼の者が目覚め動き始めた事は知っていよう。
それは大きな光の流れとなり──小さな流れを押し流してしまうのも、また“さだめ”だ』

静かなジュナーの言葉。さだめ・・・そんな言葉で片付けて良いのかな?
そんな単純な事なのかな?アタシには分からない。けど、何だか嫌だ。

「・・・ッ馬鹿だね!そうなると困るからわざわざお願いしてるんじゃないか!」
『しかしディースよ。我らうつろわざるものはこの世界にとって中立である筈。
そして神としての務めを果たした後、竜となって世界の行く末を見守るのがさだめ。
ならば、どちらが神になっても良いのではないか?』
「あーもうっ!さだめ、さだめ・・って同じ事ばっか言いやがって。
あのさぁ、あんた等は世界の営みを安定させる為に呼ばれたんだろ!?
だったら今のフォウルの神気を感じて何も気づいていないとでも・・・!?アレが今、この世界に抱いている感情を──!!」

フォウルが世界に抱いている感情。分かる。何でかな?凄く近くに感じられる。
決して良くはない想い。それはアタシがガーディアンだからなのかもしれない。
リュウは・・・リュウは多分、もっと強く感じている筈。アタシよりもずっと。
ニーナとクレイが不思議そうにしていたけど、答えようとは思えなかった。

『フォウルが今、何を感じて如何しようと思っているのかは定かではない。
しかし・・・少し先の未来、世界が良からぬ方向へ向かう可能性は否定出来ぬ。
アルカイの竜。未だ定まらぬ者。お前がその分岐となるか・・・?』

ラーウィの言葉。同調するように周りの竜達も光を帯びた。綺麗な光。
リュウは何も答えない。だけど、それでもラーウィは理解したように頷いた。

『・・・・良かろう。彼の者に対抗しうる力、我等の力を与えよう。若き竜よ──』

ぞわり。強い力。それが集まってリュウに一気に流れ込む感覚。
立ち竦むみたいなリュウに、その力が本当に強いものなんだって事が良く分かった。

「あんた達は神として召喚された時、元の世界に戻ろうとは考えなかったのかい?」

他の竜達はもう消えてて、僅かに形が見えるラーウィにディースが問う。
元の世界?それは此処じゃない場所。召喚される前の元々の世界、だよね。
それにラーウィは小さく首を横に振った。

『それはディース・・お前の嫌いな“さだめ”というものだよ』

言葉と同時にラーウィの姿が消えて・・・さだめ、かぁ。
それに縛られてる神様──竜。

「さだめ・・・か。連中だって好きで召喚された訳じゃないだろうに、ね」

ディースの言葉。好きで召喚された訳じゃない。ヒトの意思で強制的に呼ばれたって事?
リュウもフォウルもそうなのかな?見たら、まだ呆然と立ち尽くしてて・・・だ、大丈夫?

「リュウ?平気??」
「大丈夫ですか?リュウさん」
「あ、あぁ。うん・・大丈夫。ありがとうニーナ、

生返事。何だか戸惑うみたい。あ、でも急に力を手にしたらそうなるのかな?
とても強い力。アタシだって本当に強く感じた位の力だから。

「とりあえず力は手に入れたけど、使い方は自分で覚えていかないとね。
ま、流石にあたしもサポート位はしてやるけどさ。
赤ん坊が突然強力な武器を渡されたようなもんなんだ。気をつけておくれよ?
“過ぎた力は身を滅ぼす”・・・・なーんて事のない様にさ」

脅かすみたいななディースの言葉。それにリュウは強く頷いた。

「それに──」

それに?

「リュウちゃんには頑張って貰わないと!
全部終わったらあたしを元の世界に帰してもらうんだから」
「え、そうなの?」
「ディースさん、帰ってしまうのですか・・・?」
「早くこの世界からオサラバしたいもんでねっ!」

腰に手を当てて、ディースはため息を吐く。そんなにこの世界が嫌なのかな?
考えてたら、ニーナも同じ事を考えてたみたい。
おずおずと“そんなにこの世界が嫌か”って訊いて、そしたらディースは横目でニーナを見た。

「もし訳の分からない世界に突然連れて来られてだよ?
“此処の神様になってください!”・・・って言われたら、あんたどーするよ?ヒヨコ」
「・・・っ!」
「誰だって自分の家に帰りたいって思うさ」

“自分の家”・・・そっか、そうだよね。普通はそう考えちゃうよね。
アタシにその実感がないのは記憶が無いからなのかな?それともフォウルの一部かもしれないから?
分かんない。覚えてないし言われるまでそんなの考えようとも思わなかった。
ニーナは悲しそうな顔でリュウにも帰りたいのかって訊いて・・・。

さんも?」

それからアタシにも同じ問い。
でも分かんない。ごめんね、ニーナ。アタシ、分かんないの。



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